熱帯魚 20.04

脚本。駄作です。
熱帯魚 20.04

歪な色の壁、
カラフルな服の男女三人、
しばらく歩いて、壁を、境界線を見つける、立ち止まる、遠くを見つめる、
時折泡の音、


フィン    ねぇ、テトラ、
テトラ    どうしたの、フィン、
フィン    私たち、ずっとここにいるのかな、

クロラ、床を強く叩く

テトラ    いつか、出るんだと思う、
フィン    どこに、
テトラ    たぶん、外に、
フィン    外ってどこ、
テトラ    この壁の向こうがわ、

クロラ、壁の向こうを見つめる、

フィン    何があるの、
テトラ    分からない、
フィン    向こうはここよりもいいところ、
テトラ    分からない、
フィン    どうしても行かなきゃいけないの、
テトラ    行かなきゃいけないと思う、いつか、
クロラ    いつか、
テトラ    そう、いつか、
フィン    それってなんだか、怖いね、
テトラ    怖い、でも、いつか、
クロラ    いつか、
テトラ    そう、いつか、

フィン、立ち上がって壁の向こうを見つめる、テトラも、クロラも、

机、棚が置かれる、
リン、机の前の椅子でビデオをいじる、

ケイ     あれ、いたんだ、
リン     おー久しぶりじゃん、どうしたの?
ケイ     いや、なんとなく来てみたくなってさ、
ケイ     ほら、もうすぐ俺達も卒業じゃんか、だから、
リン     早いね、
ケイ     早いわ、四年、

リン     そうだ、セイも呼ばない?
       久しぶりにここで話そうよ、
ケイ     そうだね、

リン     あ、セイ?ちょうど部室にいたらケイが来てさ、
       久しぶりにみんなで話そうよ、
       うん、じゃ、待ってる、

ケイ     セイ、来るって?
リン     うん、来るって、

リン     その後、どんな感じだった?
ケイ     その後?
リン     ケイがここを辞めてから、
ケイ     ああ、長くなるけど、、

セイ     おまたせ、
リン     セイ、久しぶり、
ケイ     久しぶり、
セイ     うん、久しぶり、

セイ     まだここに入り浸ってるんだ、
リン     うん、私ここ好きだから、

セイ     私も、好き、
       でもなんとなく来にくいんだよね、
ケイ     分かる、
       俺達にとっては思い出の場所だけど、
リン     後輩とか?
セイ     そ、気使っちゃうっていうか、

ケイ     なんかいいね、三人でまた、こうして、
セイ     うん、また集まれると思ってなかった、
リン     懐かしいね、あの頃、

セイ     戻りたいって思う?
リン     ううん、でも、懐かしい、

プロジェクターで三人の撮った映画が映し出される、
キャストは三人、

リン     もういっかい、
セイ     え?
リン     もういっかい、最後に、記念にさ、
       映画を撮ろうよ、ここで、
       私たちの、私たちだけの映画、
       みんながこの場所を思い出せるように、
       私たちが私たちを、時々、思い出すために、

ケイ     いいね、
セイ     うん、やろう、

リン     じゃあさ、こういうのはどう?えっとね…

カラフルな服、歪な色の壁、
折りたたまれた黒い服、白い服、
時折泡の音、

フィン     ねぇ、テトラ、
テトラ     どうしたの、フィン、
フィン     あそこに黒い服があるよ、あれは、なに、

テトラ     なんだろう、

クロラ     分かっているくせに、
テトラ     分からないよ、
クロラ     嘘、分かっているのに目を逸らしているだけ、
テトラ     そんなわけないじゃない、
クロラ     じゃあ見ていないだけ、
        見ようとしていないだけ、
        あれは私たちの服、
        私たちが着なければいけない服、
        私たちはこの服を脱いで、あの服を着なきゃいけない、
フィン     どうして、
クロラ     理由なんて知らない、
        でも着なきゃいけないんだよ、
フィン     どうして、

フィン     ねぇ、どうして、

外から靴音、雨が傘にあたって反射する音、電車の音、

クロラ     私がききたい、

リンの部屋、布団、ぬいぐるみ、
カチンコの音、

リン     ここがわたしの部屋、

リン     ええと、何を言おうかな、
       いざとなると困っちゃうよね、

リン     改めて見てみるとさ、この部屋にはいろんなものがあって、
       想い出のものがたくさんあって、
       誰かにもらったものがあって、誰かの記憶を思い出すものが
       あって、
       そういう、これまでの全部が私だと思うんだ、
       この部屋は私じゃない、
       でも、私自身が私を見つめるのにちょうどいい場所なんだ、

リン     私ね、この部屋を出ようと思ってるんだ、
       一人で暮らそうと思ってる、

リン     この部屋に私がいて、私にこの部屋があって、
       それはごく自然なことだと思うけれど、
       それが自然な状態だと思うけれど、
       私には、ちょっと耐えられなかったんだ、

リン     理由は、言えない、

リン     でも、それでいいんだって思う、

リン     秘密を持ってたって、私は私、
       一つ二つ、言えないことがあったっていいじゃない、
       これも、私が、私でいるために必要なことだと思うから、

リン     こんな感じでいいかな、


ケイの部屋、布団、パソコン、
カチンコの音、

ケイ     えーと、うん、俺の部屋、

ケイ     ここには親父に買ってもらったパソコンがあって、
       これは結構使ったな、
       これが無かったら俺の大学生活ってどうなってたんだろう、
       そう考えると、パソコンは自分の分身になるって言葉、
       なんとなく納得できる気がするよな、

ケイ     あと、本、
       いろんな本があるけど、
       やっぱり映画の本は多くなった気がする、

ケイ     本棚にさ、
       映画の撮り方、とか、映画のカット、とか、
       そういうものが並んでるわけじゃん、
       俺が熱中した記憶、だけど、
       いざこれからこの本棚を見たらどうなるかなって、
       それは時々考えたりするよな、

