「円環を捻る」 パイロット版・冒頭

 学校帰りにマウンテンバイクでいつもの激坂を駆け上がり、いつもの公園のいつもの高台から街を見下ろした。夕暮れ時のこの時間のここの景色は街が夕陽に包まれて綺麗で、帰りにここに寄って自販機のコーラを飲みながらボォーッと景色を眺めるのが日課になっている。

 こうしていると、不思議と心が休まる。ここには人がほとんど立ち寄らず静かだ。授業中も騒がしい教室とは打って変わり、ここは一人落ち着ける。一人の時間…それが得られるのは、ここに居る時だけ。僕は一人が好きだ。だからいつもこうして一人になりたくてこの場所に訪れる。

 夕陽がずんずん沈む。街の建物の影に顔を隠しながら、まるで消える直前の蝋燭が最後の瞬間を迎えた時の様に朱色の眩い輝きを放っている。座り込んだ階段の真下にある川にその光が反射して、より一層の眩しさが辺り一面を染め上げた。

 

 「空はいいよな…」

 夕焼けの空を見上げながら、そう独り言を小さく溢した。空は広い。至極当たり前の事だが、僕はそれに憧れを覚えた。どこまでも自由で、どこまでも果てしなく続いている。こんな狭っ苦しい地上なんかとは大きく違う。何者にも邪魔されない、終わりのない世界。そんな世界に、僕は行きたい…。その為の翼が欲しい。


 夕陽はどんどん沈んでいく。朱色に染まっていた夕暮れは、次第に深紫色に移り変わっていく。

「そろそろ帰る…かな。」

 そう呟き、コーラを飲み干して空いたスチール缶を握り潰す。そして自販機の横に設置されているゴミ箱へと放り投げた。空き缶は宙で放物線を描き、今日は見事にゴミ箱へとホールインワン。真ん中にキレイに入った。運が良い…今日の晩御飯はカレーライスかな。

 マウンテンバイクのスタンドを上げてサドルに跨り、ペダルを強く踏み締める。そしてさっきは汗をかきながら必死こいて登ってきた坂を、今度はノーブレーキで風を切って勢いよく駆け降りた。


これは、僕が居場所を見つける物語。

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