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大学入試共通テスト 情報Ⅰ 試作問題(検討用イメージ)を現役生が解くと

3学期の最後(学年末試験の前)に,大学入試共通テスト 情報Ⅰ 試作問題(イメージ)を解かせてみた。全問ではない。現在の情報(勤務校は「社会と情報」)の内容で解ける範囲のものだ。時間制限もある。選んだのは次の4問だ。

第1問 情報に関する用語の知識
第2問 情報量とその計算
第5問 プログラミング:シーザー暗号
第4問 交通渋滞シミュレーション

第3問の画像処理:画像のモノクロ化 は履修していない内容なので無理。
第6問以降も,現在の教科書の内容からして難しいか,無理だ。
また,プログラミングを優先したので第4問の方があとになっている。

このうち,第4問のシミュレーションに関しては,愛知県立小牧高等学校の井出先生が実践し,情報処理学会で研究報告された論文が同校のWebページに載っている。

 これに関して,今回の勤務校での結果と合わせて考察する。

小牧高等学校の実践手順は以下のようになっている。(論文から引用)

本研究では,試作問題のうち 第 4 問「交通渋滞シミュレーション」(以下,「試作問題(第 4 問)」と表記)を実際に生徒に解答させた.さらに試作問題(第 4 問)を題材としたシミュレーションの授業を行い, その後,改めて同じ問題を解答させ,解答にどのような変化が生じるか検証した.

 対象は1年生280名で,実施時期は2020年12月。「社会と情報」の時間を2コマ使っている。2学期にシミュレーションの単元については学習済みである。(「社会と情報」では「発展」に位置付けられている)。2コマの進行については同論文を参照されたい。

 まず気になったのは正答率である。勤務校でつい先日(2月)行ったものとの比較。ただし,条件が異なることを頭に入れた上で考える。今回の演習は次のような条件のもとに行われている。

・対象は2年生。文系1クラスと理系1クラス(他のクラスは進度の関係でやらず)
・2学期末に「待ち行列」のシミュレーションをやっている。「処理時間は一定で,ランダムに客が到着し,処理が終わるまで待つ」という点で,この問題は待ち行列の問題だと言える。
・この問題は解答時間60分の,全4問のうち最後に置かれている。
 したがって,3問目までに時間を取ると解答時間が少なくなる。おそらく15分の時間は取れなかっただろう。
・それまでに,大学入試センター試験「情報関係基礎」の過去問演習を4ヵ年分やっているので,問題形式には少し慣れている。
・1学期末に「まとめ」という意味でやっており,教科書と,それまでに使った配布テキストは自由に見てよい。相談は不可。
・居眠りしている生徒がいてもあえて起こさなかった。そのかわり,無答欄が多く,寝ていたかやる気がなかったと思われるもの3名分は集計から除外した。

 正答率を見る前に,この問題の難易度を考えておこう。詳しくは,試作問題を参照してもらいたいが,次のような問題である。

国道を県道の交差点がある。
国道は60秒間の青信号と30秒間の赤信号が交互に変わる。
交差点にはランダムに車が到着する。
シミュレーションの結果図3と,条件を変えた結果図4が示されている。

画像1

設問は
,現状の条件のうち,到着台数を変えずに (ア) したところ図4のようになっ た。この結果から,現状の条件と比べ (イ) と(ウ) が分かった。

このうち,(ア)について考えてみる。(ア)の選択肢は次の通り。

画像2

問題には他の事柄もいろいろ書かれており,図2として交差点の到着台数のグラフもある。これらを読んで,解答に必要な情報を抜き出すことができるかどうかだ。(ア)を答えるにあたり

・到着台数のグラフは不要(到着台数の条件は変えていない)
・図3と図4で違うところはどこか。図4は県道の渋滞改善されている・・・待ち時間が減った・・・県道側から見て,赤が短く,青が長くなった。・・・国道から見て青が短く赤が長くなった。 ・・・ 判断材料(a)

と,ここまではいいだろう。すると,選択肢0,3のいずれかとなる。では,0,3のどちらなのか。
 図の山と谷のところを見る。そこは信号の変わり目だ。赤と青の合計が90で変わりはない。・・・ 判断材料(b)
 したがって,赤と青の合計が90の3が正解である。

