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学び直しの算数:分数のわり算

「分数で割るとき,分母・分子をいれかえてかけるのはなぜ?」
よくある問いです。ひとことで言えば,「わり算は逆数をかけることと同じだから」なのですが,すると次の疑問が出るでしょう。
・「逆数」って何
・なぜ逆数をかけることと同じなの
・逆数って,小学校で習うの
これも,一言で言えば「小学校の教科書に書いてあるよ」なのですが,教科書がなければわかりませんね。
そこで,本稿ではこのあたりを考えていくことにします。

わり算の学習の順序

 わり算はどのような順序で学ぶのか,小学校の教科書を見ていきます。かけ算の学習順序については「学び直しの算数:かけ算」に書きました。同じように書いていくと膨大になるので,ここでは簡単に進めていきます。
 小学校の算数の教科書では,かけ算と同じく,わり算についても,次の手順で学びを進めます。

① まず,新しい計算方法が必要な場面設定をする。
② 計算式の立て方を決める。 
③ 計算方法を考える。
④ 計算手順について成り立つ性質を考える
⑤ 他の場面でも同じ立式,計算ができることを確かめる。

これを,はじめは整数について行い,次に小数,次に分数と進めていくのです。ただし,かけ算と大きく異なるのは,「割り切れないときの処理」があることです。整数のときは,割り切れないときは「余り」が出ます。小数になると,どこで余りを出すのかが問題になります。また概数(四捨五入)も関係します。分数になると,余りは問題になりません。このあたりの違いもしっかり認識しておく必要があり,わり算はかけ算よりずっとむずかしくなるのです。

整数のわり算:わり算記号の導入

 わり算を学ぶのは3年生の5月頃です。2年生で九九を覚え,3年生になって0と10のかけ算を学んでからわり算に入ります。
場面設定は,お菓子などを何人かに分けるというものです。カードでもよいでしょう。「同じ数ずつ分ける」です。
「12このクッキーを4人に同じ数ずつ分けると,一人分は何こか」という問題設定をし,教具のブロック等を使って,実際に配り,答えが3こであることを確かめます。その後,わり算記号を導入します。

学校図書 小学校3年算数

次に計算方法を考えます。九九の逆算です。たとえば15このあめを3人で分けるとして,次のようにします。

学校図書 小学校3年算数

次に,場面設定を変えます。
「12このクッキーをひとりに4こずつ分けると,何人に分けられるか」です。これを算数教育の用語では「包含除」といい,前のものを「等分除」と言うのですが,この用語を覚える必要はないでしょう。要は「異なる場面でも同じ計算式を立てて計算することができる」ということを確かめるのです。
 このあと,「0を割る」「10を割る」を確かめ,「36÷3」のように,九九の範囲では逆算ができないものも考えます。考え方はいろいろあります。

整数のわり算:あまりの意味

 具体的な場面設定をして,割り切れないときのことを考えます。それを次のようにまとめます。

学校図書 小学校3年算数

わり算の筆算

 わり算の筆算は,4年生の4月に学びます。ただし,3年生で「36÷3」のような例で少し準備をしています。まず2桁の数を1桁の数で割る場合について,おなじみの筆算の書き方を学びます。「たてる」「かける」「ひく」です。その後,3桁÷1桁もやります。
 そのあと図形を学んで,2桁の数で割るのは7月に飛びます。1桁で割るときの手順をそのまま使いますが,商を立てるのが少し難しくなります。

小数のわり算


 小数のわり算は,5年生の6月頃,小数のかけ算に続いて学びます。かけ算もそうですが,小数になると「個数」ではなくなるので状況判断が一気に難しくなります。かけ算同様,水の量で考えます。

学校図書 小学校5年算数

「3Lで360円」なら,360÷3 という式はすぐに立つでしょう。しかし,1.8Lのとき,360÷1.8 とたてられるでしょうか。「同じようにすればいい」のですが,整数から小数になるとそれが難しいのです。実際,だいきくんが疑問に思っていますし,教科書にはこのあとに「めあて」として,「整数と同じようにわり算で考えていいのかな」と書かれています。
 ところで,この図ですが,量を線分で表していて(線分図),右側に「単位量あたりの大きさ」というのがあります。比例と単位量あたりの大きさを,小数のかけ算の前に学んでいるのですが,さて,この図と右の表の意味がわかるでしょうか。なかなか難しいでしょう。(単位量あたりの大きさについては,別稿で論じます)
 このあと,いろいろな考え方をして,次の筆算の方法にたどりつきます。

