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cantata in inclusura

Intertranspositionality

ことばをつかんだ
かぞえることもつかんだ
そのとき
そのまえから
あなたはあなたであったのか
あなたがあなたになれたのは
ひととつながるためではなかったの
ひととのへだたりを
あちらからも
こちらからも
ふみだしていく
ひらかれていくためではなかったの
かわることをおそれ
とざすために
おさえつけるために
ものをおぼえたのではなかったのに
なぜあなたはあなたになったのか


Pros hen

わざわい、境という境を越えいできたるや、
閉ざされ作り出されたる「わたし」という「わたし」ら、
ここに、生(お)い出できたれども
わざわいから、のがれるてだてなく、
死にいたらん
されど、そはみな、新たに命を得
いつ(一)に帰らん。


hic jacet

おろされていくひつぎの中で
からだとともに
えみもあいさつも
交わすこと
やんだからと
明日からは虚しくなるからと
もういないとはつぶやかれても
名づけ、呼ばれるあいだがら
したしみ まじわりは
消えようもない
手をにぎりしめて
そこにはじめて
わたしもあなたも
確かめられた
今 祈りのうちに
ひとつにくくり
おさめられ
おろされて
見えなくされたのは
名づけをからだにとどめてきた
わたしたち 
あなたではない
葬られるのは
この世
かたくなさ
見えているものに
こだわり
そこにあなたを見てきた
わたしたち


bullet trajectory

放たれ そらを
かけのぼり
切り裂き そらを
突き抜ける
地を覚えず
触れるものなく
万事 足下に消えゆく
数える暦なく
刻む時なく
つながりくるものも
呼びかける声もなく
すみわたる光
真白き孤絶


sator satorum

ガジュマルの樹の茂み
榕菴(ヨウアン)先生のくわだてを
だれも知らぬまま
今自分たちにとって
なじんだ考え方を
どこがおかしいか
何ひとつ捉えられないまま
生きている
あなたの育てたガジュマルの大木の下に
いることにだれも気づけない
酸素も水素も窒素も
単なる言葉だと
化学も所詮は記号だと
そうそのように思って
化学するひとを
科学を語るひとを
榕菴(ヨウアン)先生、あなたは百年
二百年の先に生い育つことを
見ていた
あなたはしようと思えば
本草の言葉遣いに仕立ててしまうことも
できたのに
あなたはだれも使っていない漢語を
次々編み出し
流通させた
日本語に人口大爆発を
仕掛けたのですね
もうみんななじみの本草の
宇宙体系や
伝統の漢語意味体系に
単純に還元できない
世界を生きることになった
あなたの後を襲ったひとびとも
もはや勝手知ったる
伝統的なものの名付けには
戻れない思考法
世界の見方 見え方を
遺していった
これが日本で起きて来たことの秘密だったのでしょう
榕菴(ヨウアン)先生、みんなあなたの育てた
ガジュマルの樹の茂みに
ものが見えなくなっています
あなたは辨物の学びは理学の入門なり
そうおっしゃり
その宇宙のことわりを極める
窮理の道は
ひとの身に起こる病を癒す働きのためでしたね
それなのにあなたの解き放った群れには
ひとがひとを支配する狡知に走ったものたちを
創りました
この国に生まれ生活するひとを
みな戦争のための資源、道具とすることに
加担するひとびとを創り出しました
榕菴(ヨウアン)先生、あなたのガジュマルの大樹さえ
根こそぎにする愚かなものたちの時代です
人類自滅に向かってひた走る者が跋扈しています
榕菴(ヨウアン)先生、あなたのガジュマルの大樹は
ひとの病を癒すわざのために植えられたのに
榕菴(ヨウアン)先生、もう一度大樹の種を探し求める時でしょうか
あなたが隠された秘鑰を見つけたいま
ガジュマルの樹に代わる明日の大樹を探し求める力を
どうぞ私たちに与えてください


qu'est-ce que la vie

なり切った
このひとを今生き切った
緞帳がおりていくなか
拍手、歓声がからだを
突き抜けていく
されどこのひとの人生
この人のこの世に生まれ落ちた
命の底の底 たどりゆき
掴み切れたと言えるのか
突然襲いくる虚しさ
舞台で演じているだけか
演出家と争いつつも
ご贔屓のお客ならわかって
楽しんでもらえると
思い込んだ舞台の流れ
ひとりよがりにしつらえて
この人を演じて見せる
ゆるされることなのか
ただお芝居だと
安心して役者を、芝居を
楽しみに見に来ているからと
そんな思いで
舞台に仕立てて
公演を続けて
方便(たつき)がたてばよいのか
明日舞台に立つ時
この人が見に来ているだろう
その時そんな人生ではなかったと
叫んで舞台に駆け上ってくる
こんな芝居でこの人を
演じ切ったなどと
どうしてそんな傲慢な
媚びた芝居にして
私を貶め私を演ずるのかと
明日その時
どんなセリフで返せばよいのか
人の人生をその程度にしか
理解できず
そんなものとして演出され
それに同調して
見ているはずもない本物の観客を
排除して
見に来たものどもと
ともに人生を愚弄し
昼日中芝居見物に
足を運んでくるものたちと
その時ばかり
劇場の外の現実忘れて
満ち足りれば十分だと
そんな舞台も芝居も
本当の人生と真向わない
単なるつくりもの
それがどうしてひとの人生を
演じ切ったことなどになるのか
明日舞台に立ってこのひとを
この人が見ている前で
この人の人生を演じ切れるのか
それとも生涯休演することを選ぶのか


