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【ドラマ】長安二十四時を完走した感想です

長安二十四時の全解禁感想戦です。見終わった人向け。展開の話とか登場人物の突っ込んだ話をしていきます。何の情報も仕入れずにドラマが見たい人はこっちの方がいいかも。

▲展開や人物についての言及を一切避けた感想です。概要とかもこっち

「長安」に囚われた人たち

このドラマには、阿倍仲麻呂の従者だった日本人の職人が、物語の後半に出てくる。長安を母国に持ち帰って「小さいのでいいから作りたい」と言う職人は、その時傷だらけの中年男である張小敬を「美しい」と評した。そして「美とは執着だ」と続ける(実際、この直後に張小敬が工房で見せる戦いは、とても美しく撮影されている)。

この職人が言う「美」は、このドラマに出てくる主要な人間全てに宿る。

舞台である「長安」に執着している人々が、長安という都をどう思い、どう生きるのか、なにを愛し、なにに縋りつくのかという、彼や彼女の執着を浮き彫りにしていきます。

同じ動機を抱えているけど行いが正反対だった張小敬と龍波は、守るのか壊すのかの違いはあっても、長安そのものに愛憎を重ねていたように思います。日本人の職人も長安に執着しているから日本に長安を作ろうとしてるし、推しのイス王子も、(話が本当なら唐に亡命した王族の生き残りらしいので)長安から出ると命が危ないからキリスト教系の僧として長安にしがみついている。

そうした長安に対する執着を受けてなお魅力的に輝くことができるのが、華やかなりし魔都長安だったんだろうな、と思います。「お前らと仕事するぐらいなら科挙なんて受けるかバーカ!」って言って長安を出て行く程参が、一番長安に囚われなかった人であったな……

最後で長安を離れる人々のシーンがモノクロなの、長安を離れるということはあの欲望で彩られた都とは無関係の人間になった、という事なのかもしれない。(随所に黒澤映画っぽさがあるので、それのオマージュなのかなあと思ったりもしている)

炎は怒りをくべて燃え上がる

このドラマにおいて、炎は怒りです。お茶をたてる時の道具だったり、酒で火炎瓶を作ったり、焼けた石、鍛冶屋の種火……誰かの怒りと共に、炎はその勢いを増していきました。その最上級が伏火雷なので、あんだけの量を長安に持ち込んだ龍波の怒りたるや……って気持ちになります。

伏火雷を使う人たちは、その人自身が、もう火のついた爆発物のように怒っている。怒りの対象は身内を謀殺した官僚であったり、社会の理不尽だったり色々で、翳りの兆しが見える唐で貪婪に輝く上元節の長安見てるとね。まあそうなるのも仕方ないよなと思うんですけど。

同じように陛下も怒りました。あんなやべー陛下初めてだよ。終盤で陛下がえらいお怒りになられて、火のついた伏火雷(ダイナマイト)を臣下に投げつけるシーン、あんまりびっくりして笑ってしまった。

最初と最後で印象の変わる人たち

登場から退場で最初に抱いたイメージが覆る。その最たるところが詩人の程参(てい・さん)。30歳男性。

就活で長安に来たのに、事件に巻き込まれたせいで序盤で留置所にブチ込まれるところから、程参のかわいそうな一日は始まりました。

最初は、メシをよこせ、俺は何もしてないと牢番に迫る姿のコミカルさに「あわれな李白ワナビーよ……」と思ってたら、丸一日ブチ込まれていたせいで、事件関係者とちょくちょく顔を合わせるようになってきた。重要な場面にも出くわしたり、証言を入手したり。政治のパワーで自分をブチ込んだ靖安司のトップが交代しても、武装勢力の襲撃に遭っても、ブチ込まれている限り安全だったうえ、考える時間だけは山ほどある。

そうして事件も佳境に入った終盤、程参は化けた。これまで自分が見聞きした情報を元手に、安楽椅子探偵ならぬ牢名主探偵として、事件の概要と実行犯の後ろにいる人間を堂々と喝破してみせた。残念ながら最初の聞き手には信用されなかったんですけど。

事件を影で動かしていたと思われる人についても、何人もいる密偵にしても、「オマエだったの?!」って思うような第一印象とのギャップを見せてきます。

皇帝(作中では聖人と呼ばれていた)だけは「俺が神だよ」って姿勢で、重用している佞臣についても「そいつは朕の体内にいる虫」っていう言い草。ただ、その聖人も、たった数時間でその傲慢さをめちゃくちゃにされてしまう。

さまざまな人物に裏表や隠し事があるなかで、唯一、小敬だけが「長安を守る」という兵士の誇りを貫き通したというのも良さがありました。龍波も、最後には一番誇りある頃の自分に戻って死んでいくので、たぶんプライドというのも登場人物の話をする軸になりそう。

とかく語り口の多いドラマなので、また放送する機会があったら是非見ていただいて、人の感想が読みたいよなと思うのでよろしくお願いします。