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宮脇俊三・灯子と旅に出よう

 宮脇俊三の「時刻表2万キロ」を読んだのはいつだっただろう。
小学館の鉄道マガジン「人気列車で行こう」に,宮脇俊三の鉄道紀行抄録が連載されていた。2011年の発行で,当時はそれもサッと斜め読みしただけで,特に興味はなかった。だから,「時刻表2万キロ」を読むに気になったきっかけも思い出せない。
 読んでみたら面白くて,市の図書館で宮脇俊三の本を片っ端から読んだ。もしかすると,それらのうちのどれかを先に読んで,面白かったから「時刻表2万キロ」を買ったのかもしれない。
 それはいつだっただろうか。10年は経っていないはずだ。

 ふと思いついた。「時刻表2万キロ」は今はPDFになってハードディスクの書庫に納まっているが,Amazonで買ったのではないか。
 Amazonで買ったものは記録している。調べてみると,あった。2014年8月だ。同じ日に,「父・宮脇俊三への旅(宮脇灯子)」を電子本(Kindle)で買っている。続いて9月には「私の途中下車人生」をやはり電子本で買っている。
 これではっきりした。図書館の旅行のコーナーで「最長片道切符の旅」か何かを見つけて読んでみて,面白かったからAmazonで検索したのだろう。そのときに「父・宮脇俊三への旅」もヒットしたので同時に買ったのだ。
 「父・宮脇俊三への旅」は結構感動しながら読んだので,それまでに宮脇俊三の本は「2万キロ」も含めて,何冊か読んでいて,宮脇家の様子がわかっていたから,「ああいいなあ」と思ったのだろう。
 時系列が見えてきた。

 青春18きっぷで旅を始めたのが2012年。旅行用に自転車を買ったのが2014年6月。宮脇俊三を読み始めたのと時期がほぼ一致している。
 私の場合は,ローカル線は好むが,完乗をめざすのでもなく,全駅制覇を目指すのでもない。乗り鉄でも撮り鉄でも,呑み鉄でもない。鉄道で目的地まで行き,付近を自転車で走るのが第一で,できればローカル線で車窓をながめながらのんびり行きたいというくらいだ。そんなとき,宮脇俊三が乗った路線を後追いしてみたくなるのだ。
 その「後追い」をしたのが,娘の灯子。「父・宮脇俊三への旅」は,作家となったあとの父の思い出話だが,2008年に発行された「父・宮脇俊三が愛したレールの響きを追って(JTBパブリッシング)」では,父が乗った路線を後追いしている。銚子電鉄,釜石線など12路線。本の帯にはこう書いてある。

記者旅一年生,天上の父と同行二人"鉄の細道"
四国のお遍路さんは,姿の見えぬ弘法大師といつも一緒の気持ちで「同行二人」と笠に書く。亡き父の鉄道紀行の跡をたどる娘も同じ気持ちだが,さすが次世代の旅人,新しい感覚が行間にあふれ出て,読者を魅了してくれるところは見事。
                          ー 小池 滋

「父・宮脇俊三への旅」は,旅と書いてあるが,実際に旅をしているわけではない。「父・宮脇俊三への」のタイトル通り,紀行作家としての宮脇俊三ではなく,父としての宮脇俊三の記憶の中を旅しているのだ。
 一方の「父・宮脇俊三が愛したレールの響きを追って」は紀行文。宮脇俊三の著書に出てくる路線を後追いで旅する。
 しかし,いずれの本を読んでも,こうして娘が自分のあとを旅してくれるというのは,紀行作家宮脇俊三にとっては幸せなことだろうと,うらやましくも思える。

 12路線には,銚子電鉄のように行ったことのある線もあれば,五能線のようにまだ行ったことのない線もある。宮脇俊三の著書に出てくる線も同様。たとえば,「二万キロ」の最後の一線となった足尾線は,今はわたらせ渓谷鉄道だ。私も桐生から乗ったことがある。今読み直してみると,自分の旅を懐かしく感じる。
 中には,今度行こうと計画を立てているところもある。「あ,ここに載ってた」。
 これからの旅行を計画を立てるとき,二人の著書をもう一度読み直してからというのもいいだろう。