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【3人声劇】天狐にお任せ!4

■タイトル:天狐にお任せ!4


■キャラ

天狐:狐の姿をした神様 性別 女

わがままで自信家であり、怠惰な生活を送っているため、信仰心で保たれている体はよく透ける

Vtuberを副業でたしなんでおり、定期的に神主フラする配信が人気を集めている

登録者は45万人


イザナミ:女

黄泉の国を治める女王、別名黄泉津大神(よもつおおかみ)

ヒステリックで唐突に切れるが、神らしくすさまじい力を持っている


黄泉神(よもつかみ):性別自由

イザナミが来るまで黄泉の国を統治していた神

平和主義でほわほわしている

神主と兼ね役


神主:性別自由 台本上は男

天狐を神様として祀る天狐神宮の神主

黄泉神と兼ね役


※事戸:親しい者や近親者、夫婦などが、縁を切る際に相手に伝える呪言


――――――――――――――――――――――――――


(真っ暗で周りがよく見えない空間で、天狐は目を覚ます)


天狐:んん…なんですか…ここ…スンスン…くさっ!?

なんかネトネトするし…私はなんでこんな場所に…

はぁ…暗いなぁ…痛っ

(天狐が壁にぶつかる)

…いたた…壁?岩?何ですかこれ…邪魔ですね…ふんぬっ!!…動かない…ただの岩のくせに!!


黄泉神:それは、千引(ちびき)の岩だよ


天狐:うわあああああ!?何!?誰!?誰ですか!?


黄泉神:あ、驚かせちゃった?ごめんごめん

神は久々だからさ…舞い上がっちゃって

その岩はいかに強い神力を持っていようとも動かすことは叶わないよ

…この国の主宰神(しゅさいしん)の力を持ってもね


天狐:…あ、あなた、これを千引(ちびき)の岩って言いました?

…あの千人で引かないと動かないとか言われている…あの?


黄泉神:あの


天狐:それって黄泉平坂(よもつひらさか)…この世とあの世の境にあったはず…

あなた…誰ですか?


黄泉神:僕は黄泉神(よもつかみ)

この国…黄泉(よみ)の国の統治を行う者の一人だよ


天狐:黄泉の国!?え…!?そんな場所に私がいるってことは…


黄泉神:現世で死んじゃったってことじゃない?わかんないけど?


天狐:ううううううう嘘です!嘘です!そんなわけがありません!

だって!私は今日起きてから、ネトウヨがはびこる掲示板の政治スレにコメして対立煽りをしていたはず…いったいなんで黄泉の国なんかに…!


黄泉神:それは僕にはわからないから、とりあえずおいでよ

誰か客人が来たから迎えに行くと言って、黄泉津大神(よもつおおかみ)を待たせているんだ

君も神なら話くらいは聞いたことあるだろ?

彼女は怒ると怖いからね


天狐:は、はい!…それに私は死んでなんかいません…!黄泉にいるのは必ず理由があるはずです…!

…それにしても…ここは随分暗いですね


黄泉神:陽の光が届く場所じゃないからね…

まあ、いいんじゃないかな

黄泉の国はあまり明るい場所で見たいものじゃないらしいよ…特に現世から来たばかりの人からすればね


天狐:…は、はぁ


黄泉神:ここは死者がたどり着く国

この場所で来(きた)る黄泉(よみ)がえりのときを待っている亡者たちが暮らしている

まぁ、そもそも黄泉がえりとか人間の盲信なんだけどさ

ここの住人達は死んでるから体は腐るし、異臭もするし蠅(はえ)や蛆(うじ)が湧くから汚いんだ…

あ、この話、大神(おおかみ)の前でしちゃだめだよ

向こうがしてきても乗らないように…本当にやばいからね


天狐:…わ、わかりました…!


――――――――――――――――――――――――――


天狐:(NA)

黄泉の国とは死んだ者しかたどり着けぬ場所

遥か昔、国造り伝説の時代、イザナギ様がイザナミ様から逃げるために黄泉平坂(よもつひらさか)に巨大な岩を置いてしまったためあの世とこの世をつなぐ道が閉ざされたた

その結果、神も人も平等に生きたままでは来られず、来てしまったら出ることはできない場所となったのだ


(荘厳な部屋に巨大な玉座が置かれている)


黄泉神:…黄泉津大神(よもつおおかみ)よ~お客人がいらっしゃったよ~

あれ…いないのかな?

