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昔の話 (子供の頃、一緒に遊んだ放し飼いの犬のこと)

私は秋田県の小さな町の出身でして、小学校までは片道4キロの道のりを、低学年、高学年入り混じって登下校してた。
市街地を通り、そして遮るもののない田んぼの一本道をひたすら歩いて通っていた。
たまに畦道にヤギがいたり、農繁期は近所の人が話しかけてくれたりと何もない道もそれなりに楽しかった思い出がある。
色んな植物も覚えられたし、小川でザリガニとりなんかもしたしね。

私たちの小さな集落の入り口にはちょっと大きな川があって、そこにかかる橋の上で大抵いつもジュリーという名前の犬が待っていた。

ジュリーは橋の側の何でも屋さんの犬で、お店のおばさんがおおらかだったのか
いつも放し飼いにされて子供らと良く遊んでた。

白に茶色のブチがある雑種の犬で、片耳がハチ公のように垂れていた。

ジュリーは小学校の子供らが帰ってくる時間になるとよく橋の上に立って
子供らを待っていた。
遠くから子供らが橋の上で待つジュリーに
『ジュリーーー!!』
なんて声をかけると、ジュリーはいつも嬉しそうに尻尾をブンブン振って
子供らのところまで駆け寄ってきてたのだ。

集落の子供たちはみんなジュリーと仲良しだったし、
ジュリーも子供たちの事が大好きだったと思う。

広場でみんなで鬼ごっこをして遊んでると、ジュリーも混ざって走り回っていたし、かくれんぼなんかはジュリーがいる事で見つかっちゃたりして、それはそれで楽しかったなあ。


ある時、私はどうしても補助輪なしの自転車に乗れるようになりたくて、広場で一人で練習してた。

今にも雷がなりそうな黒い雲が立ち込める空で、雨もポツポツと降ってきた。
でもどうしてもその日に乗れるようになりたかったのでギリギリまで必死で練習してた。
そんなあやしい天気だったからか、広場には大人も子供も誰も居ず、私は一人でコケては乗り、コケては乗り、を繰り返してた。

そこにもジュリーがいてくれた。

時々、近寄ったり離れたりして、
一人だったけどひとりじゃなかった。
とても心強かったし、安心して練習できた。

ジュリーがいるから大丈夫って。

みんなで遊ぶ時も、たまに一人でいるときも
ジュリーが居てくれると安心した。


そのうち私達も成長して中学生になり、それぞれ自分の時間で通学した。   ジュリーも歳をとってあまり出歩かなくなったのか、外でジュリーと戯れることもなくなっていた。

ある時、何でも屋さんの庭でジュリーを見かけなくなったので気になって
ジュリーの事をおばさんに聞いてみた。

『ジュリーは?』

おばさんは

『ジュリーは車に轢かれて死んじゃった。』


それからしばらくして、ジュリーがいたところに
若い柴犬がつながれてた。

前のジュリーのように人懐っこいのかと思って近寄ったら
思いっきり吠えられた。

おばさんに
『前みたいに放し飼いにしないの?』
って聞いたら、
『もうしない』
って言われた。

そうか。と思ったけど少し寂しかったのを覚えている。

それから時間は緩やかに過ぎていき、私たちもだんだんジュリーがいない事が当たり前になって、みんなそれぞれの道に進み、それぞれの土地に散らばって行った。

でも、あの自由に子供たちと楽しそうに遊ぶ犬のことは
30年以上たった今でも忘れられない。

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