見出し画像

僕らはいつまで場所にしばりつけられているのだろう?

Appleが新しいデバイスを発表した。

一見すると、誰もがVRゴーグルの新型だろうと思うに違いない。

けれどもAppleは、それをARゴーグルとは呼ばなかった。

空間コンピューティングという呼び名で紹介したのだ。

トムクルーズの映画『マイナリティ・リポート』では、目の前の空間に様々なスクリーンが浮かび上がり、ダンスのパフォーマンスのように両手でスクリーンを自在に操るシーンに驚愕した。

いつかそんな未来がやって来ると誰もが夢想したことだろう。

マイナリティ・リポートより

いや、もうやって来たのだ。

サンタはクリスマスでなくても街にやって来る。

しかも、あんなに大きな所作すら必要とはしない。指を軽く動かすだけで視線を少し変えるだけでそこに任意のサイズで画面が浮かび上がるのだ。

腰痛持ちの僕はパソコンやテレビが面倒くさいと思うことが増えた。

ちゃんとした姿勢で画面と向き合うのがしんどい。

空中にふわっと座れればいいのにと何度思ったことだろう。

スマホやタブレットは便利だ。好きな姿勢で操れる。

だけど、文字を打つのは面倒だ。

音声入力をしても文字変換がわずらわしい。

僕らはいつまで物理的制約にしばられているのだろう?

読書が趣味の僕は、部屋中に本が積み上げられている。

それなりに整理はしているのだけど、集中力が続かない僕は一冊の本をずっと読み続けることが難しい。

読んでいるそばからいろんな考えが浮かんできては、他の本に手を伸ばす。気がつくとそこらじゅうに開いた本がお花畑で飛び交うチョウチョのように散乱し、林立する棒グラフのようにいくつも本の山が出来上がる。

それを崩しながら、また別の山ができあがってしまうのだ。

こんな時、もしこの本が紙の本のような質量で電子的に扱えたらと夢想する。

電子書籍と紙の本は違うと僕は思う。

軽くていつでもどこでも読める電子書籍は僕にとっては文字データの集まりでしかない。

紙の本には重さがある。全体のページに対してどこまで読んだか直感的に把握できる。思いついたらすぐに書き込める。ページを見比べられる。

これらのことは電子書籍でも近いことはできる。

重さはともかく、装丁も見られるし、ページ量も数値で表示されるし、ペンや指で書き込めるし、複数の端末で読み比べもできる。さらに言えば、文字サイズやフォントも変えることができるし、引用だって簡単だ。

でも、でもである。

やっぱり紙の本の重さやフォントのばらつき、紙に書き殴るペンとの相性というものは物理的制約がないと感じられない。

だから紙の本を扱う感覚はそのままに、現実の本棚ではなくバーチャル上の本棚からサッと取り出せたらスペースを気にせず私的図書室を構築できるのにと思うのだ。

現実には6畳しかない部屋でも、最低限の家具(というかイスやベット)さえあれば、あとは好きな姿勢で本を読み、動画を楽しみ、パソコン作業ができる、空間コンピュータとはそういう世界なのだろう。

そのうち文字入力ももっと簡単にできるようになるはずだ。

スマホの文字入力すらまだまだストレスを感じるけれど、キーボードで打つ人よりも圧倒的に利用者が多いのは楽だからに他ならない。

楽なものと分かれば利用する人は増え、生活スタイルすら変わってしまうことを僕らはこの数十年で散々体験してきた。

今回Appleが目指しているのは、単なる新しいデバイスではなく、我々の生活そのものを変える革新的なひみつ道具なのだと思う。

YouTubeが変えたものはテレビを見るという生活習慣そのものだ。サブスクも当たり前になって、同じ番組を見ているという感覚は今の若者には無い。

僕の親は相変わらず毎週同じテレビ番組を見て、ネットでバズった少し遅れた話題で騒いでいるけれど、即時性のニュースはともかく、昔は僕もそうだったよなと実感せざるを得ない。

新しいものは簡単には受け入れられない。しかし、ひとたび受け入れられると戻ることはない。

昔の知的情報術を今の人が読んだら笑ってしまうだろう。

ファイリング方法、カード分類法なんてアプリで済んでしまう。今は何でもクラウドで無制限に保存できるし、新聞や雑誌を切り取ってノートに貼り付ける行為は、スクショで終わりだ。

手間がかかっていない分、記憶に残りにくいことはあるだろうけど、それは慣れでしかない。

分からないことはChatGPTに聞けばいい世代にハサミと糊の使い方を言っても聞いてはくれない。

時代とはそういうものだ。

昔の殿さまが僕の生活を見たら、どんな金持ちなんだとびっくりするに違いない。

好きな本を読みたいだけ読み、聴きたくなった音楽を垂れ流し、暑くなったらエアコンを点け、最低限の衣食住が保証されている。昔の人から見ればごちそうレベルの食事を大して感謝することもなくただ口に運んでいる。

どんなに娯楽に囲まれていても、更なる刺激を求め、明日も仕事かと嘆く(笑)

快適な生活にどこまでも貪欲で、毎日をかこつ。

場所という制約から解放された時、僕はアバターとなって病院のベッドで静かに眠るだろう。

胡蝶の夢は、デジタル本の畑でこそ実現する。

スキはログインしていなくても押せます!ワンちゃんでも押せるほど簡単です。励みになりますので、ここまで読んでくれた記念に押して下さい。いくつになっても勉強は楽しいものですね。サポート頂いたお金は本に使いますが、読んでもらっただけでも十分です。ありがとうございました。