黄泉津大神(よもつおおかみ)~!お客人だよ~


イザナミ:…遅い!!


天狐:ひぃ!!


(奥の部屋から怒ったイザナミが現れる)


イザナミ:わらわをこれほどに待たせるとは…!

さぞ大した客なのだろうな、黄泉神(よもつかみ)…!!


黄泉神:今日は珍しいよ~

ほら、神様の死人~


天狐:ど、どうも…


イザナミ:神の死人だと…?

ん?お前、人に近い見た目だが…獣神(けものがみ)だな?

狐の神…稲荷(いなり)の関係の者か


天狐:は、はいっ!!その通りでございます!

私みたいな、ド畜生のペーペー神が貴重なお時間を奪ってしまって申し訳ございません!!イザナミ様!!


黄泉神:あ


イザナミ:…ほう…狐…もそっと近うよれ


天狐:は、はひぃ…


イザナミ:…よく知っているなぁ?うん?

わらわのもう一つの名が伊邪那美命(イザナミノミコト)であると…


天狐:それはもちろん…地上に住まう神でその名を知らぬ者はいないかと…


イザナミ:そうであろう、国造りという大役を担い、島国や様々な神をわらわは生み出した…

その功績は計り知れんわけだが…まぁ自らの口からそのようにのたまうのはいささか品が無いかもしれんなぁ


天狐:まさかまさか!高天原の神々とてなにも文句は言わないですよ!

それほどのことをなさったのです!


イザナミ:そう、それほどのことをした…はずなのに!!


天狐:あれ…?


イザナミ:そのような偉大な神であった時代の名でわらわを呼ぶとは、今こうして死の運命から逃れられんどころか、黄泉から出られず、黄泉津大神(よもつおおかみ)となったわらわをあざ笑っているというわけか、狐!!


天狐:いえいえいえいえいえいえいえ!

決して!決してそんなことは!!


イザナミ:ふん!獣だろうともお前は神!この黄泉の国で、我をイザナミと呼ぶことが不敬だと知らんわけではあるまい!万死に値する!!


天狐:か、勘弁してください!もう死んでるんで!


イザナミ:あ?もう死んでるだと?何を言っている?

おい、黄泉神(よもつかみ)


黄泉神:はい?


イザナミ:お前ちゃんと説明してないのか?


黄泉神:…ん?説明?


イザナミ:もしかして…気づいてないのか?


黄泉神:…う~ん…なんだろ

何か気づくことと言えば…あ、大したことじゃないけどこの狐の子が完全に死んでるわけじゃないってことくらいかな?


天狐:そうですよ!私がまだ完全に死んで無いことなんて些細な…!

些細な…?あれ…全然些細じゃない!!

え!?私死んで無いんですか!?


黄泉神:そうだよ?言ってなかったっけ?


天狐:言ってませんよ!!死んじゃったんじゃない?って言ったじゃないですか!!


黄泉神:その後にわかんないけどってつけたでしょ?


天狐:そんなんであの世の神の言葉が帳消しになるか!!

え、どういうことなんですか!?


イザナミ:お前の肉体から魂が離れて、この黄泉の国にいることは間違いないが…貴様の肉体は綺麗だろう


天狐:え?まぁ、均整の取れた美しいプロポーションであることは自他共に認めるところではありますが…


イザナミ:なんだこいつめでたい奴だな

そういう話ではない

黄泉の国は時間の流れが異様に早いのだ…昔はもう少しゆっくりだったが、岩が置かれて現世と完全に断絶されてからさらに早くなった…

魂に引っ張られてやってきた肉体の残滓(ざんし)は、この場所ではあっという間に腐ってしまうんだが、お前の体は腹立たしいほどみずみずしいし…まだ現世の肉体が滅び、魂とのつながりが切れたわけではないのだろう


天狐:じゃ、じゃあ!?もし、この黄泉の国を出ることができれば…まだ私は生き返れるってことですか!?


イザナミ:その通りだが…お前、あの忌々しい岩を通れたか?


天狐:い、いえ、通れませんでしたが…


イザナミ:では駄目だな、生き返れない


天狐:えっ!?何でですか!?

イザナミ:あの岩は生者(せいじゃ)と亡者を分かつもの

お前が真(まこと)に生きたいのならば、その魂は肉体に引かれ自然と通れるはずだ…

だが、そうでないのならば肉体を離れた魂はこの黄泉へと引かれて出られない


天狐:そんな!私が生きたくないわけが…!!