学校図書 小学校5年算数

次は小数÷小数ですが,同じように線分図と「単位量あたりの大きさ」を用いて考えていき,筆算で「小数点をずらす」という方法を学びます。

小数のわり算:余りとわり進め

 整数だけのわり算と異なり,小数が導入されると「余り」の扱いが大きく変わります。
 たとえば,4.5÷1.5 は商に3を立てて解決しますが,4.8÷1.5 だと,商に3を立てた後,「かける」「ひく」で,3があまってしまいます。これを「余り」とするかどうかです。余りとするなら,余りは3でしょうか0.3でしょうか。これを「余り」とせずに,割る数の小数点以下に0が続いているものとして,つづけて商をたてていくのが「わり進め」です。教科書では「わり進め」という言葉の意味を説明せずにいきなり使っているかも知れません。学校図書の教科書がそうです。

学校図書 小学校5年算数

 わり進めてもいつまでも割り切れないときは,途中でやめて,商を概数で答えます。たとえば「小数第三位を四捨五入して小数第二位までの数で答える」とします。また,商を整数でとめて,「余り」とすることもあります。

学校図書 小学校5年算数

分数のわり算 : 分数÷整数


分数のわり算は6年生で,分数のかけ算とともに学んでいきます。
まず,分数×整数 をやったのち,分数÷整数 をやります。学校図書の教科書では,次の例で状況設定をします。

学校図書 小学校6年算数

問題文を読んで,「1dLは2dLの半分だから答えは$${\dfrac{2}{5}}$$」と即座に答えを出した人も多いでしょう。では,図と表と右側に書かれた「見方・考え方」はどうでしょうか。
線分の図と表は,小数のわり算のときと同様です。ただし,5年生では□だったものが6年生では$${x}$$になっています。文字$${x}$$を使うのは,分数のかけ算の前に学んでいます。
線分図と表から,これまでと同じように「わり算の式」を立てるのですが,「分数で割る」という式がすんなり立てられるかどうかが最初のハードルです。
「見方・考え方」の2番目はどうでしょう。$${x \times 2 = \dfrac{4}{5}}$$ と表せるのはいいとして,それからどうするのでしょうか。文字を導入したときに

学校図書 小学校6年算数

として,かけ算の式からわり算で$${x}$$を求めることを学んでいるのです。したがって,$${x \times 2 = \dfrac{4}{5}}$$ から,わり算の式を立てるということです。
では,式が立ったとしてどのように計算するか。いくつかの方法を示しています。
(1) 縦横1mの正方形を等分した図を使う

学校図書 小学校6年算数

この図を使って,$${ \dfrac{4}{5} \div 2=\dfrac{1}{5 \times 2} \times 4}$$ と計算します。
(2) 「分数のかけ算のときと同じように考えて,わり算のときは分子をわります。$${ \dfrac{4}{5} \div 2=\dfrac{4 \div 2}{5}}$$ 」としています。しかし,「同じように考えて」がすんなり考えられるでしょうか。かけ算で分子にかけたのでわり算なら分子を割る,ということでしょうか。なぜ「分子」なのでしょう。ちょっとひっかかりますね。とはいえ,問題文を読んですぐに答えを出したひとはこの計算をしているわけです。
(3) 次のような式変形をします。
 $${ \dfrac{4}{5} \div 2=\left( \dfrac{4}{5} \times 5 \right) \div (2 \times 5)=4 \div (2 \times 5)}$$ 
 または,$${ \dfrac{4}{5} \div 2= \dfrac{4 \times 2}{5 \times 2} \div 3 = \dfrac{4 \times 2 \div 2 }{5 \times 2} = \dfrac{4}{5 \times 2}}$$ 

このように,いろいろな方法をやったのち,次のようにまとめます。

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分数のわり算 : 分数÷分数

いよいよ「分数でわる」です。
状況設定は「$${\dfrac{2}{5}m^2 }$$ のへいをぬるのに,ペンキを$${\dfrac{1}{4}}$$ dL使います。1dLあたり何$${m^2}$$ ぬれますか」です。先ほどと同じように線分図,表を作り式を立てます。ここで問題になるのは次の点です。
 $${\dfrac{2}{5} \div 4}$$なら$${\dfrac{2}{5 \times 4}$$ で求められたけど,同じように考えると分母の中に分数がはいってしまう。
 そこで,改めて図を描いて $${\dfrac{1}{5}m^2}$$が $${(2 \times 4)}$$個分あるから $${\dfrac{2}{5} \div \dfrac{1}{4}=\dfrac{2 \times 4}{5}}$$ と考えます。
 あるいは,つぎのように考えます。