ケイ     俺はこれからも時々、映画館に足を運ぶと思う、
       なんなら、映画を有志で集まって撮るかもしれない、
       俺はこの灯を、自分に灯ってたこの灯を消したくないと思うし、
       これを抜きに生きてはいけないんじゃないか、
       なんて思ったりする、

ケイ     でも、それは今思えてるだけかもしれないし、
       これからどうなるかなんて分かんないし、

ケイ     ただ、今は、
       自分はそう思い続けるって、必ずそうしてるって、
       そう思いたいだけかもしれないし、


セイの部屋、布団、グッズ、
カチンコの音、

セイ     ええと、、あはは、なんか緊張するね、

セイ     はい、
       ここが私の部屋です、

セイ     っていっても、趣味丸出しだよね、
       でも、こういうのに囲まれてるとなんか安心するんだ、

セイ     私を守ってくれてる、そこまで言うと考えすぎだけど、
       本当の意味でそう思っているわけじゃないけれど、
       あー、でも、本当にそうなのかも、

セイ     案外、自分の事って本当に分かんなかったりするんだね、

セイ     これまで、才能とか、学力とか、
       そういう物差しで何かを測ってきたんだと思う、
       その物差しを使いたくないって、
       必死に抗っても、戦っても、
       それでもそういう物差しで測ってしまっていたんだと思う、

セイ     そういうときに、こういうものが周りにあることで、
       何か、どうにか、救われていたのかもしれない、

セイ     人も、同じかも、

セイ     これからは、その物差しを自分で決められないこともあるんだと思う、
       それって、ちょっと怖いよね、

セイ     でも、生きていくしかないし、
       一緒に生きてくれる人がいる、
       それって本当に幸せなことだと思う、

セイ     私は、生きていく、この先も、

歪な色の壁、カラフルな服、
折りたたまれた黒い服、白い服、
それぞれの感情を抱きながら、その服を着る、

フィン     ねぇ、テトラ、
テトラ     どうしたの、フィン、
フィン     似合うかな、この服、

クロラ     うん、似合うよ、
フィン     ありがと、
テトラ     でもなんか、変な感じ、
フィン     え、そうなの、
クロラ     でも似合ってる、
フィン     ふうん、ならいいや、
        二人がそういうなら、いいや、

クロラ     下に、着るんだ、
フィン     うん、時々脱げるように、ね、
        クロラは、
クロラ     ここ、
        いつか着られるように、持っておこうと思う、
        テトラは、
テトラ     服はもういいんだ、
フィン     え、
クロラ     どうして、
テトラ     その代わり、ほら、

テトラ、カラフルなマスクを着ける

フィン     わあ、
クロラ     考えたね、
テトラ     似合う、
フィン     うん、とっても、

部室、ビデオカメラ、
カチンコの音、

リン      ねぇ、何か話そう、
ケイ      でもこのシーン無音だろ?
リン      でも、せっかくだし、何か話そうよ、
セイ      じゃあさ、あの時、最後にみんなで撮った時の話しようよ、
リン      いいね、

ケイ      あの時、撮影許可誰も行ってくれなくてさ、
        結局一人で行ったら嵐がきて、
        帰れなくなったんだよな、
セイ      あったねそんなこと、
ケイ      おいおい、俺本気で怖かったんだからね?
        あんときはマジでどうしようと思ったんだから、
リン      でも、その時行ってくれたおかげで、
        あんないいものが撮れたんだもん、
        感謝してる、
ケイ      まあ、それはそうだけどな、
セイ      ケイもそう思うんだ?
ケイ      なんかセイに言われると腹立つな、
セイ      えっなんで?

リン      楽しかったね、
セイ      うん、たまに嫌な時もあったけど、
ケイ      楽しかった、

リン      また、戻ってこれるかな、
セイ      また戻ってこようよ、
ケイ      だな、
リン      じゃあ、約束、
セイ      うん、約束
ケイ      ん、約束、


M Porter Robinson『Something Comforting』

歪な色の壁、
カラフルな服がいくつか落ちている、
照明ついて、消える、

部室、カメラ、
机の上にDVDが三つ、
順番に来て、持って帰っていく、
セイが部屋に入る、
部屋で深呼吸して、去る、
ケイが部屋に来る、
ちょっとDVDを眺めた後、去る、
リンが部屋に来る、
少しだけ部屋を見まわす、

リン      またね、

部屋を去る、



M Hakubi『大人になって気づいたこと』

歪な色の部屋、
散らばったカラフルな色の服が散乱する、
折りたたまれた黒い服、白い服、

カラフルな色の服を着た雑種、
黒、白の服を一瞥し、外に出ようとする、
壁に阻まれる、
壁に向かってぶつかり続ける、
暗転

明転
部室、カメラ、机、
カラフルな雑種、
プロジェクターで映し出される三人の映画、

雑種     僕もこの部屋にいた、
       三人と一緒に映画を撮った、
       喜びを、悲しみを、様々な感情を共に分かち合った、
       それでも、
雑種     僕には決心ができなかった、
       あの服を着る勇気が僕の中にはなかった、
       たったそれだけで、僕は三人とは違った存在になった、
       僕は存在として認められなくなった、
       僕は熱帯魚にすらなれなかった、
       雑種になった、定義され得ない雑種になった、
       名前を与えられない雑種になった、
       どうして、どうして、どうして、
       僕はこのままではいられないのか、
       僕はこのままで認められ得る存在になれないのか、
       どうして、どうして、どうして、
       どうして、僕は、
       僕は、
暗転
10

雑踏の音、電車の音、ドアの鍵が開く音、閉まる音、


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?