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テキストをカラテする

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テキスト創作の成果物とその紹介
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2022年10月の記事一覧

古木の番

古木の番

 甘い香の匂いが汗で消え、合わない沓で踵から血が滲む頃、マホは、山の祠に辿り着いた。刺繍が入って重たい花嫁装束から手を放し、深く息を吸う。紅樹独特の胸がすく香りが、病んだ肺に満ちる。おまえには、この匂いが薬になると、姉はよく言っていたものだ。

「大丈夫だよ、私は幸せだから。あなたも体を治して、どうか幸せに」

 山の加護と引き換えに、ヌシに差し出す「つがい」が姉に決まった。里の衆が報せと「誠意」

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ないものばなし「食べる本屋」

ないものばなし「食べる本屋」

 ご存じの通りふくろうなので、都会からやや離れた場所に住んでいる。夜静かなのが良いけれど、車がないと不便なのは、やや困る。ふくろうにも車はあった方が便利だ。

 ただ、不便と引き換えに楽しい出会いがあって、この間、散歩の途中に面白い店を見つけた。その店に初めて訪れた時の話をしようと思う。

 縺励の↑縺?悄蝨ーにある、「たべる本屋」。喫茶店だ。レトロな外観で、木製のスタンド看板によれば「お好きな本

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