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Cinderellaでカオスを描く:繰り返し関数の分類

「カオスCGコレクション」(川上博著:サイエンス社:以下「この本」)の1.3節「平面上に点列を生成する」で,繰り返しの関数(式)において「ヤコビ行列式」$${J(x,y)}$$というものを考え,$${|J(x,y)|}$$ の値によって次の3つに分類しています。ヤコビ行列についての説明はここでは割愛します。この本でもあまり詳しくは書かれていません。

(a) $${|J(x,y)|=1}$$:面積が保存される写像
 写された図形の面積は元の図形の面積と等しくなる。
 これによる「軌道」は次の4つのいずれかとなる。
 (1) 固定点,周期点
 (2) 閉曲線群
 (3) カオス
 (4) 発散する軌道
(b) $${|J(x,y)|<1}$$:面積が縮小する写像
 これによる「軌道」は次のいずれかとなる。
 (1) 固定点,周期点
 (2) カオス
(c) $${|J(x,y)|>1}$$:面積が変化する写像
 これによる「軌道」は次のいずれかとなる。
 (1) 安定固定点,周期点
 (2) 孤立した閉曲線
 (3) カオス
 (4) 不安定固定点,周期点

この中に出ている「固定点」「閉曲線群」などについて,いくつか例示されています。そこで,それらの例を使ってまとめて実験できるツールを作成しました。

初期画面は次のようになっており,「(a) $${|J(x,y)|=1}$$:面積が保存される写像」の場合です。
関数が2つ用意されています。はじめは関数1が選ばれています。

関数1   $${x_{n+1}=y_n+a x_n+4 \tan ^{-1}(x_n)}$$
      $${y_{n+1}=- x_n}$$

a の値の初期値は 0.55 です。これは,他のタイプでも同じです。

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Cinderellaでカオスを描く:鳥の翼」と異なり,描かれているのはいくつもの閉曲線です。画面上の6つの点は6つの初期値を表す点です。たとえば,中央のピーナッツ型の閉曲線が通る点がありますが,この点からはじめて1000回の変換をして描かれたのがこのピーナッツ型の閉曲線です。
Cinderellaでカオスを描く:鳥の翼・計測」で,はじめの何個かを順に表示していくことをやりました。初期値の点から始めて順に点が打たれていきました。これが「軌道」です。鳥の翼では,点はあちこちに散らばり,たくさんの点を打つと全体が鳥の翼の形になるのでした。それに対して,こちらは回数を増やしていっても色が変わっていくだけで図形は変わりません。つまりこのピーナッツ型の閉曲線の上だけに点があるわけです。
また,楕円がいくつかありますが,線上に点があるものとないものがあります。点がないものは,いずれかの点で描かれた軌道です。
どれか1つ,たとえば右上の点を動かしてみましょう。
6つの楕円が同時に動き,原点に近づけていくと1つの閉曲線になります。

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他の点も動かしてみましょう。
次に,係数a を変えてみましょう。スライダを使うと0.01刻みでどんどん変わっていきます。2つのボタン「←」「→」で 0.01ずつ増減できます。回数も増やすと閉曲線がはっきりします。

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「関数2」ボタンを押してみましょう。関数は
      $${x_{n+1}=y_n+a x_n+\dfrac{4 \tan ^{-1}(x_n)}{1+x_n^2}}$$
      $${y_{n+1}=- x_n}$$
に変わります。
中央に多くの点が打たれています。カオスです。

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次に,右上の「面積縮小型」ボタンを押して,面積縮小型の関数に変えましょう。

      $${x_{n+1}=y_n+a x_n+4 \tan ^{-1}(x_n)}$$
      $${y_{n+1}=- 0.9 x_n}$$

$${y_{n+1}}$$ の係数が $${-0.9}$$ になりました。$${a}$$ の値は 0.55 に戻しましょう。

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画面上にはさきほどあった緑の点が減って1つになり,他に2つの点があります。図形は描かれていません。
原点にある緑の点をドラッグしてみましょう。閉曲線やカオスの図とも違う図が出ました。橙色の点がいくつも打たれていますがある点に集中していくように見えます。

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点の数を増やしてもあまり変わりません。よく見ると中央付近に収束していくようです。さらにドラッグして,2つの青い点のうち,左下の点まで持っていくと,橙色の細かい点が消えます。これが「安定固定点」です。原点に関して対称な点にもっていくと,やはり橙色の点は消えます。すなわち,これらの点は関数による変換によって動かない点なわけです。
こんどは,右上の点に近づけていくと,6つの橙色の点ができます。これが「安定な6周期点」です。

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この「安定点」は,係数 a の値によって変化します。aの値を変えてやってみましょう。こんどはここが「安定な6周期点」になりました。6つのうちどの点に緑の点を持っていっても同じ図になります。

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次は「面積変化型」です。関数の式は次のようになります。

      $${x_{n+1}=0.9 y_n+a x_n+ \tan ^{-1}(y_n)}$$
      $${y_{n+1}=- x_n}$$

$${x_{n+1}}$$ の$${y_n}$$ の係数が $${0.9}$$ となり,$${\tan ^{-1}()}$$ の中が $${y_n}$$ になりました。
初期値の点は6個に戻りました。橙色の点が散在していますが,それを囲むようにちょっとでこぼこした閉曲線が描かれています。緑の点を移動しても閉曲線は変化しません。

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回数を増やしていくとこの閉曲線の色が変わっていきます。ということは,増やした点はこの閉曲線上に乗るということです。初期値に関係なく,これがただ1つのアトラクタ:「安定な孤立閉曲線」です。
$${a}$$ の値によっては次のようになります。「面積縮小型」のときと同様,「安定な周期点」になるのです。橙色の点が収束していく点に初期値の点をもっていくと,橙色の点は消えます。この図では4つの周期点です。6つになることもあります。

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いかがでしょうか。それぞれの型の場合について,すべての$${a}$$ の値を探索したわけではありません。探索するとどんなものが現れるでしょうか。
おもしろいのでぜひやってみてください。


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