(過去回想)

神主(NA)

神様…どうしてこんなに部屋が散らかってるんです!掃除してください!


天狐:(NA)

掃除!?嫌ですよ!神主がやってください!私、今日は25時間ゲームするって決めてんです!


神主:(NA)

神様!なんでこんなに願いが溜まってるんです!こっちの業務も手伝ってくださいと頼んだでしょう!


天狐:(NA)

はぁ、仕事!?そんなの神がやることではありませんね!!神主が一人でやればよろしいのです!


神主:(NA)

神様!また体が半透明になっていらっしゃいますよ!


天狐:(NA)

いまさら半透明くらいでビビるもんですか!働くくらいなら死んだほうがマシです!


天狐:(NA)

は~クソ!!現実なんてクソ~~!!

(回想終了)


天狐:心当たりがあるかもしれない…!!


黄泉神:困ったね…

この世界は時間の進みが早いと言っても、必ず現世の肉体に限界はくる


天狐:そ、そんなぁ…!?


黄泉神:でも、それまでに心の底から生きたいと思えれば…君は現世に帰れると思うよ


――――――――――――――――――――――――――


イザナミ:黄泉神(よもつかみ)、今日の分は?


黄泉神:はい、これだよ

あと、閻魔から手紙が来てるね

読む?


イザナミ:閻魔から?あの髭面おやじめ…どうせまた、死者を裁く基準を一定にしようとかいう申し出だろう?

捨て置け捨て置け


天狐:…読まないんですか?


イザナミ:閻魔は昔からろくな事をしない

見た目も嫌いだ、だから読まない

それに…わらわにはやらなければならないことが山ほどある


天狐:お仕事ですか?


黄泉神:そうそう、僕は適当でいいと思うんだけどね

どうせ死んで未来のない魂だし


イザナミ:だからわらわが来た時にひどいありさまだったんだろうが!

見ろ!何千年も経つのにまだこれだけ溜まっている!


天狐:…それは死者の情報ですか?

蘇り先でも決めるんです?


イザナミ:それは輪廻転生(りんねてんせい)…仏どものやり方だろう


黄泉神:人は死んだら、その親類縁者(しんるいえんじゃ)を守る氏神(うじがみ)となるんだ


天狐:へぇ、氏神に!それはすごいですね!


イザナミ:馬鹿を言うな、氏神といえど神だ

そうポンポンと神格を与えるわけがないだろう

ここに来た魂はいずれ消え去る運命にある…この場所は辛く苦しいからな

良い行いをした者から消してやるのだ


天狐:消え去るだけ…死んだ後にもう一度死が待っているんですね…


黄泉神:たまに気まぐれで生き返らせたり、転生させたりすることもあったよ?


天狐:そうなんですか?


黄泉神:だから黄泉がえり、なんて言葉が人間の間で広まったりしたんだ


イザナミ:昔はそういうのがあまりにもおざなりだったから、いつまでも死者が残り続け、黄泉の国はひどいありさまだったんだぞ?

それをわらわが整えたんだ

そのせいで!このアホのせいで!私が!どんな!目に!合ったか!!


黄泉神:痛い痛い…叩かないでよ

それにあれは僕が悪いんじゃなくて…どちらかといえば…


イザナミ:おっとそれ以上言うなよ?神の逆鱗に触れることになるぞ?


黄泉神:おぉ…怖い怖い…


天狐:はぁ…


黄泉神:あれ、心配?


天狐:そりゃあ、心配ですよ

生き返れるのかどうか…ここにいてもしんどそうだし、もう一度現世に戻れる保証もないし…


黄泉神:それは君の努力次第だから何とも言えないね


天狐:努力…ですか…


天狐:(NA)

私は帰りたい…帰りたいはずなんです…

…そうだ、カコは前に冥界は暗いし陰気臭いしで用事でも無いと行きたくないと言っていた!

この黄泉の国を見て回って、ここのことを嫌いになれば!!


天狐:そうすれば私は帰れる!!はっはっはっはっはっはっはっ!!


イザナミ:なんだあいつ壊れたぞ


黄泉神:死は誰だろうとショックだからねぇ


天狐:狂ってなどおりません!

