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Cinderellaでカオスを描く:概観と文献

 CinderellaとCindyJSを用いてカオスを描いていきます。図を描くだけならCinderellaでなくても Python などでも描けます。高校数学の知識があればよいものもあり,高校でのプログラミングの題材にもなります。Cinderellaを用いているのは,CinderellaからHTMLに書き出して,CindyJSでWeb上でインタラクティブに操作できるものが簡単に作れるからです。

「カオス」の図を分類する

ここでは,数学的な議論はひとまずおいて、「カオス」として示されている図をタイプ別に挙げましょう。

ロジスティック写像の分岐図。どこかで見たことがあるでしょう。「ロジスティック写像」で解説します。

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前の図と関連します。ロジスティック写像の図(リターンマップ)です。本によっては、ロジスティック写像と書いていないものもあります。

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有名なローレンツアトラクタ。レスラーアトラクタも同じ仲間です。3次元の図なので,軸を回転して視点が変えられるようにします。

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ジャパニーズアトラクタ。同じ「アトラクタ」でも、ローレンツアトラクタとはちょっと違います。こちらは「ポアンカレ断面」を表示しているものです。

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ダモウスキー・ミラ写像。これも、「カオス」としてよく見るのではないでしょうか。鳥の羽のように見えます。エノン写像もこの仲間です。

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上の4つ(初めの2つはいずれもロジスティック写像)をどのように分類たかというと
・離散力学系か、常微分方程式か
ロジスティック写像とダモウスキー・ミラ写像は離散力学系、ローレンツアトラクタとジャパニーズアトラクタは常微分方程式。
・軌道かポアンカレ断面か
ジャパニーズアトラクタはポアンカレ断面。ロジスティック写像の図以外は軌道。(ダモウスキー・ミラ写像を軌道というかどうかは意見が分かれるでしょう)
といったところです。では、「離散力学系」「常微分方程式」「軌道」「ポアンカレ断面」とは? これらの用語も順に解説していきましょう

文献

10年ほど前の時点のものです。今はさらに新しい本が出ているかもしれません。

・カオスCGコレクション 川上博著 1990年 サイエンス社

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BASIC言語でカオスをCGとして表示しよう、という本。グモウスキー・ミラ写像型のカオスが主です。池田アトラクタ、エノン写像も登場します。CGとして表示することが目的なので、カオスについての理論的な内容はあまり書かれていません。ただ、付録の用語集には、カオスに関して使われる用語の説明が載っていて便利です。このマガジンでは,まずこの本に書かれているさまざまなカオスをインタラクティブに描いていきます。

・カオス 新しい科学をつくる ジェイムズ・グリック著 1991年 新潮文庫

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カオス理論に関しては名著と言われています。カオスに関わった人たちを中心に、ドキュメンタリー風な読み物となっています。数学的な内容はあまり含まれていません。歴史書といったほうがよいでしょう。ただし、ジャパニーズアトラクタについてはあまり書かれていません。鳥の羽のようなグモウスキー・ミラ写像も登場しません。マンデルブロとフラクタルは登場します。
もう本屋には並んでいないでしょう。古本マーケットで入手できるかもしれません。

・カオスの現象学 芹沢浩 1993年東京図書

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カオスについてよく整理されていて読みやすい本です。付録にルンゲクッタ法の説明と、C言語によるサンプルプログラムがあります。

・カオス入門 山口昌哉著 1996年 朝倉書店

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「カオス全書」の第1巻。テント写像からはじまり、「周期」「離散力学系」「リー・ヨークの定理」「リアプノフ指数」「微分方程式の離散化(差分方程式)」の意味が比較的わかりやすく書かれています。数式で説明されていて、やはり高校数学ではちょっときついですが、なんとなくイメージは掴めるでしょう。ローレンツアトラクタ、ストレンジアトラクタ、グモウスキー・ミラ写像型のカオスは登場しません。

・物理と数学の不思議な関係 マルコム・ E・ラインズ著 青木薫訳 1998年 三田出版会

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全12章のうち、第7章38ページがカオス。章のタイトルは「方程式は単純、解は複雑 ニュートンから量子カオスまで」で、タイトルがカオスの性質をぴったり示しています。ニュートンの万有引力の法則で惑星の軌道が計算でき、海王星や冥王星の存在が予言できたこと。しかし、三体問題(3つの天体の動き)となると計算では解けず、計算機の数値計算が必要になること、ローレンツがカオスを発見した経緯、ロジスティック写像の電卓による数値実験、ファイゲンバウム定数の話と進みます。読み物です。簡単な数式しかでてきませんが、だからわかりやすいかというと何とも言えません。これは他の本でも言えることですが、数式なら簡単に表現できることを数式を使わずに説明しようとすると難しい。なお、この本ではファイゲンバウムについて結構詳しく書いてありますが、カオス発見物語の主役ともいうべきロバート・メイやリー、ヨークは登場しません。

