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高校「情報」:4月初めのスキル調査結果とその後

 情報の授業の開始時(4月初め)に,コンピュータの操作がどのくらいできるかの調査をしている。質問項目は次のようなものだ。いずれも,はい / いいえで答える。

キーボードの「ホームポジション」を知っていますか。
キーボードをあまり見ずに打つことができますか。
「半角」と「全角」の違いを説明できますか。
ファイルやフォルダの名前を変えることができますか。
ファイルを別のフォルダにコピーすることができますか。
WORDでフォントやフォントサイズの変更ができますか。 
Excelでセル幅の変更ができますか。 
Excelで合計や平均を求めることができますか。
スクリーンショットをとることができますか。 
パソコンでインターネットを使ったことがありますか。
次の用語について説明できますか。
  ファイルとフォルダ 
  拡張子 
  テキストファイル 
  マルチウィンドウ
  フォント
  ドラッグ・アンド・ドロップ 

他にもあるが,だいたいこのようなものだ。年によって少しずつ変わっているが,要は「どのくらいコンピュータを使ってきたか」を知りたい。インターネットの利用についてはほぼ100%だが,他はどうか。ここ数年間の結果は次のようになっている。担当したクラスだけなので母集団の人数は異なるし,文系 / 理系 の割合も違うから,単純には比較できないが,だいたいの傾向はわかるだろう。値は%

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中学校の技術家庭でどのくらいコンピュータを使ってきているのか,だいたい想像がつく。インターネットは使っているが,キーボードがどんどん打てるわけではないし,ファイルのコピーさえ怪しい。したがって,授業の初めはキーボードの打ち方から始める。20年前と変わらない。

 さて,こういう状態で授業をスタートして,その後どうなるか。キーボードが打てる/打てないや,用語を知っている/知らない,はハンディとなるか。

 最初の授業では,「実習ハンドブック」という自作テキストを使い,ノートパソコンにある,入力モードなどのインジケータの確認,「クリック」などの用語の確認,キーボードのホームポジションの説明などを行う。そののち,実習テキストを配り,キーボードの使い方をWordを使って一通りやる。65分授業で,初めの説明が終わった後,この実習は30分くらいだ。

(1) Wordを起動し,白紙を選ぶ(新規作成)
  なお,フルスクリーン表示になっていたらマルチウィンドウに変える。
(2) 漢字入力モードにして,タイトル「キーボードの使い方」を書く。
  1行空けて3行目に HRNO と氏名 を書く。
  タイトルのフォントサイズを14ポイントにする。
  タイトルと,HRNOをセンタリングする。半角入力モードに戻す。
(3) Ctrl+S で保存メニューを出し,「keyboard」のファイル名で保存。
  「実習課題の作成と提出」に書かれているように,出席番号をつける。
  保存先は,自分の個人フォルダ。
(4) HRNO 氏名のあと1行空けて,5行目に,右手の人さし指で届く範囲の
  キーを打つ。(j,h,y,u,n,m) (ここから本文で1行目)
  続けて,左手の人さし指で届く範囲のキー(f,g,r,t,v,b)を打って改行。
  このとき,Wordが勝手に先頭のJを大文字に変えてしまうがそのままでよい
(5) Shift+CapsLock で大文字入力モードにして, 本文の2行目に(4) を大文字で
  打つ。
(6) Shift+CapsLock で大文字入力モードを解除し,NumLockで数字入力モード
  にして,Kの付近のキーを適当に打ち,青色の文字が出ることを確認する。
  ここまでで,本文としては3行書いたことになる。
  NumLockで数字入力モードを解除しておく。
(7) 本文の1行目を,Shift キーとカーソルキーで選択する。Ctrl+C で記憶し,
  本文の4行目に Ctrl+V で貼り付ける(コピー&ペースト)  
(8) 本文の2行目を,Shift キーとカーソルキーで選択する。Ctrl+X で記憶し,
  本文の5行目に Ctrl+V で貼り付ける(カット&ペースト)
  2行目が削除され,3行目から後が詰められる。
(9) スクリーンショットをとってペイントに貼り付け,デスクトップの一部
 (左上のファイルアイコンを6つほど)を,編集中のWordの書類に貼る。
  画像は,中央付近に置く。
必須課題はここまで。次の(10)は時間があればやる。
(10) 裏面にある,J.F.Kennedy の 「Let Us Begin Beguine」 を打ち込む。
  ホームポジションを意識してキータイプすること。

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初めはそろって進める。HRNO 氏名を書き,センタリングするまでだ。センタリングの方法を説明する必要がある。教員卓のパソコンでモニターしながら,遅い生徒もできるまで待つ。ここで一旦保存し,保存方法も説明する。
そのあとは各自ペースで進める。どこまでいけるか。
速い生徒で,Let Us Begin の2,3行までだ。キーボードが打てて,テキストを読みながらスクリーンショットもできれば,5分とかからない内容だが,各自ペースの20分くらいでもそこまでしかいかない。(HRNO,氏名とファイル保存までで,そろって進めると10分近くかかる)

事前調査のスキルと,この実習の相関はどうか。それぞれスコア化して,2クラスについて相関係数を調べたところ,0.50 と 0.43 であった。まあまあ,相関がある,つまり,アンケートの結果は実情とそれほどかけ離れてはいないといいうことだ。

 キーボードを打つのが遅い,ソフトを使った経験があまりない,用語についての知識があまりない,ということは,当然授業でハンディになると思われる。
 では,1学期末の時点でどうなっているか。実習ポイント(1回10ポイントとして10回前後)との相関,期末試験の得点との相関を調べてみた。

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相関係数は0.23と-0.01。期末試験に至っては無相関という結果が出ている。

つまり,学期初めのスキルの差は,初めは影響があるが,だんだんなくなっていくということだ。学期の初めに,「実習が間に合わなくてもその後ちゃんと復習していれば期末試験ではいい点が取れます」と言っているが,その通りになっている。

 こう書くと,「初めのスキルの差を引きずらなくて済むいい授業をやっている」ように評価されるのだろうが,実は少し違う。
 そう,「遅い人に合わせている」からだ。授業はたいてい「初めは揃っていきますから,できた人は待っていてください」で始める。教員のパソコンでモニタできるので,全員が「打てた」ところで先に進む。慣れた人なら10数秒で打てる内容が2分,3分とかかるのだ。教材フォルダから使用する教材ファイルを自分のフォルダにコピーするという作業さえ,指示してから全員ができるまで1分はかかる。
 ある程度進んだところで,「この先はテキストを読みながら各自のペースで」とする。そうでないと予定の課題が終わらないからだ。相談可。しかし課題が終わらない者が何人も出る。ただし,やり残しても次回には影響しない。「ここまでできればよい」という必須ラインがあり,その少し前までは揃ってやっているからだ。あまりにも進まなければ次の時間に延長することになる。

 実際の分量はどうか。自分だったら,考えて,打ち込んで15分くらいでできる内容を,65分の授業でやるくらいがちょうどいい。ワープロを使ってのレポートなら十数行の分量だ。

 これが,高校生の実情なのだが,さて,どのくらい知られているのだろうか。

 なお,生徒たちの名誉のために書いておこう。キーボードを打つのが遅く,テキストを読み込む力が弱いとはいえ,ほとんどの生徒は真面目に取り組んでいるし,2学期の終わりにはかなり打てるようになる。優秀な者も多い。こちらの要求水準が高いのかもしれないが,情報の授業をいい加減にやっている学校と比べたら,大学入学時点でかなりのスキルの差になっているだろう。