黄泉神(よもつかみ)様、そして黄泉津大神(よもつおおかみ)様…私はこの黄泉の国を見て回りたいです!

是非とも許可を!!


イザナミ:別にわらわは構わん好きにしろ

黄泉神(よもつかみ)、案内してやれ


黄泉神:どうせなら君も来れば?


イザナミ:は?なんでわらわが


黄泉神:たまには気分転換に、ね?


イザナミ:…はぁ、まぁ確かに、貴様のせいで溜まった仕事を片付けるのも飽き飽きだし、行ってやるか


――――――――――――――――――――――――――


イザナミ:(NA)

黄泉…神道(しんどう)における死の終着点

畏怖(いふ)、嫌悪、そして穢(けが)れの象徴

暗く、じめついていて、腐った死体からは腐乱臭(ふらんしゅう)が立ち込める


黄泉神:(NA)

足元は血やぐずぐずになった肉や髪の毛でガタガタ

それどころか、何か得体の知れないものに足を掴まれるような感覚さえある

それは人の業(ごう)か、悲しみや苦しみか、痛みや恨みか…

正体はわからない…だが一つ言えることとしては、ここが黄泉の国にふさわしい絶望の場所だということだ…


天狐:慣れましたね


イザナミ:まじかこいつ


天狐:以前に部屋閉め切って1週間耐久配信した時もこんな感じの臭いでした

なんか床もきもい触り心地でしたし


黄泉神:君は、現世に黄泉の国を顕現(けんげん)できるんだね、こわ


天狐:ちょっと!死後の世界の住人のくせに引かないでもらっていいですか!?


イザナミ:黄泉神(よもつかみ)が引いてるとこ初めて見たぞ

大丈夫なのか?お前の神社


天狐:失礼しちゃいますね!

大丈夫です!その時もちゃんと掃除しましたから!神主が


黄泉神:神主さん…死んでうちに来たらなるべくいいとこに住まわせてあげよう


天狐:縁起でもないこと言わないでください!

それにそこまで迷惑かけてないですよ!


イザナミ:でも神社を黄泉と同じ状態にする奴なんて死んだほうがいいんじゃないか?


天狐:い~や~で~す!

私は絶対蘇るんです!


イザナミ:…神は怠惰な者も多い…特に数百年前まで何もせずにそれなりの信仰を集めていたような者はな…頑張り方を知らず信仰を失い、肉体を保てずここに来る神は増えている

どうせ、お前もその部類だろう


天狐:え、まぁ、はい…別に信仰の量は昔から大して変わりませんが…そうですね、はい


イザナミ:働くことを放棄するのならば、そのまま死ねばよかろう

…いつかここに来た命はチリとなって消える

その瞬間まで怠惰をむさぼり続けられるぞ


天狐:でも…ここにはゲームもネットもないじゃないですか!!

そんなの退屈で死んでしまいます


黄泉神:だからもう死んでるって

…死は終わりなんだよ

極楽だの天国だの…そういうのは僕は好きじゃない

現世を生きて生きて、生き抜いたものが最後に訪れるこの場所に新たな希望や楽しみを見出させるのは、その魂が生きてきた軌跡(きせき)の冒涜(ぼうとく)だと思う

…ここはあくまで、魂が完全に消え去るまでの待合所でしかないんだから


天狐:(NA)

そうか…だからここには何もないんだ

裁きも罰も安らぎも慰めもない

ただ死者を押し込む箱でしかない…

だから箱は荒れ果て、腐り、穢(けが)れ、そして魂を消滅させる


イザナミ:これ以上は無駄だろう、私は戻るぞ

まだ、今日の分のノルマをこなしていないからな


天狐:ノルマ?何をするんです?


イザナミ:1000の命を終わらせるのだ


天狐:1000!?1000人殺すってことですか!?


イザナミ:そうだ、人以外も殺すがな


天狐:な、なぜそんなことを!


黄泉神:おっと、それ以上は聞かないほうがいいんじゃない?


イザナミ:ふん、構わん…不勉強な狐のために教えてやろうではないか…

それはな…あの憎き、伊邪那岐命(イザナギノミコト)と、取り交わした事戸(ことど)だからだ…!


