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ぼくらの地域枠戦争

最近デジタル断捨離に努めていたので覚知が遅れたのですが、巷では「地域枠」の話題が盛り上がってるようで。

和歌山県立医科大学が産科枠を作ろうとしてる動きは前々から報じられてたように思うので、とうとう正式に決定したというところでしょうか。

この「産科枠」設置については、ざっと見た限り医クラの面々は否定的なスタンスの方が多いようです。まだ医学部の勉強に触れたことさえない若者に人生を左右する診療科決定をさせるのは酷であると。

診療科の制限までは及ばない(もしくは緩い)ただの「地域枠」であれば、「受験時に分かってたことだろ」と挫折者・離脱者に対して厳しい意見もまだ多かったように思います。しかし、「地域」以上に受験生にとって想像や理解が及ばないと思われる「診療科」の制限はやり過ぎだということなのでしょう。

江草もまことに同感です。ちょっとこれはやりすぎです。

そもそも江草は「地域枠」でさえ人権侵害レベルと思っているので、よりきつい「産科枠」にも否定的になっちゃうのですが。

「地域枠」制度の問題点については、この日本労働弁護団の意見書がまとまってます。

これを読むと、事実上就労を指示強制してるにもかかわらず「県は使用者じゃないから労働基準法の取り決めは関係ない」と言い逃れたりとか、違約金を含めた時の違法的高利率も「消費貸借じゃないから法律の適用外」などと、まあまあ見苦しい地域枠制度の脱法的実態が見えてきます。(あくまで山梨県のケースですが)

地域枠自体がこれだけ問題含みなのに、この上さらに診療科の制限までつくなんて無理筋にもほどがあるでしょう。

確かに最近ちょうど成人年齢が18歳に引き下げられたのもあって、受験生の年齢であっても契約する法的責任はあるとは言えます。
しかし、与党が成人年齢引き下げに関連して、新成人のAV出演強要の防止に乗り出してるぐらいですから、地域枠に関しても同様の若者の保護の検討はなされても良いはずでしょう。
受験生の時に約束しただけで30代に至るまで縛る長期拘束がそうそう簡単に許されていいものでしょうか。


もっとも、とくに産科をはじめ地域医療の崩壊が深刻なのは間違いありません。
自治体やその地域の大学がなんとか医療崩壊を食い止めようとした上での苦肉の策なのは伝わってきます。
気持ちは分かりますし、別に悪人だと糾弾したいわけではありません。むしろ彼らも彼らなりに善意から行ってるのは理解します。

ただ、逆に地域のことを愛しすぎるばかりに、視野が狭くなって局所最適にしかなってないと思うのですよ。だから憲法という最高法規で保障されてる人権への挑戦に迷い込んでしまう。
「地獄への道は善意で舗装されている」とはけだし名言ですが、いくら善意からであっても基本ルールを無視することはやっぱり許されないのです。

そもそも、追い詰められると政府や自治体などの「お上」は、ついつい人権侵害的な策を打ちがちなことが歴史上分かってます。だからこそあえて前もって憲法が基本的人権を規定して政治を縛っているわけで。

残念なことに、地域枠問題は、自治体や大学だけでなく厚労省やさらには専門医機構まで主要ステークホルダーが全員グルになって容認してる流れなので、ほっておいて自然に良くなることは期待薄でしょう。

これまで以上に地域枠が大幅に定員割れし続けて事実上無意味化するか、誰か地域枠の被害者が裁判に訴え出た上で最高裁まで行って憲法違反の判決を取り付けるかぐらいしか地域枠問題の解消の見込みはなさそうです。

せめて、多少なりとも改善の機運を作るためにも、今後も皆で地域枠の問題点を指摘していく必要があるでしょう。

江草の発信を応援してくださる方、よろしければサポートをお願いします。なんなら江草以外の人に対してでもいいです。今後の社会は直接的な見返り抜きに個々の活動を支援するパトロン型投資が重要になる時代になると思っています。皆で活動をサポートし合う文化を築いていきましょう。