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江草令の書評マガジン「読んだよ」

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本を読んで、その感想を江草が記します
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記事一覧

『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』読んだよ

漫画『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』(全四巻)読みました。 『チ。』で有名になった魚豊氏の新作ですね。 (『ひゃくえむ。』という作品も出されてたことをたった今知りましたが、そちらは未チェックです) いやあ、『FACT』とても面白かったです。 以下、感想を語るにあたって、核心的なネタバレは避けるつもりですが、多少は内容に触れちゃうところがあると思うので気にされる方は、まず先に作品をお読みください。(オススメです!) さて、近世ヨーロッパにおける地動説と天動

『Z世代化する社会』読んだよ

舟津昌平『Z世代化する社会—お客様になっていく若者たち』読みました。 世代論というのは扱いが難しいものです。その時代に生まれたり育ったりした人をまるっとひとまとめにして「こういう特徴がある」と言うわけですから。いわゆる「主語がデカい」案件にズバリ当てはまってしまうでしょう。 とはいえ、何事もある程度カテゴリーをエイヤと決めてしまわないと、何も分析や考察ができないというのも事実です。言葉や理解というものは究極「何かと何かを区別する営み」であるともよく言われることですし。

偽科学と偽宗教と真宗教と真科学と

最近読み始めた『創造論者 vs. 無神論者』という本が面白いのです。 知ってる人は表紙を見てすぐにフフっとなってしまうであろう例のモンスターが目印。 「神が世界を作った」とする創造論者と、「神なんていない。全ての宗教を否定する!」とする無神論者の論争が21世紀に入りますます過激になってるということで、その歴史的経緯を解説する新書です。 これ、一見すると「宗教(創造論者)VS科学(無神論者)」の構図と思われそうですが、著者によると実は創造論者の武器もまた科学であるというこ

『フェイク・マッスル』読んだよ

日野瑛太郎『フェイク・マッスル』読みました。 今年の江戸川乱歩賞受賞作。 急にマッチョになった男性アイドルのドーピング疑惑を追う週刊誌記者が、そのアイドルがプロデュースするジムに潜入調査するというストーリー。 著者の日野瑛太郎氏は、もともとブラック労働に対する批判記事や書籍を出してらっしゃったブロガーの方で、それで江草も昔からフォローしてたんですね。 小説も書かれるのは存じていましたが(かつて個人Kindle出版されていた)、この度ついに大きな賞を受賞されたということ

『フォン・ノイマンの哲学』読んだよ

高橋昌一郎『フォン・ノイマンの哲学』読みました。 最近ちょっと頑張って肩肘張りすぎていた感があり、気楽に読めそうなものをと思って積読してたこちらを手に取りました。 ジョン・フォン・ノイマンは言わずと知れた大天才で、20世紀のみならず人類史上でも最強の天才であったとも評される科学者です。コンピューターも原爆もゲーム理論も天気予報も、ノイマンがその基礎を手がけたとか。 彼はとてつもない才能や偉業の数々ばかりが注目されがちですが、そうした彼の一生を追いかけることで、彼の考え方

『三体0【ゼロ】球状閃電』読んだよ

疲れてる時は人は空想世界に旅立ちたくなる。ちょうどそんな気分に最適なのがSFですね。 コロナにかかったりやらなんやらで、現実世界の社会問題を考える気力も湧かなかった頃合に、そういえば積んだままだったなと引っ張り出したのがこちらの『三体0 球状閃電』でした。 世界的ベストセラーSFとなった三体シリーズの劉氏が著者で「ゼロ」と銘打ってはありますが、ぶっちゃけほとんど三体とは関係はありません。多少、匂わせ的な繋がりや、同じ人物が登場するぐらいで、全く別のストーリーです。あとがき

『人間関係ってどういう関係?』読んだよ

平尾昌宏『人間関係ってどういう関係?』読みました。 著者の平尾氏は哲学者、倫理学者の方。 過去作の『日本語からの哲学』や『人生はゲームなのだろうか?』についても江草は以前読書感想文を書いています。 この二冊がとても面白かったのもあって、最新作である今回の『人間関係ってどういう関係?』も手に取ってみたというわけです。 本書のテーマはタイトルで分かる通り「人間関係」です。 人間関係と言えば、ベストセラーの『嫌われる勇気』によって「人間の悩みはすべて対人関係の悩みである」