天狐:イザナギ様との…


イザナミ:いいか…わらわは現世の最後の仕事として火之迦具土神(ヒノカグツチノカミ)を身ごもり産み落とした…

その際に火傷を負い、死んでここへやって来た

我が夫はすぐに来てくれると思っていたのに…来たのはずいぶん時間がたってから…

わらわはここで食事を摂り、黄泉戸喫(よもつへぐい)にて現世には戻れなくなっていた

この体はすでに腐っており、体からは蠅(ハエ)や蛆(うじ)が湧きだし、さながら雷雲のような音を鳴らしていた…!

だから…だから…!(次の言葉を言いよどむ)

黄泉神(よもつかみ)!!


黄泉神:はぁ…だから、その姿をイザナギに見せたくはなかった

僕と現世に帰るための交渉中、決してこちらを見てはいけないと念押ししたが…さっきも言ってたと思うけど、当時の黄泉の国はちゃんとしたルールが決まっていなくてね

話し合いがなかなか終わらなかったから、イザナギは辛抱できず見てしまったんだ


天狐:…見てしまったって…それが何かあるのですか?


イザナミ:あいつはな!わらわを見るなり、恐れおののき逃げ出したのだ!!

愛する者を前に悲鳴を上げ、来るな来るなと叫び散らした!

わらわは怒り、イザナギを引き留めようと黄泉の者どもをけしかけた!


黄泉神:黄泉の国の軍勢たる黄泉軍(よもついくさ)とその身に宿した八種雷神(やくさのいかづちがみ)を向かわせたんだよ

さすがのイザナギも、殺されると思ったろうね


天狐:(NA)

こ、こええ~…確かに約束を破ったイザナギ様も悪いですが…そこまですることでは…!?

しかも八種雷神(やくさのいかづちがみ)と言えば、イザナミ様から生まれた8柱(ばしら)の雷神…!

それが、蛆が湧きだすほど腐った体から生まれているところを見たとなれば…怖い…それはさすがに怖すぎる…


イザナミ:イザナギの奴はな…持っていた櫛(くし)やら何やらを鬼に投げつけ、神を神器(じんき)で切り裂き、黄泉平坂(よもつひらさか)まで逃げおおせた…!!

わらわも追った!離れとうなくて…追ったのだ!!

だが、イザナギは千引の岩で道をふさいでしまった…

もうこちらに来るでないと…そう言われたのだ!!!

だからわらわは言った…この恨みは決して忘れぬと…貴様の国の民の命を日に1000個奪ってやると!!

そしたら奴はな…代わりに私は新たな命を1500生み出すなどとのたまった…!

それがわらわ達の事戸だ!

だからわらわは毎日1000の命を奪うのだ!!奪い続けねばならんのだ!!

うぅ…うぅ…

(イザナミは泣き崩れてしまう)


黄泉神:はぁ…気を悪くしないでね

いつもこうだから

ほら、はしたないよ


イザナミ:うるさい…うるさぁい…!!

あっちに行っていろ!!


(イザナミはすすり泣きながら、裏にさがっていく)


黄泉神:ごめんね情緒不安定で…本当は彼女もわかっているんだ


天狐:…何がです?


黄泉神:…イザナギが全部悪いわけじゃないって

…いや、約束を破ったのは彼だけど、この場所は時間の進みが早いだろう?

当時の大神は、自分の功績を鼻にかけて、生き返って当然だって態度だったのもあって

なかなか話がまとまらなかったから、イザナギはかなりの時間待ったと思うんだ

愛しい妻の帰りを待ちきれず…こちらを覗いてしまう気持ちはわかる…

彼女もあまりの怒りと悲しみで我を忘れてしまったしね


天狐:…イザナギ様とイザナミ様は深く深く愛し合っていたと聞きますし…一番好きな人に決して見られたくない姿を見られ、逃げ出されてしまった…それがどれほどショックかは…想像もできませんね…

…もしかして2人は…まだ…


黄泉神:愛し合っているんじゃないかな…わからないけど

少なくとも、こっちはまだとても愛してる

…愛した人と作った国に住まう命を奪うのは…彼女にとっても苦しいんじゃないかな


天狐:なら…1000も命を奪わなくても


黄泉神:そうもいかない

彼らの痴話げんかで世界には生と死の概念が生まれ、イザナミは黄泉津大神(よもつおおかみ)となったことで、死を司る神となった

もう気持ちだけでは引き下がれない…彼女自身が世界のルールになってしまったんだよ


天狐:…そう…ですか

私、何も知らないのに…勝手なこと言っちゃいましたね


黄泉神:気にしなくていいさ

ここは閻魔やハデス達のように死者を裁いたりはしない

もう死んでるわけだし、どんな不敬もオールOKだよ


天狐:そういう問題では…イザナミ様だって傷つかれただろうと…


黄泉神:……君は変わったことを言うね


天狐:そうですか?