・カオスのエッセンス E.N.ローレンツ著 1997年 共立出版

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1990年にワシントン大学で一般向けに行なわれた一連の講義を本にまとめたもの。一般向けということで数式はほとんど使われていません。(付録には数式を用いた説明もあります) 中でも第4章「カオスとの遭遇」は、ローレンツが気象学の研究からローレンツアトラクタを発見した経緯とその後の話で大変興味深いものです。カオスとは何かというイメージを掴むのにもよい本でしょう。ローレンツアトラクタについて知るには必読の書です。

・複雑系を超えて カオス発見から未来へ 上田睆亮・西村和雄・稲垣耕作 1999年 筑摩書房

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1997年の上田睆亮の講演に加筆推敲した第1章「カオスの本質」ではジャパニーズアトラクタについてかなり詳しく書かれています。第4章の3者による鼎談では、歴史的な話題もあり、カオス発見の経緯もわかります。ジャパニーズアトラクタについては必読の書でしょう。

・数学は世界を解明できるか カオスと予定調和 丹羽敏雄著 1999年 中公新書

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ニュートンの運動方程式によって物体の運動は決まる。ということは、数式で未来が予測できる。その考え方を変えたのが「カオス」であることを、数式を用いずに科学史的に解説したものです。力学系とか非線形とか、そういう数学的用語を使わなくても、ある意味でカオスの本質を知ることのできる本です。

・カオスとフラクタル Excelで体験 臼田昭司他共著 1999年 オーム社

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「Excelで学ぶ理工系シミュレーション入門」のカオスとフラクタルの部分を1冊の本にしたような内容です。著者も共通。第1部入門編 カオスとフラクタルへのガイダンス 第2部実践編。 第1部の入門編は、ロジスティック写像、パイこね変換、ストレンジアトラクタを中心に、用語もひととおり出てきます。フラクタルも、フラクタル次元から、セルオートマトン、コッホ曲線、シェルピンスキー・ギャスケット、マンデルブロ集合とひととおり出てきます。ただし、詳しい解説はありません。第2部の実践編では、Excelを使って、エノンアトラクタ、ロジスティック写像の周期倍分岐図、ローレンツアトラクタ(2次元)、グモウスキー・ミラ写像、ジャパニーズアトラクタの他、二重振り子、バネと重りの運動をカオスの例として、コッホ曲線、カントール集合、シェルピンスキー・ギャスケット、シダ、マンデルブロ集合などをフラクタルの例として描画します。本のタイトル通り、理論というより、「Excelで体験する」ための本です。

・カオスはこうして発見された ラルフ・エイブラハム、ヨシスケ・ウエダ著 稲垣・赤松訳 2002年 共立出版

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カオスの研究についての先駆者に依頼した文章を集めたもので、理論より当時の様子を書いたものです。スメールの馬蹄写像、ジャパニーズアトラクタ、ローレンツアトラクタ、グモウスキー・ミラ写像など、一通り登場します。カオスを概観するには絶好の書。特に、グリックの「カオス」にはほとんど書かれていないジャパニーズアトラクタにまつわる話が上田睆亮本人によって書かれており、非常に興味深いです。

・Excelで学ぶ理工系シミュレーション入門 臼田昭司・伊藤敏・井上祥史 2003年 CQ出版社

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微分方程式、流体、電場、不平等電界など、さまざまなシミュレーションをExcelで行なう例がたくさん載っています。付属CDには本に掲載されているワークシートが入っているカオスについても、例を見て入力すれば体験ができます。ただし、カオスの本ではないので理論的なことはわからりません。まさに「入門」といえるでしょう。

・非線形科学 蔵本由紀著 2007年 集英社新書

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自然現象を説明する科学の一つに非線形科学という分野があります。たとえば、ローレンツの式は非線形微分方程式です。この非線形科学について、新書という性格上、数式をできるだけ使わずに解説した本です。カオスに関する用語も一通り出てきます。「○○を△△といいます」という表現で、用語の意味を把握しやすい。他書にはないBZ反応とカオスについても書かれています。ベナール対流についても詳しい解説になっており(数式で記述できないという限界はありますが)、ローレンツアトラクタとパイコネ変換の関係についても説明があります。カオスについて概観し、あるいは整理するにはよい本です。

・力学系入門 原著第2版 Hirsch , Smale , Devaney 著 桐木他訳 2007年 共立出版

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力学系について本格的に勉強したい人のための入門書としておすすめです。高校数学レベルではちょっときついかもしれません。とはいえ、偏微分、行列、ノルムといった、大学で学ぶ数学の基本的なことがわかれば大丈夫。よく整理されていて分かりやすい。ただ、値段が高い。420ページくらいの本ですが、6300円。図書館で手に取って、「よし」と思ったら買いましょう。

・カオスとフラクタル 山口昌哉著 2010年 ちくま学芸文庫

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1986年にブルーバックスで出ていたもの。2010年にちくま学芸文庫で復刊。復刊にあたり、合原一幸氏が解説を書いていますが、一読の価値があります。
内容は、パイこね変換、テント写像、ロジスティック写像、ローレンツアトラクタ、ジャパニーズアトラクタ、コッホ曲線、カントール集合、マンデルブロ集合、ジュリア集合など。数式を用いた説明もあり、高校数学ではちょっときつい部分もあります。グモウスキー・ミラ写像は登場しません。

次節:Cinderellaでカオスを描く:関数の反復

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