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Shure SM7Bってどんなもんよ? 宅録ならアリアリよ

 この記事は何年か前に書いていたのですが、お蔵入りしていたのを復活させました。
 今持ってる機材とは相違があります。

 イーヴィルな斉藤(@evilsaitoh)です。
 私はNeumann TLM103というマイクを使っています。

Neumann TLM103

 ただ、ノイマン全体に言えるのですが、かなり感度が良いです。
 自己ノイズはかなり低くてこりゃいいな、と思っていましたが、ルームトーンが強く入ります。他のコンデンサーよりもシビアっすね。
 反射音を取り除くのに手間かかるのが面倒だったんですよね。

 というわけで。

 Shure SM7Bというダイナミックマイクを買いました。
 実はこのマイクを買うのは二回目。バカか?
 レビューしていきます。

Shure SM7B(ダイナミックマイク)のレビュー

Shure SM7B

①音について(概要)

 ダイナミックマイクは基本作られた音ではあるんですが、SM7Bはかなりクセが少ない方です。かなり素直な出音というか。

 ド定番のマイク・SM58みたいに「素直な音にするためにEQでがっつり削ったり盛ったりする」というスタートラインに立つまでの作業が不要で、単に「高域が足りないから足す」という作業のみで済むのはとても楽。
(完全にルームトーンがなくなるわけではないので、細かくEQしたいなら止めませんが)

②周波数帯について

 低域寄りです。
 よくあるダイナミックマイクは「中域のイイところが出ない」みたいな印象なんですが、SM7Bは低域が大きいだけで他の周波数帯もきちんと出ています。

 コンデンサーマイクに比べれば超高域は出ていませんが、超高域はノイズが多い帯域でもあるのと、声の帯域分はきちんと出ているので、特に問題はありません。
(表現したいもの次第って感じで、太さがいらないならやはりコンデンサーが良いですね)

③近接効果について

 低音はマイクから離れることでいくらでもコントロールできるのであまりレビューする意味はありませんが……遠くから録っても整った音に、近い距離で録っても「渋い音を狙ったんだなぁ」と思えるくらいの低域の量感です。

 レビューでは「近接効果ゼロ!」と言ってるものを見かけましたが、それは言い過ぎにしても、(普通に10~15cmくらい離れれば)扱いやすい方だと思います。

④太さについて

 コンデンサーマイクに比べれば太いです。
 コンデンサーで太さを出すにはマイキング・コンプ・サチュレーション…と色々気を遣いますが、SM7Bはさくっと良いテイクを録るにはとてもいいですね。

⑤ルームトーン・ノイズについて

 他のダイナミックマイクと比べてもかなり反響を拾わない方です。
 また、ヘッドホンからの音漏れもかなり拾わない方で、結果としてボーカルがかなりアイソレートされた形で録音できます。これは予想通り。
(ルームトーンやヘッドホンからのオケの音漏れが入るとリバーブがきれいに乗らない)

 また、キーボードの音なども入りにくい方です。少なくともコンデンサーよりは入りません。

 一方で、自己ノイズは普通程度には入ります。
(感度が低いので、マイクプリの性能に左右されます)
 あと一応ハムノイズを抑える機能があるらしいんですが、さほど恩恵を感じませんでした。

 また、私の環境では、一般的なマイクケーブル(XLR-TSフォン)だとかなりノイズが載りました。一聴でわかるくらい。
 コンデンサーマイクに使うようなXLR-XLRのマイクケーブルだとノイズは出ませんでした。
(たまたま買ったHOSAのケーブルが悪かったのかも?)

 SM7Bは感度が低く、強く増幅しなければならないので、4芯のケーブルのがノイズを拾いにくいそうです(伝聞)。
(可聴域のノイズではないので、問題なければ別に買い換えなくてもいいと思います)

BELDEN 1192A XLRケーブル 3m EC-1192A-B-03(4芯)

⑥扱いやすさについて

 重たいのでマイクアームによっては固定できないこと以外は特に注意することはありません。
 また、コンデンサーマイクよりも雑に扱ってよいのも良いところ。埃だけ気をつけましょう。

⑥-1 ゲインの稼ぎにくさについて

 こんなマイナー記事を読んでいるということは「SM7Bは感度が低いからパワーのあるマイクプリが必要」などは知っていることでしょう。

 ちなみに、私は+75dBの増幅が可能なSSL AlphaChannelというマイクプリを使用していますが、ノブを9割回してやっとちゃんとしたゲインを稼げています。
(Shure公式では「最低でも+60dBできるマイクプリ使え!」と言われています)

SSL AlphaChannel(販売終了)

⑥-2 背面スイッチについて

SM7Bの背面スイッチ

 2つの機能があり、
①ローカットスイッチ
②中高域を上げるスイッチ(プレゼンススイッチ)
 があります。

 私はどちらも使いませんでした。
 SM7Bに限らず、無闇にローカットを薦める人がいますが、「エフェクトを入れる時は音を聴いてからにしろ」は鉄則なので、別に必要なければ削らないようにしましょう。
(宅録では低域ノイズがありがちなのも事実なので、聴いたうえで必要なら入れましょう)

 中高域のプレゼンススイッチはクセが強い音になります。
 確かに声の聞きやすさは上がりますが、ちょっとゼンハイザーっぽい高域のピークが出る感じ。

 どっちも悪い音ではないけど、SM7Bは自然さが売りなので俺は使ってません。EQは録った後でやるし。

⑥-3 配置・マイキングについて

 私の場合、付属の風防にさらにポップガードを付けています。
 ポップフィルターがなくても破裂音が問題になることはまずないんですが、私は無闇にマイクに近づくクセがあるので付けてます。