黄泉神:…イザナミといえば君らとは格が違う

死した神々は恐れ多くて口を開くことすらしない

なのに、気遣おうだなんて…君は面白いね


天狐:所詮私は狐ですので

…あの、本当に黄泉の国には生者は来れないんですか?

もう、二人は二度と会えないのですか?


黄泉神:無理だろうね…まぁ、でも会わなくても伝わってるんじゃないかな

藻(も)とか、苔(こけ)とか、頑張っても虫くらいしか殺さないからね、黄泉津大神(よもつおおかみ)は


天狐:へ?


黄泉神:…まぁ、あとは地上基準の極悪人とか?

探すの凄い大変だから、苦労してるけどね

…ヒステリックだけど、とっても優しいんだよ、彼女は


天狐:そう…なのですね…良かった


イザナミ:ふん!!


(イザナミが思い切り黄泉神の頭を叩く)


黄泉神:痛い!


イザナミ:余計なことを言わんでいい!

おい狐!!


天狐:は、はい!!


イザナミ:貴様ごときに心配されるわらわではない

そして、貴様は自分の心配をしろ

ほら、指先を見ろ


天狐:へ?うわっ!!なんかきもい色になってる!?


イザナミ:腐り始めているようだな

…おい、こいつはあとどれくらいもつ?


黄泉神:う~ん…こっちの時間であと数時間ってとこかな


天狐:そんな…!?どどどどどうしましょうどうしましょう!!


イザナミ:しょうがない…ほら、あれを持ってこい


黄泉神:あれ?あぁ…あれね…たらりらったら~!

天沼矛(あめのぬぼこ)~


天狐:おお!混沌とした世界をかき回して、滴った雫から大地を生んだというあの!!

それ!どう使うんですか!?


黄泉神:これで黄泉の国をかき回してぶっ壊せば出られるかも…


イザナミ:違う!!

そんなことしたら亡者どもがあふれ出て現世が終わってしまうだろうが!!


黄泉神:え~、あとなんかあったかなぁ

物理的にあの岩を破壊できそうなの…


イザナミ:うつけめ、そんな話をしているんじゃない

わらわはこいつに自らと向き合う機会を与えたいだけだ


黄泉神:あぁ…あ~!なるほど!

つまりはこれだね! 誰でも羽織るだけで簡単おしゃれな黄泉羽衣(よみのはごろも)…!


イザナミ:違う!なんだそれは!知らんものを出すな!


黄泉神:えぇ…手縫いなのに…


イザナミ:だから何だ…!そんなもんこいつに着せてどうする!

八咫鏡(やたのかがみ)のレプリカを持ってこい!


黄泉神:あぁ…なるほど?

あれねぇ…えっと…はいこれ


天狐:八咫鏡って…伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)様が作られたというあの?


イザナミ:そうだ…だがわらわが作ったそれはより強力だ

その鏡を覗けば強制的にうちに隠した自らの心を暴いてしまう

一体何が貴様を黄泉にとどめているのか…それを明らかにするといい


天狐:は、はい…!


天狐:(NA)

どうして私が帰れないのか…これを見てわかるなら!!


(天狐は鏡を覗き込む)


――――――――――――――――――――――――――


神主:あ、また食べっぱなしだよ…神様ったら…


天狐:(NA)

神主…?


神主:また働かずに寝てるんですか?

本当に消えてなくなっちゃいますよ?


天狐:(NA)

違います…神主、私は今やろうと…


神主:また食器割ったんですか!?もう、気を付けてっていつも言ってるじゃないですか!


天狐:それは違くて…どうして…どうしてこちらの声が届かないのですか…?


神主:お賽銭増えてますよ!

ほら!神様だってやればできるんですから!


天狐:(NA)

神主…神主!!


神主:今日は神様のおかげであの参拝者の方が救われました…本当に良かったです


天狐:(NA)

それは…あなたが頑張れと言うから…


神主:今日はたくさん頑張ってくださいましたからうどんにお揚げも付けちゃいます、しかも二枚!


