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STROKE OF FATE #2【ニンジャ二次創作Web再録】

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『大きく夢』『回転数が全て』『カクヘン』射幸心を煽る文言とLEDハナワ・リースが連なる、ジャノミチ・ストリートの目抜き通り。カード、スロット、パチンコ、オスモウ、犬など各種カジノが揃っているのが、このストリートの特色だ。

法外なレートで行われる地下ツボフリ・カジノも存在し、選ばれた者がそこでカジノとオイラン、高級大トロ粉末を楽しむことができる。こうした場所のミカジメや地下カジノの運営が、アオショーグンの収入源となっている。そんな通りにある、パーラー『カワイイタマチャン』の前。

「ナンオラー! ちっとも出ねぇじゃねえかオラー! 店長出せ! 責任取れコラー!」「アイエエエ! 困りますお客様!」ディーラー風の制服を着た女性店員が、店の前で男に難癖を付けられていた。「ザッケンナコラー!」「マ、マッポを」「呼べるモンなら呼べやオラー! スッゾ!」

通行人は遠巻きにそれを眺めて我関せずである。難癖男の腕には鯉の刺青が入っていたのだ。ヤクザ抗争の弊害である。表通りでもこんな横暴がまかり通るようになってしまった。「アイエエエエ……」あわや店員が胸ぐらを掴まれそうになったところを、スパイクつきのブレーサーをした腕が遮った。

難癖男が振り返ると、派手な柄シャツ姿で威圧的な微笑みを浮かべたリーゼントの男――ソニックブームの大きな体。「ドーモ。ウチの店で何か不手際が?」「エッ?」ソニックブームは表情の硬直した男の肩を抱き、有無を言わせず路地に引き込んでいった。「それじゃあ、ゆっくり話しましょうかねェ」

「オイ。怪我ないか」突然の展開に戸惑う店員へ、別の男が声をかける。先程の男と対照的な、暗色系の格好をした細身の男だ。見た目こそ違うが、先程の男と揃いの、アオショーグン・ヤクザクランエンブレムを付けている。「アッハイ、平気です。あの……」

その時路地の奥から派手なヤクザスラングが聞こえ、コートの男は渋面を作った。「あいつの事はこっちに任せろ。あんたは店に戻ってくれ」そう言いおき、男――シルバーカラスも路地へ消えた。困ったものだ。血の気の多い奴と一緒だと面倒が増える。

とはいえ、自分を連れ出したソニックブームのストリート状況判断は的確ではあるのだ。ストリートの者達は、自分たちを守らぬケツ持ちにミカジメは納めない。アオショーグン・ヤクザクランは外敵を追い払えると示す必要がある。その為の哨戒行動と、トロ粉末バイヤー駆除。一人で賄うには面倒だ。

何人か見つけたバイヤーは、ソニックブーム曰く「ハズレ」だ。彼らは末端。烏合の衆を束ねる元締めがいる。ここ数日のこちらの動きでニンジャを雇い入れたと知れたのか、オヤブンから聞いたようなニンジャの襲撃はない。膠着が続くのは望ましくない。何でも良い、突破口が欲しかった。

果たして先程の男は突破口となり得るか。シルバーカラスが追いついた時には、その男はゴミ捨て場で失禁し泡を吹いていた。無理からぬ事だ。ソニックブームのヤクザスラングは、ニンジャのヤクザスラングである。その威圧効果はおそらく常人ヤクザの数倍にも及ぶのだ。「その辺にしておけよ」

モノホシ・タバコに火を点けるソニックブームを横目に、シルバーカラスは身を屈め、男の頬を軽く叩いた。「おい、生きてるか」「アイエエエ……」現実に戻って来た男に、シルバーカラスは静かに尋ねる。「どうして、あんな事してた?」男は目を泳がせ、陸に上がった魚じみて口を開閉させる。

「ギャンブルなんてのは、余程じゃなきゃ損するように出来てるもんだ。万札が何枚飲み込まれりゃあ、あんな騒ぎ方ができる?」男は、ソニックブームとシルバーカラスを交互に見た。シルバーカラスがやや語調を和らげ、言う。「話しちゃくれないか」それが決定打となった。

しかし、男の証言は、二人のニンジャにとって予想の範疇を超えなかった。散発的に騒ぎを起こして、客足の減少やアオショーグン・ヤクザクランへの不信、不安を煽ることが目的。「全部喋ったので殺さないで……」「殺しゃしない。行っていいぜ。ただし、次はないと思ってくれ」「アイエエエ!」

男はゴミ捨て場から這いずるように、表通りへ向かっていった。ソニックブームが非難がましい視線を寄越すが、適当にあしらう。「放っておけば、あっちから接触してくるだろ」果たして、言葉通りの展開となった。二人を通り過ぎる男の後頭部に、クナイ・ダートが深々と突き刺さったのだ。

絶命する男を見向きもせず、二人はほぼ同時にクナイの飛び来た方角を見上げた。シルバーカラスはカタナに手をかけ、ソニックブームは煙草を革靴で踏み消し、パーラーの瓦屋根から飛び降りる影に油断ないカラテ警戒を向ける。

着地したのは、薄墨色のニンジャ装束に身を包み、縁起の良い雲を象ったクナイを、腕のホルダーに何本も挿した若いニンジャだった。「ドーモ! シグナルロケットです!」「ドーモ。ソニックブームです!」「ドーモ。シルバーカラスです」「撒き餌に食い付いてくれて嬉しいぜェ。イヤーッ!」

シグナルロケットの右手が閃く。シルバーカラスは即座に壁を蹴り、ソニックブームを飛び越えた。「イヤーッ!」空中で抜刀し、着地時には利き手に逆手でカタナを握っている。コンマ数秒後、両断された雲型クナイ・ダートが足元に落ちて硬質な音を立てた。

「掛かったなイディオットめ!」「掛かったのはテメェだ、シグナルロケット=サン!」シグナルロケットの襟元にとまる昇り龍のエンブレムに、ソニックブームが獰猛に笑う。一方、カタナを収めたシルバーカラスは舌打ちした。「悪いな旦那、面倒を増やした」

シルバーカラスが断ち割ったクナイから、薄墨色の煙が爆ぜ、視界が奪われた。ナムサン! 煙幕だ!「俺のケムリに巻かれて死ね!」シグナルロケットの哄笑に表情を険しくしたシルバーカラスの傍らで、鼻で笑うようなアトモスフィアが確かにあった。


ストローク・オブ・フェイト ♯2 終わり ♯3へ続く