corpus expendabile

うなじにしたたる
冷たい雨 
痛みうずきに
なお四肢あるを覚え
息繰り返すなか
身を御する力湧き立つや
ふたたび吶喊の声に
跳びたち
真一文字に
駆け抜け
突き刺し
切り裂かんとなせば
肉に抗する肉立ちはだかり
やがて破られ断たれ
裂かれ肉片と化し
地にまみれ
腐して消えゆく


litterae insulares

まだ見ぬ遠い島より
窓外展望のたより
若き君はこんな窓辺で
日々学び書に親しんで
遠く近くに
おもいを馳せている
時に海は咆哮し
時に海はのっぺりなぐ
海に育まれた
学びに文学
都市の猥雑さのかけらもなく
波にたゆたい
潮風にほぐされ
遠い世界と交信する
頽落を退けつつも
世界に開かれ
時代を断つものを
招きいれる
島の文学
君の若さに秘められた
根源的な躍動によって
紡がれて行かんことを
いのりねがう


animales politici

たがいにたより
あすをはかり
みずから
ひとりひとりをみとめあい
みずからのてでまちづくりをになえ
くにのはじめから
みずからおさめることをしらぬ
くにびとたちよ
うえからのきめごとにうたがいもなく
うえからきめごとがなければ
ふみだすことさえままならぬと
きめごとをいただきありがたがるものたちよ
きめごとのただしさを
なんじらわけしり、たがいにときあかしてみよ
いなみ、わけをあきらかにせよとのこえを
いかり、なじり、こづき
くちふさぎ
ひとつであるかのように
まるめこむことに
あらゆるずるさとちからをそそぎ
そのおろかさ
そのよこしまなること
思いもやらず
おもいことにするものをはじき
おいだし
おもいはみなひとつとうそぶく
なれあいにおのれのちからを
築きほこりたかぶるものたちよ
うえからのきまりごとに
黙してしかりとうなづき
よろこんでいやしきものに
なりさがるものどもよ
まるめこまれたきょういちにちに
あざといしあわせにひたるものどもよ
かしこきものと
ひとをしたにしくことに
ちからをにぎるものどもの
わけもしめさず
うつろなしたにて
ときふせるたくらみ
たみのいのちが
もてあそばれていることなぞ
きづかれまいと
とがなきものたちを
みえないところに
おとしこみおしこめ
しいたげるよこしまなやからよ
ともよ はらからよ
このよのなれあいに
めをふさぐなかれ
みみをふさぐなかれ
おのれのいっすんしほうに
まゆとなるなかれ
たよりあい
おもいをわかち
ききとどけあい
たがいをへだてることなく
たがいがたがいを
たがいのために
まもりあうつどいを
ならいとなせ
みずからのとなりびとから
いえのなかから
あすをつくる
子らとともに


wave crest

にびいろのなみがしら 
いくえにも
終わりなく 限りなく
浮かばんとあえぎくるしみ 
なりふりかまわず
掴まんとせども
思いもたくらみも
なにもかも みなそこめがけて
いざ引きずりおとさんと
かしらもたげる
そのうちくだかんとするせつな
かつて畏れ目を留め
ひとの境界をわきまえた
かこたち みな海をうばわれ
消えゆき
今はこの灰色の真昼間
なみがしらその意を告げしらすこと
終わりなく 限りなく
足止めるものなく
腑に落ちることもなく


nemesis fulminis

ひびけ雷鳴よ
地をどよもし
天地に告げ知らせよ
よわきもの
ちいさきものの
いのちをかえりみぬ
ものらは
この一撃にたおれ亡びん
はらからをともにするものと
いのちみな
いつくしむことをわすれ
おのれの欲と利のために
ひとの生き血をむさぼるやから
この一撃にたおれ亡びん
世をおさむるはひとにあらず
力をたのみに
民を虐げる長どもよ
底意はすでにさらされている
この一撃にたおれ亡びん
ひびけ雷鳴よ 
地をどよもし
義に生きることに
目覚めさせよ