 別に難しい問題ではない。しかし,これまで授業をやってきた感覚から,(ア)の正答率を40%と予想した。イ,ウも40%である。
 なぜ難しくないのに40%なのか。「難しくない」のは,示されているものーー説明と図から必要なものを論理的に絞り込んで判断することができればどうということはないからだ。しかしその力ーー論理的な読解力ーー が今の生徒は弱い,と感じているからだ。

結果はどうか。

回答欄 ア の 正答率 小牧高校:35.3 勤務校:42.1

ほぼ予想通りだ。判断材料(b)が読めていないのだ。
 小牧高校の論文には

解答欄「ア」は, グラフの横軸と縦軸の関係が理解できると正解にたどり着 ける問題であるため,多くの生徒が横軸と縦軸の関係につ いて理解できていないことがわかる.一方,事後(n=275) を見ると,165 名(60.0%)の生徒が選択肢「3」を解答できるようになっている.ただし言い換えると 110 名(40.0%)
の生徒は,まだ正確にグラフを読み取ることができていない.

と書かれているが,判断材料(b)に着眼できているかどうかは書かれていない。

 回答欄イウ については,小牧高校の論文には,各選択肢の選択数が書かれていて,個々の生徒のその組み合わせと正答状況(2つ正解,1つ正解)については不明である。したがって比較しにくい(論文にするなら同じ形式で集計するが)

アイウを各1点の3点満点とした合計点については比較できる。

小牧高校 0点(22.3)1点(44.6)2点(29.4)3点(3.7)
勤務校  0点(23.7)1点(35.5)2点(30.3)3点(10.5)

前述のように,いろいろな条件が異なるので単純に比較はできないが,傾向としては同じようなものだということがわかるだろう。

なお,小牧高校の論文には

解答欄「イ」「ウ」は,2 つのグラフ(図 1 における図 3 と図 4)から読み取ることができる情報を 6 つの 選択肢から 2 つ選択して解答する.このように 2 つのグラ フ(信号時間の変更前と変更後)から正確に情報を読み取り解答する必要があるため,解答欄「ア」と比較して問題 の難易度は高い.

と書かれているが,筆者はそうは考えない。(ア)の時点で2つのグラフを比較する必要があるからだ。筆者は(イ)(ウ)を,消去法も用いて(これはありえない)考えたが,おそらく,井出先生とはアプローチのしかたが異なるのだろう。

 小牧高校では,このあとシミュレーションの授業をやって事後の調査もしている。そのときに使ったシミュレーションファイルは,Excelのマクロで作られている。筆者ならCindyscriptでプログラムを書くところだが,同じことだ。この教材を作るのは結構大変だっただろうと推測される。

 筆者は,大学入試センター試験「情報関係基礎」の過去問で,プログラミングの問題を解かせたあと,1コマ(65分)をかけて実際にコーディングし,追加課題も付加して動かす授業を行なっている。教科書のシミュレーションの問題もプログラミングをさせて動かし,考察を加えてレポートを書かせている。やはり紙の上だけでなく実際にコンピュータを動かしてシミュレーションを行うことは大切だろう。小牧高校の実践はそういう意味で,たいへんすぐれたものだといえる。

 論文では「おわりに」に,次のことが書かれている。

試作問題(第 4 問)のような発展的な問題 に対応するためには,次の(ア)および(イ)の力を身に付ける必要があると考える.
(ア)複数のグラフを比較することができ,そこから情報を正確かつ瞬時に読み取る分析力
(イ)文章を正確に読み取り,何が問題になっているのかを正確かつ瞬時に把握する読解力
このうち(ア)は予測できたことであるが,シミュレーションの単元だけで(ア)を身に付けさせようとしていたのでは,実際の共通テストに対応できるだけの思考力・判断力・表現力は身に付かないと考える.一方,(イ)はこれ まで情報科の授業ではあまり重きを置いていなかったことであるために,情報科の教員にとって大きな課題であることが明らかとなった.

(イ)については,情報科の授業だけの問題ではない。すべての教科で必要なことだ。筆者が今までに何度も書いている通り「生徒はテキストを読む力が弱い」のだ。統計のグラフにしても「作り方」は教えて,「作って」きてはいるが,それを「読む」ということについては手薄だ。小中学校で培ってきた力が,「教えてもらって,覚えて使う」に偏っていると考えざるを得ない。

 考えを深めるために,実際にコンピュータを動かすことで理解させる。そのための教材を作る,ということのできる教員がますます必要になってくる。現状を考えるとかなり危機的な状況ではないだろうか。