学校図書 小学校6年算数

このあと,教科書では「計算のきまりを使って考えました」として,次の方法を示しています。

学校図書 小学校6年算数

しかし,本当にこんな方法を思いつくものでしょうか。逆数を使う? なぜ?
「逆数」は,直前の分数×分数のところで次のように導入されます。

学校図書 小学校6年算数

しかし,「逆数を使ってわる数を1にする」という発想はどこから出るのでしょう。ほとんど無理でしょうね。
図を描かないなら,$${\dfrac{1}{4}}$$ dLで$${\left(\dfrac{2}{5} \div 3 \right)m^2}$$ ぬれるので,$${\dfrac{2}{5} \div 3 \times 4=\dfrac{2 times 4}{5 \times 3}}$$ とするのがよいでしょう。

かくして,次の結論を得ます。

学校図書 小学校6年算数

以後は,分数のわり算がでてきたら,これを使うことになります。

なぜ分母・分子をいれかえてかけるのか

 本稿のテーマは「分数で割るとき,分母・分子をいれかえてかけるのはなぜ?」でした。これを説明するのに,わり算のはじめから説明するのはとても大変です。分数のわり算では余りは考えない ということもあるので,余りの話をする必要もないでしょう。あれこれ考えずに最後の例を用いて説明すればよさそうですが,そもそも教科書の進め方は,「新しい計算方法を導入するために,まず状況設定を行い,式を立てて(式を定義),どのような手順で計算すればよいかを考える」のでした。「かべをぬる」という状況設定があるので説明ができるのです。その状況設定なしに説明するにはどうしましょうか。

① まず整数でわることを考える。
 「aでわる」ことと $${\dfrac{1}{a}}$$ をかけることは同じだ。( a は具体的に2でも3でもよいでしょう)
② a と $${\dfrac{1}{a}}$$ をかけると1になる。このような数を「逆数」という。
③ わり算は逆数をかけるのと同じだ。
④ $${\dfrac{d}{c}}$$ の逆数は$${\dfrac{d}{c}}$$ なので,$${\dfrac{d}{c}}$$ でわるには$${\dfrac{d}{c}}$$をかければよい。

このとき,①の段階で納得がいかなければ具体的な状況設定をして説明することになりますが,いずれにしてもそう簡単ではありませんね。

分数のわり算は必要か

 分数のわり算は必要ですか? と聞いたら,あたりまえでしょ,といわれそうですね。しかし,本当に必要になるのは,中学以降,方程式を扱うようになってからでしょう。教科書の進め方を思い出してください。「新しい計算方法を導入するために,まず状況設定を行い,式を立てて(式を定義),どのような手順で計算すればよいかを考える」のでした。新しい計算方法を考えるのでなければ,問題を解くのに必ずしも立式は必要ではないでしょう。どういうことかというと,先ほどの「$${\dfrac{2}{5}m^2 }$$ のへいをぬるのに,ペンキを$${\dfrac{3}{4}}$$ dL使います。1dLあたり何$${m^2}$$ ぬれますか」を考えましょう。わり算の式$${\dfrac{2}{5} \div \dfrac{3}{4}}$$を立てなくても,

学校図書 小学校6年算数

とすればよいわけです。分数のわり算を使うのではなく「単位量あたりのおおきさ」と「比例」を使っています。単位量を$${\dfrac{1}{4}}$$dL とし,「4個分なので」は比例の考え方を使っています。こうすれば,わり算の式を立てなくても,いや立てられなくても問題の答えは得ることができます。さらに,1dLは$${\dfrac{3}{4}}$$ の$${\dfrac{4}{3}}$$倍だから(かけたら1になる)$${\dfrac{2}{5} \times \dfrac{4}{3}}$$ と考える子がいてもいいでしょう。分数のわり算の計算のしかたを知っているべきなのはもちろんですが,具体的な問題(文章題)に対して,必ずしもわり算の式を立てなくても結果を得ることはできるわけです。そのあたり,柔軟に考えたいですね。

< 参考文献>
算数授業論究 わり算の本質 2013年: 算数授業研究 Vol.89 東洋館出版社