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歳末
昼下がり。高架下を自転車で飛んでいく子供を羨ましく思ったので、きっと僕は大人になった。
斯くして、大人を自覚するタイミングは思いがけない。成人するとか、お年玉をあげる立場になるとか、子供を授かるとか、もっと普遍的な大人を想像させる出来事で人は大人を自覚するんだと思っていた。
僕がそうではないのは、きっと子供の頃から責任感を持っていて、大人になって遊び心を無くしたからだ。大人に対して、否定的だからだ。
十九時にもなると太陽も、太陽の輪郭も、太陽の輪郭をなぞる明るい空気もまとめて地球の下に落ちて見えなくなった。
僕は散歩にすら疲れて公園のベンチで村上春樹のラジオを聴いている。深く腰掛け直す。背もたれにも体重を預ける。浮いた体重分の力で手頃な石を蹴飛ばす。タバコか酒でもあれば格好がつくんだろうか、僕には足癖を悪くするだけで精一杯だった。
蹴飛ばした石が暗闇の中に見えなくなった。
街灯のあるベンチの周り以外は、世界を暗闇が食んでいる。
もう暫くして朝になると太陽が食み返す。
その頃にはもう次の年が世界を食んでいる。
歳末をおぼえるのは存外、そういった時だ。
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