天狐:(NA)

だって…少しでも神社のためになればと…なのに…なのに…


神主:参拝者を笑顔にすること…それは私ではなかなかできません…

いつもありがとうございます、神様


天狐:(NA)

私、いつも迷惑かけてばかりだし…私はあなたの足かせになっていないかと…!


神主:頼りにしていますね、神様


天狐:(NA)

ごめんなさい…


――――――――――――――――――――――――――


天狐:ごめんなさい…ごめんなさい…


イザナミ:これが…貴様のわだかまりか

自由奔放、自己中心的、自分勝手…そして自暴自棄

面倒な奴だ

あまりに人間くさすぎる


天狐:…黄泉津大神(よもつおおかみ)様の言う通りだったのです

私のような者はそのまま死んだほうがいいんじゃないかと…心のどこかで思っていたんだと思います…それが私が現世に帰れない理由です…


イザナミ:…ならば、このまま死ぬか?


天狐:それは…


黄泉神:ねえ、黄泉津大神(よもつおおかみ)はどうやって1000もの命を選定してると思う?


天狐:え…?どうって…千里眼みたいな力とかですか?


イザナミ:…はぁ、サービスしすぎな気がするがな


黄泉神:いいんじゃない?減るもんじゃないよ?


イザナミ:ふん、我が神力、とくと見よ

八咫鏡よ、我が望む命…今ここに映したまえ…!


(鏡に神主が映し出される)


天狐:これは…神主…!神主が映っています!!

ここに寝ているのは…私…?


イザナミ:貴様の看病をしているようだな…


黄泉神:ずいぶんやつれてるみたいだね


天狐:どうして…?


イザナミ:お前の魂が肉体から離れて大体3日ほどだからな

その間つきっきりなんじゃないか?


天狐:そんな…なんて馬鹿なことを…


(少し間をあける)


黄泉神:…ねえ


イザナミ:…わかっている

さて、狐…再度問おう

お前は…このまま死ぬことを選ぶか?


天狐:……黄泉を統べる神々よ

もし許されるのならば私は…私は…神主に会いたい…!


イザナミ:ふっ…ならば行け!千引(ちびき)の岩までまっすぐ進め!

馬鹿面下げて寝ている体に戻るまで決して振り返るんじゃないぞ!


天狐:…わかりました!!

ありがとうございます!!大変お世話になりました!


(天狐が走り去る)


黄泉神:あの子、通れるかな?あの岩


イザナミ:…通れんかったら…もううちでは受け入れんぞ

閻魔か仏のとこにでも送ってやれ


黄泉神:おや、ずいぶんとお優しい


イザナミ:…うるさい


――――――――――――――――――――――――――


神主:神様…いつまで眠っておられるのです…?

早く起きないと…神様が大事に取ってるお饅頭…食べてしまいますよ…?


天狐:…それは困りますね


神主:…えっ…神様…?


天狐:…おはようございます、少し寝すぎたみたいですね


神主:…えぇ、ほんとですよ


天狐:あの…ちょっとだけいいですか?


神主:…なんです?


天狐:…神主ぃぃぃぃいいい!!


(天狐が神主に飛びつく)


神主:おわっ!ち、ちょっと抱き着かないでください!

っていうか!そんなすぐに動いて大丈夫何ですか!?


天狐:うるさいです!私…私っ…!ほんとに死んだんですよ!


神主:え、どういうことです…?


天狐:黄泉の国の神々が生き返れるよう協力してくださったんです…!


神主:なんと、そんなことが…!?

神棚を作ってお祀りしなければなりませんね


天狐:そうですね…あ、いったぁ…落ち着いたら後頭部が痛い…

うわっめっちゃ腫れてる!?


神主:そりゃそうですよ

神社の鈴でターザンごっこしてるところを僕に怒られてバランス崩して落ちたんじゃないですか


天狐:あれ?そうでしたっけ…?


神主:そうですよ、それで賽銭箱の角に思い切り頭をぶつけられたんじゃないですか


天狐:それ…もしや賽銭箱は…?


神主:大破です


天狐:修繕費って…


神主:もちろん神様のお小遣いから払いました


天狐:やっぱ黄泉に帰ります!

現実はクソです!ほんとクソ!!


神主:最初から最後まで神様が悪いでしょうが!

ほら!ちゃんと働かないとお子遣いゼロになりますよ!


天狐:うぇぇん!鬼!悪魔ぁぁぁぁ!!



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