 また、マイキングは横側から狙うのがいいかと思います。
 上下方向は低域が増えたり減ったりするんですが、ダイナミックマイクは低域が多くなりがち、つまり「録音された音のうち低域の割合が多い」ということなので、低域が増えたり減ったりすると全体の音量が変わります。

 毎度低域コントロールするつもりならいいんですが、PCに据え付けるなら録る度に印象変わるのは困る場合が多いかと思います。

 横側なら吹かれも発生せず、比較的声の印象も変わりにくいです。

⑦-1 他のマイクとの比較(Neumann TLM103)

 コンデンサーマイク・Neumann TLM103との比較です。
(方式が違うのであまり意味がありませんが)

○Neumann TLM103の特徴
 フラットとは言えない特性を持っています。
 ただ、ピークがあるかと言われればそんなこともなく……中高域が上がってるけど滑らかに上がっている感じ。
 息を吸うときの空気感とか歌い始めの緊張感とかが録れる代わりに、かなりルームトーンが録れてしまうのできちんと吸音対策をしなければなりません。
 また、田舎に住んでると夜カエルのゲコゲコ音も録れるので、ある意味では使用地域が限られます。
 自己ノイズが非常に低いので、吸音の対策さえすればかなり澄んだ音が録れます。さすがノイマン。

○Shure SM7Bの特徴
 低域寄りです。
 ただ、ダイナミックマイクにしては自然な方です。
 とにかく声以外のものを録らないのでリバーブもコンプも効きがよく、またゲートを通しても自然です。
 とにかく宅録はルームトーンとの戦いになりますが、毎日録るならコンデンサーより楽で、結果的に良い音で録れる気はしています。

⑦-2 他のマイクとの比較(SENNHEISER e935)


SENNHEISER e935

 ダイナミックマイク・SENNHEISER e935との比較です。

○SENNHEISER e935
 ドンシャリ。かなり作られた音です。
 中高域がガッツリ上がっていて、クセは強いですね(クリアに聞こえるのでとても良いマイクです)。
 というか、SENNHEISERは高域に特有の癖がありますね。
 男性らしい帯域(300Hz以降)が少し減っていて、男性の声のガラガラしたところが減って聞きやすい反面、普段から声が高いタイプは「カッ」「シッ」などのシビランスが出ます。ディエッサー必須。
 近いとそれなりに近接効果が出るので、意識して離すか、マイクアームに固定してちょっと離れめで録る必要があります。

○Shure SM7Bの特徴
 
低域寄りですが……e935と比べるとフラットです。
 クセは少なく、目指すミックスがある場合、EQの効きが素直なので扱いやすいです(コンデンサーより素直には効きませんが)。
 一方で、クセがある方が配信などでは「その人のキャラクター」になるので、使いどころかな、と思います。
 飾り気がない方なので、普通に話すと普通な音です。声張ったら見栄えがしますね。
 特徴がないように聞こえるかもしれませんが、この普通さに助けられる場面が何回もありました。

⑦-3 インラインマイクプリ(マイクブースター)は必要か?

Triton Audio FetHead

 過去にTriton Audio FetHead(マイクプリ前段でゲインを稼ぐブースター)を使ったこともありますが、別にノイズは減りませんでした。

 やってることはファンタム電源でマイクプリを駆動しているだけなので、それなりのマイクプリを使っている人は別途購入することはないんじゃないか、と思います。
(オーディオIF直で音が細くてノイズが多い人は使えばいいんじゃないでしょうか)

まとめと後書き

  • 音は低域寄りだけど適切に離れればバランス良く録れる

  • 太さが欲しいならオススメ。繊細さや解像度が必要ならコンデンサーのがオススメ。

  • ルームトーン、ヘッドホンからの音漏れが入りにくく、リバーブやコンプの効きが良い

  • 自然さが売りなので、パッと聴き良いマイクが欲しいならTelefunken m80やSENNHEISER e935のがいいかもしれない

 「マイケル・ジャクソンの『スリラー』で使われたマイク!」というのが強調されて伝わっていますが、当時のエンジニアが「使ったら周りに変な顔されたぜ!」と語っているので、当時はあまり良いレコーディング・マイクと思われていなかったようです。

SHURE SM7 (B)の歴史 ~ 強化された SM57(Shure公式)

 MJの技巧やミキシングが優れているのも含めて歴史的なマイクとなったので、「有名なマイクだから良いに違いない」と盲信しないのを薦めます。

 たぶん、30cm離れて録ったらSM58と区別できない人はいるでしょう。それくらいの差です。
 でも、その差に価値があると思うなら十分な仕事をしてくれるマイクという印象です。

※2024/08/01追記
 今は手放してしまったので完全に当時の主観ですが、
① 30cm以上離れて録るならノイズ量は変わらないです。ダイナミックマイク全般そうですがとにかく部屋鳴りが入りにくいので部屋の音響対策ができていない場合、コンデンサーよりも扱いやすい(EQやコンプが効きやすい)音になります。
② 良くも悪くもShureくさい音がします。SM58っぽい。マジで30cm離れたらSM7BとSM58で録り音比較しても違いはわからないと思います。
③ SM7Bは手で持つ形状ではないので、どうしてもマイクアームに固定して遠くから話すことになるので、上の①と②から「ノイズあんまり減らないしSM58と変わらない音」になりがちです。常に顔の近くにマイクを置くと普段邪魔だし。
 私はこれらの理由から2度手放してしまいました。

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