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江草令の書評マガジン「読んだよ」

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本を読んで、その感想を江草が記します
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記事一覧

『未婚と少子化 この国で子どもを産みにくい理由』読んだよ

筒井淳也『未婚と少子化 この国で子どもを産みにくい理由』読みました。 少子化問題について解説された新書ですね。 少子化問題には江草も強い関心を持っているので、ちょこちょこ関連書籍を読んでいます。日本の書籍で言うと山田昌弘『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』を以前読んで感想を記しています。 読んだきっかけで、今回の筒井氏の『未婚と少子化』を読もうと思ったのは、異次元の少子化対策についても触れられている近著であることと、本書概要の紹介文で とあって、「子育て支援」と「

それはエラーなのかバグなのか 〜『おどろきのウクライナ』を読んで〜

橋爪大三郎、大澤真幸『おどろきのウクライナ』読みました。 今なお続くウクライナの戦争について、橋爪氏と大澤氏の対談を収めた一冊。社会学者のお二人は『ふしぎなキリスト教』を始めその他の書籍でも共著を出されていて、よく対談される名コンビと言えます。 テーマとしては「ウクライナ戦争とは何なのか」を文明論や宗教論から紐解きつつ、そして「ポストウクライナ戦争の世界」を語る意欲的な内容。あくまで2022年以前の対談であるため、2024年現在からすると正直情勢の見立てが変化してしまって

『14歳からのアンチワーク哲学』読んだよ

「中二病」はなぜ中二なのか。 皆さんもふと思ったことがあるかもしれないこの疑問。一応それっぽい説明を江草も聞いたことがあります。 なんでも、中二に当たる14歳前後の年頃は、人の脳の抽象的思考力がグンと伸びる時期なんだそうです。 実際、小学校までは算数で「カメは何匹いるでしょう」みたいな具体的な状況を想起させるような問題が多かったところが、中学数学になった途端「Xを求めよ」「因数分解をせよ」みたいに急に抽象的な問題ばかりになりますよね。(当然個人差はありつつも)多くの生徒

『きみのお金は誰のため』読んだよ

田内学『きみのお金は誰のため』読みました。 最近立て続けての小説読破となりました。 とはいえ、本作は小説といっても、教養解説系小説のジャンルに当たるものになるでしょう。たとえば『おカネの教室』とか、『嫌われる勇気』とか、『働かない勇気』とか、『宇宙怪人しまりす医療統計を学ぶ』とか、『国家』とか、『理性の限界』とか、そういう系です。最後の方はもはや小説ぽくはないですが、対話形式で解説や議論が進むという点では通底するところはあるということで。ストーリーや会話仕立てにすることで

『君が手にするはずだった黄金について』読んだよ

小川哲『君が手にするはずだった黄金について』読みました。 こないだの成瀬シリーズに立て続けて小説読了。なんか、急に小説を読みまくりたくなる時期ってありますよね。 今回の『君が手にするはずだった黄金について』も本屋で推し推しっぽかったので、勢いで買った作品です。前情報全然なしで買っちゃいました。 といっても、作者の小川哲氏は以前感想文を書いた『君のクイズ』で読んでことはある作家さんだったので、きっとこれも面白いのだろうと安心して買うことができました。 そして、読了。

『成瀬は天下を取りにいく』読んだよ

宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』読みました。 本屋さんに行くとよく平積みされてたり、宣伝ポスターみたいなんが貼られてたりしていて、以前から気になっていた作品。 ジャンルとしては滋賀を舞台にした青春小説らしい。江草もちょいちょい小説読みたいバイオリズムになるのもあってついに買ってみたのでした。 そして、読了。 いやー。良い。良いですな。さすが推されてるだけある。 心が洗われる感じがいたしますね。 まず、とにかく読みやすいのでサラリと読めました。 主人公である成瀬

『日本人のための経済原論』読んだよ

小室直樹『日本人のための経済原論』を読みました。 同氏の『日本人のための宗教原論』が面白かったので、その流れで経済の話も読んでみることに。 いやー、こちらもとても面白かったです。 経済学の解説入門書的な扱いの一冊にも関わらず、有効需要や需要曲線を説明するグラフや数式に混じって、いきなり中国の科挙の歴史の話が出てきたり、ヨーロッパの絶対王政の話が出てきたり、キリスト教や仏教などの宗教ネタも出てきたりと自由奔放さが凄まじい。20世紀を代表する「知の巨人」と評されてるのも納得

