生活者の音楽
tiny pop。タイニーポップ。実体はよくわからないし明確な定義も存在しない、アドホックな命名である。どうやらしょぼいポップスのことを指すらしい。正確に言えば「明確にポップス構造を持った、しかし小さくささやかな音楽」のことだという。tinyという言葉を使うのは「しょぼい」という言葉のネガティブなイメージを払拭するためなのだろう。あえてtiny popと書いている(ライターの天野龍太郎氏の提案による)のも記号的に面白い。
僕はtiny popを生活者による音楽として捉えている。しかもそれはジャンルというよりは音楽の捉え方や哲学に近い。普段は別の生活を営みながらも、音楽に対する限りなく大きなエネルギーを抱えた人たちが作り出す音楽。その表現は必然的に生活感覚や現実逃避になる。いわゆるシティポップも都市生活者またはその憧憬を指向したものであったし、癒やしの表現としてリゾート的逃避も確かにあった。tiny popではかつてのそういった音楽に影響を受けながらも、しかし、よりオブスキュアで、多様であり、なにより「些細(tiny)」だ。何もなかった日常の、さまざまな些細な幸福がそこでは語られている。そしてそれは標準化された「東京」上で展開される日常ではなく、インターネットを通じて接続された無限個の都市の日常なのである。
ロックスターは存在しない。イベントはデイイベント。打ち上げはサイゼリヤ。翌日は普通に仕事。
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この文章は2019年10月7日に東京上野恩賜公園で行われたイベント「tiny pop fes」で販売された『【CD-R】tiny pop fes disc 1』のzineに寄稿したものである。一時期マルテンブックスでも販売されていたようだが、削除された模様。筆者も現物は所有していない。持ってる人はレアですよ。30年後くらいにヤフオク出してみてください。
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