『人口は未来を語る』読んだよ

ポール・モーランド『人口は未来を語る 「10の数字」で知る経済、少子化、環境問題』読みました。 一部で話題となっていた人口論の一冊。著者のポール・モーランドはイギリスの人口学者。少子高齢化、移民、世界人口ピークアウトなど現代世界が抱える人口問題を概括されています。 結論から言えば、評判になってるだけあって非常に面白かったですね。広くオススメできる良書です。 江草は以前から人口問題に関心があって、過去に『人口大逆転』や『2050年世界人口大減少』などを読んだ感想も書かせて

『二月の勝者』が終わってしまった

中学受験漫画の金字塔『二月の勝者』が完結してしまいました。 江草的には結構お気に入りの漫画で、折に触れて繰り返し読むぐらいには好きでした。 ↓の記事でちょろっと引用させていただいたりも。 それがついに完結ということで、ちょっと寂しい気分です。 特にこの度の最終巻は全般エピローグ風な雰囲気で、殺伐とした受験期間からうってかわって、伏線回収やお別れのエピソードがてんこ盛りのエモい内容でしたので、余計にしみじみしてしまいました。 まあ、内容的に延々と何周も続けるようなテー

『嫉妬論』読んだよ

山本圭『嫉妬論~民主社会に渦巻く情念を解剖する~』を読みました。 Amazonを回遊していたら、とてもおもしろそうなテーマの書籍で、つい衝動買い。 早速読みましたが、これは非常に良かったですね。 「嫉妬」について、ここまでとことん分析されてるのは、ありそうでなかった感触があります。 「嫉妬とは何か」という基本を丁寧に押さえてくださってることはもちろんのこと、アリストテレスからロールズまで、過去の思想家たちがどのように嫉妬について語ってきたかの思想史の紹介と分析は、本書

『あした死ぬ幸福の王子』読んだよ

飲茶『あした死ぬ幸福の王子――ストーリーで学ぶ「ハイデガー哲学」』を読みました。 ユニークな哲学入門書を数多くだされている飲茶氏の最新刊です。本作のテーマはサブタイトル通りハイデガーですね。 哲学者ハイデガーの代表作である『存在と時間』。書籍としてあまりに長く厚く存在感溢れる躯体で、そして非常に難解な内容から「これ読むのにいったいどんだけ時間かかるんだよ……」と、読み手を圧倒させることで有名です。もはや読まないうちから「存在と時間」に思いを馳せさせるとはさすが哲学書の大名

『贈与経済2.0』読んだよ

荒谷大輔『贈与経済2.0 お金を稼がなくても生きていける世界で暮らす』読みました。 タイトル通り、お金に依存しない社会の構築を目指す新たな形の贈与経済を提言されてる書籍です。 これが、非常に面白かったです! ほんとすごく刺激的で興味深い提言であり、だいぶ考えさせられました。 (以下、約11000字の長大な書評となってしまったのでAIにお願いして作ってもらったAbstract置いときます) 資本主義社会に対する問題意識この本の提言はすなわち現在の資本主義社会に対する問

『思考を耕すノートの作り方』読んだよ

倉下忠憲『思考を耕すノートのつくり方』読みました。 (有限の蔵書スペースの都合上できるだけKindleで買ってる江草ですが、本書は装丁が素敵だったのであえて紙書籍で買いました) 著者の倉下氏は知的生産技術クラスタでは知らない者はいないであろう、界隈のリーダー格的存在の方です。情報を集め、整理し、考えたり記録したりする作業のノウハウや思想について、とても深い見識を持ってらっしゃいます。 ごりゅご氏と共同運営されてる書評系Podcast「ブックカタリスト」も面白いですし、江

『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』読んだよ

カトリーン・マルサル『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』読みました。 アダム・スミスは言わずと知れた「神の見えざる手」の概念の提唱者です。自由市場に任せておけば自然と「神の見えざる手」が良いように経済を最適化してくれる。だから各自が利己的に振る舞うことが経済にとって良いのであるとする考え方ですね。 流石に今では普通はそこまで素朴な考え方ではなくなってますが、それでも今なお強い影響力を持ってる経済思想です。 こうしたアダム・スミスの経済観からすると、労働をしてその対