教養として宗教を学ぶ意義

先日『ふしぎなキリスト教』の読書感想を書いたところ、フォロワーの方から小室直樹『日本人のための宗教原論』をオススメいただきました。 うれしいKindle Unlimited対象。 江草が「色々な宗教の勉強したい」と語ったのを受けての迅速なリコメンデーション。とてもありがたいです。 それで早速『日本人のための宗教原論』読了したのですが、いやー面白くて勉強になりました。 内容としてはキリスト教、仏教、イスラム教、儒教という4つの宗教のそれぞれの特徴と違いを解説する比較宗教

『変な家』『変な家2』読んだよ

ずっと論説や解説系の本ばかり読んでると、時々波がやってくるんですよね。「小説読みたーい」の波が。 やっぱりたまにはフィクションを摂取しないと息が詰まる。 というわけで、今回読んだのが『変な家』。 前々から本屋でババーンと置いてあるなあと思って気になっていたのでした。 元々はWebメディアで発表された作品だったみたいですが、YouTube版があったり、漫画版があったり、近々映画版の上映もされるようで、ヒット作と言えるでしょう。 本作は「間取り」をテーマとしたホラーミス

『ママがいい!』読んだよ

松居和『ママがいい!』読みました。 保育園に子どもを預けてる親なら誰もが胸と耳が痛くなる一冊。江草も預けてる立場なのでグサグサ来ました。ぐふう。 本書のタイトルとなっている「ママがいい!」とは保育園に預ける時に親元から引き裂かれるのを嫌がって泣き叫ぶ幼児の声の象徴です。 「とりあえず子どもは保育園に預け、育児は専門家に任せて、めいっぱい働きましょう。これぞ社会参画ですぞ」的な、昨今の経済主義、仕事中心主義的政策によって幼児たちが犠牲になってることに強く警鐘を鳴らしている

『ふしぎなキリスト教』読んだよ

橋爪大三郎、大澤真幸『ふしぎなキリスト教』読みました。 10年以上前のヒット作のようなのですが、ようやく読んだんです。ぶっちゃけ江草もだいぶ前に冊子で買ってた気がするんですけれど、積んでた挙句にどこかに行方不明になっちゃったようで、今回改めてKindleで買い直して読みました。 どうして今になって読み始めたかというと、最近聞いたPodcast番組『a scope』の橋爪氏のキリスト教解説がめちゃ面白かったので、もっとキリスト教のこと知りたいぞと思って手に取ったというわけで

2023年ベスト本

また、noteの投稿企画に乗っかります。 今日選んだお題は #今年のベスト本 です。 いいですねえ。 正直言うと、まだ年末に駆け込み読書は発生しそうですが、まあそれでもここらで本年ベスト本を決めてしまってもいいかなと。 江草は読書して感想を書いたものは書評マガジンに掲載していく習慣にしていますので、このマガジンの今年分の中から選びます。読んでるけど感想を書いてないものは対象外というわけです(書評を書いてない本もやっぱりいっぱいあるのです)。 といっても、実を言う

中江兆民『三酔人経綸問答』読んでる

今月NHKの『100分de名著』で中江兆民の『三酔人経綸問答』を特集されています。 恥ずかしながら、一応名前は聞いたことがあるかなぐらいで、全然中江兆民がどんな人かとか、本の内容も知らなかったんです。でも、番組を見ていてなかなか面白そうだぞと。 で、Amazonで見てみたらKindle Unlimited対象。こりゃ嬉しいということで読み始めたのでした。 今、洋装紳士の語りがひと段落して、豪傑くんが語っている段階で、『100分de名著』の進行と同じぐらいのところです。

『なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか』読んだよ

ジョナサン・マレシック『なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか』読みました。 本書のテーマは「燃え尽き症候群」。いわゆる「バーンアウト」ですね。社会でしばしば観測される仕事で燃え尽きてしまうバーンアウト現象の実態と対策について考察した書籍になります。 結論から言うと、とても推せる本でした。著者と飲みに行って語り合いたいぐらいこの本好きです。 元神学教授によるバーンアウト論考著者のジョナサン・マレシックはアメリカの元神学教授の方です。なぜ神学者がバーンアウトの話を?しかもなんで