art ultramodern

創作にあって、かつて
文字を一字一字刻む時
読者を掴まんと
書き手おのれは
ペン先にうつりすみついた
声をとどける
メディアとともに
きざまれる文字列
今や声となり
時のながれに
あざやかに ひびき現れゆく
すがたたちあらわす
わざをもなさせば
創造のくわだて
ついにそのもの
おのれをあらわす
創作なるもの
おと、すがた、ふるまいをおび
その誕生の瞬間
浮かびあらわれん
創造者の創造の自己像
劇場とならん

vox coeli

いきとしいけるものにまねかれて
きぎやまやまをこえ
いっぺんはらちに
たどりつき
このみうちふせば
おおぞらにいだかれ
あおくさにうずみゆき
あふるるひかりにほだされ
うちゅうのしじまにたゆたう
あしたにめさめ
みわけききわけしし
ものどもことどもみな
ゆくりゆくりすじめけし
かおりのこしきえゆきて
したたりおとなう
うるわしきあじわい
くつることなきふえなる
てんのいつくしみ


nuntius obitus

君が旅立った今
君の最期と
お別れのつどいを
遺されたこの世のものたちに
知らせる働きにあずかっている
いつ終わるかも知らず
きっとこの世の区切りは
本当の終わりではあるまい
君が誰とどこで
どんなふうにつながって
歩んできて
今もこの時を
みなとともに歩み続けているのだろう
僕に遺されている手がかりは
ほんのわずかなものだ
それは一人ひとりに
君の旅立ちを告げて
そこで交わされる
今生きることの意味に
思わず立ち止まって
紡がれることばが
知らしめる
僕らは立ち止まることを
忘れていて
あたりまえのように
ルーティーンをこなしていた
分かっていても
止められず
歯車になり
機械と化し
日常の中で後景化している
君の旅立ちは
僕らの狎れ合いの
常態をこそ断ち切ったのだ
この世の最後の足あとが
どこに向かっていたか
一人ひとりに覚えさせている
「ショック」
「無念」と
それを僕は否定しない
告げられた瞬間、湧き上がる声を
すべて刻む
君の旅立ちは
この地球上の追い切れないほどの
数限りない君の声が届いていた
広がりをおしえる
いずれ誰もがこの時の刻みに立たされる
足あとがふと風に消し去られていく
旅立ちを迎える
歩みはそこで止まらない
次に来るものたちが
消された足跡の意味を
心に刻んで共に歩み始めることが
始まるだけだ
見るものにしか見えない始まり
お別れのつどいを告げ知らせるとは
どれほど冷めている
この世の働きかと
されど僕は否という 
君もしかりと賛同するに違いあるまい
そう僕は君の消えた足あとから信ずる
今、僕に残された
たどられる限りの人たちに
君の断たれることなく
消え去って行った
凡庸な僕らに見えなくなった
君が今もここだと示す道を
僕らが探し求め
こうして君とともに生きていく
感謝の時
目覚め、奮い立たせる時
いずれ風の向こうに君を見つけて
君に出遭えるだろう
僕らの道が踏み外れなければ


a tenuous path

雨上がり苔むし輝く道に
迷い込み
臓腑清まる香りに
なずみゆき
そこはかとなく
響き来たる
卒時この世を離れた
友の声
親しき温かみ
芯強きまごころ
近づかんとすれば
打ち消す木々のざわめき
生きた証を覚えよと
姿を讃えず 姿を追うなかれと
眼差しの先にあったものを
聞き届けよと
耳に響いてくれるなら
この小径に別れを告げ
戻りて日々時を刻め
この声を聞き留めながら
希望を塞ぐことなかれ
命絶たれることなし


start for tomorrow

戻るあてなく
道行知らぬ
旅の発心
あいさつかわす なじみの顔
行きなれた 立ち寄りさき 
日のあるうちの時のきざみ
はたらき なりわい 
明日の暮らし 
すべて区切りつけ
思いを断つや
支度まもなく
とびらとざして門出する


Let me be a thief

よそさまのモノ
くすねれば
手は後ろに
そう子どものころから
しみついているけれど
見あげれば 街には 人の目も
おまわりもいるけれども
盗まれない
ひったくられないと
ふところ暖かく
心配もなさそうに行き交う人は
ここにも あそこにも
ほどこす愛のかけらもなく
自分のためにためこむばかり
明日の心配がないというのは
人から奪い取ったからではないの
明日の心配ではたらくものたちから
手に入れたものを
がめつく、とられないように
おまわりさんまで
雇われている 
愛を忘れるために
おまわりさんを雇うことなぞ
貧しい人たちにない
明日のパンも子どもに
買ってあげられない世の中なら
絶望して心中して
この子の未来を奪うくらいなら
施す愛のかけらもない連中の支配する
この世の中をひっくり返すために
お金でモノを買うのはもうやめだ
心もからだも
売りつくした挙句に
明日のパンさえ家には
尽きたいま
心もからだも
お金から解き放とう

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