令和元年予備試験論文 民法設問1の答案(解説用)

令和元年予備試験論文 民法 参考答案1(解説用)


この答案はあくまでも解説用動画で使うために一つ一つ原則を丁寧に説明しているので、実戦的でないところがあります。
頭の中でこういったことを考えながら省略すべきところは省略して、答案を作成してみてください。

また適宜、加筆修正をするので、ご注意ください。

設問1


1 ⅮのCに対する請求は、本件土地の所有権に基づく返還請求権としての建物収去土地明渡請求である。
 所有権に基づく返還請求権は、自己の所有物を他人が占有している場合に発生する。この場合は他人の占有によって自己の所有権が侵害されているとみることができるからである。
 Dは、自らの所有する本件土地上にCが建物を所有することによって本件土地を占有しているとしてこの請求をしている。


2 Dは本件土地を所有しているか。
 本件土地は平成20年4月1日の時点でAが所有していたところ、平成28年3月15日にAが死亡したことによって、唯一の相続人であるBがAを相続しているため、包括承継により本件土地の所有権もBに移った(896条)。3で説明するように、Cは贈与による所有権の取得をDに対抗することができないため、所有権はAが死亡するまでAに残っていたとみることができる。
 そして、抵当権を有効に設定するためには所有権者が設定する必要があるところ、BがDに対して抵当権を設定した時点でBは本件土地の所有権を有していたので、抵当権の設定は有効である。したがって、本件土地に対する抵当権の実行に基づく競売によってDは有効に本件土地の所有権を取得している。


3 Cは本件土地を所有しているか。
 これに対してCは、平成20年4月1日に本件土地の所有権者であるAから贈与を受けたので、176条により本件土地の所有権を取得していると主張している。この主張は、この贈与の時点でCが所有権を取得してAは本件土地の所有権を失っているのだから、Bは相続によって本件土地の所有権を取得しないというものである。この主張が認められれば、Bは抵当権設定の時点で所有権者ではなかったことになるので、抵当権の設定は効力を生じないことになり、抵当権の実行によって本件土地を買い受けたDは、本件土地の所有権を取得できないことになる。
 しかし、CはDに対してこのように主張することはできない。なぜなら、本件贈与によるAからCへの所有権移転登記がなされていないため、これから説明するように177条の第三者に該当するDに対して本件土地の所有権を対抗することができないからである(177条)。
 177条の第三者とは①当事者及びその包括承継人以外の者であって、②登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者を言う。
 ①DはAC間の贈与の当事者ではないし、その包括承継人でもない。②また、2で説明したようにDは抵当権の実行による競売によって本件土地の所有権を取得したことを根拠に自らの所有権を主張しているところ、かかるDの主張は自らが本件土地の所有権を有するとのCの主張と相容れない主張であるため、DはCの登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者に該当する。
 よってDは177条の第三者に該当する。
 以上より、Cは自らに対する所有権移転登記がなされていないため、自らが本件土地を所有していることをDに対抗することはできない。


4 Cは本件土地を適法に占有する権原があるか。
 Dが本件土地を所有しているとしても、Cに適法な占有権原があれば、占有による所有権侵害が違法とは言えないため、Dの請求は認められないことになる。そのため、Cにかかる適法な占有権原があるか検討する。
 まず、CはAとの間で土地賃貸借契約や使用貸借契約を締結していないので契約に基づく本件土地の占有権原はない。
 しかし、これから説明するように法定地上権(388条)が成立するため適法な占有権原が認められる。
 法定地上権は①土地とその上に存する建物が同一の所有者に属する場合に、②その土地又は建物に抵当権が設定され、③その抵当権の実行によって土地と建物の所有者が同一人ではなくなった場合に成立する(388条)。
 ①現在本件土地の所有者はDで本件建物の所有者はCであるが、抵当権設定当時はいずれも所有者はCであった。
 抵当権設定当時は、D、Cいずれも、まだ本件土地についての所有権移転登記を得ていない以上、この時点では所有権の帰属は確定しておらず、Aから本件土地の贈与を受けたCも不確定的に所有権を有していたことになる。
 そうすると、抵当権設定当時、本件土地の所有者はCであったと考えることができ、本件建物の所有者も同じくCであることから、土地と土地上の建物について、いずれも同一人が所有していたと言える。
 ②Bは平成28年6月1日、Dに対して本件土地に抵当権を設定した。BはCとの間では自らが本件土地の所有者であることを主張できないが、Cに対する所有権移転登記がなされていない以上、177条の第三者に該当する者との関係ではいまだ不確定的な所有権を有していることになる。そのため、3で説明したように177条の第三者に該当するDとの関係では、Bは所有者として有効に抵当権を設定することができる。よって②にも該当する。
 ③本件土地の抵当権が実行され、Dが競売によって所有権を取得し、Dの所有権取得はCに対抗することができるので、土地の所有者はD、建物の所有者はCとなり、土地と建物の所有者が同一人ではなくなっている。よって③にも該当する。
 以上より、法定地上権の成立要件をすべて満たすので、388条によって本件建物について地上権が設定されたものとみなされ、Cは本件土地について適法な占有権原を有することになる。


5 Cに法定地上権があるとのCの主張は信義則(1条2項)に反するか。
Cは自らに対する所有権移転登記手続きをしないまま放置していた者であるのに対し、Dには本件土地を取得するにあたって、そのような帰責性がないため、法定地上権が成立するとのCの主張は信義則に反しないか問題になる。
たしかに、Cには長期間にわたって登記をしないまま放置したという帰責性が認められるが、Dは本件土地に抵当権を設定するにあたって、念のためCに対抗力ある地上権があるものとして担保価値を算定して抵当権を設定しているため、Dが経済的に大きな不利益を被ったとは言えない。そのため、信義則のような一般原則を用いてDを保護する必要はない。
よって、Cに法定地上権が成立するとの主張は信義則に反しない。


6 以上より、Cは本件土地について適法な占有権原を有するので、本件土地の占有は違法ではなく、DのCに対する所有権に基づく返還請求は認められない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?