人気漫画家・松本千秋さんが実践する「リアルな恋愛の描きかた」とは? #物語のつくりかた
『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』『トーキョーカモフラージュアワー』などの作品で人気の漫画家・松本千秋さんをお招きして、ご自身が実践する「リアルな恋愛」の描きかたを教えていただく講座を開催しました。
どうすれば多くのひとの胸に刺さり、共感される作品になるのか? ネタの見つけ方から表現方法まで、物語をつくるうえで大切なことを自作を例に出しながらわかりやすく教えてくださいました。この記事では、講座のポイントをピックアップしてお届けします。
いま「note創作大賞」への応募を考えているクリエイターのみなさんにも参考にしていただける内容です。ぜひご覧ください。
漫画家 松本 千秋さん
恋愛を描くには「共感」されることが大事
松本さん 恋愛を描くには読者の「共感」を得ることが何より大事です。共感されるような題材を探すやり方としては、二つあります。
一つめは、「他人の人生から物語を借りる」こと。私は、Twitterの鍵アカで婚活系の女子を片っ端からフォローして、その方の日常を見させていただいています。彼女たちのツイートを見ると、いまの女の子がどこで相手と出会い、どういう恋愛の悩みを抱えているのかがわかります。非常に参考になりますね。
さまざまなツイートが流れてくるなかで、「こういう痛みは自分も知っている」と思えるような、自分の心にスッと入ってくるワードを集めます。また、ツイートに対してどれだけいいねがついているかもチェックします。賛同しているひとが多ければ、これは多くの女の子が悩んでいることなんだと判断して、描いてみることにしています。
そうやって描いたら、とりあえず一コマだけでも自分のTwitterにアップしてみます。そこである程度いいねがついたら需要があると判断し、一本の作品にすることもあります。やっぱり周囲の反応は参考にすべきです。作品をつくる上で、自己完結は一番よくない。とにかく出してみないと答えがわからないですから。
上のマンガは、私の実体験を元に描いたものです。「#トーキョーカモフラージュアワー」とハッシュタグがついていますが、まだ発表されていません。自分の経験がみんなの共感を呼ぶのか試してみようと、Twitterにアップしました。ある程度反応があったので、そのうちこのシーンが入ったマンガを描こうと思っています。
自分の体験から物語をつむぐ
松本さん 共感の見つけ方の二つめは、「自分の体験から物語をつむぐ」こと。別にドラマティックじゃなくていいんです。派手な事件も起きなくていいし、起承転結もなくていい。むしろ、自分の日常のちょっとしたことを書くほうがほかのひととかぶらないし、いままでになかったシーンになります。自分のなかではパターン化しているけど、ドラマのシーンでは見たことないなというものが見つかったらチャンスです。それを書けばすごく個性的な作品になりますから。
私の経験では、男のひとって「低血圧だから」とか言ってなかなか起きないひとが多いんだけど、それってあまりドラマでは見たことないなと思って。それで『外の空気、中の空気』という作品で描きました。本当に私、何度もこんな朝を迎えてたよねって。自分より先に起きてコーヒー淹れてくれるひとなんかいなかったぞと。
自分にしか見えない世界を書いたほうがいいので、たとえば恋愛経験がまったくないひとは、カップルの話を書こうとはしないほうがいいです。逆に「もてない」ことと向き合ったり、一人であることについて書くのがいいのではと思いますね。恋愛経験のないひとにしか見えない風景や人間関係があるはずです。「だれとも付き合ったことがない」ことを自分の特技だと捉えるべきなんです。
自分のなかにある「変態性」にも目を向ける
松本さん 自分のなかにある「気持ち悪い」部分をさらけ出すのは、ネタとしてインパクトが大きいです。だれでも何かしらの変態性を持っていると思うんです。でも多くのひとはそういう部分を隠したがりますし、書くことを躊躇します。だから、躊躇せずに先に書いたひとの勝ちです。
たとえば、好きなひとのSNSを特定して過去の投稿までさかのぼってチェックする、とかはだれでもしていると思うんです。でも、Instagramのストーリーをチェックして、相手の動いている姿を連打でスクショしてしまうみたいなひとがもしいたとしたら、そのひとはそれを書けばいい。それだけでほかのひとより一歩抜きん出ることができます。
起承転結より情緒が大事
松本さん 物語をつくるにあたって、やっぱり起承転結がないとダメなんじゃないかと思って真面目にそこから組み立てようとする方も多いと思います。でも、たとえばコンテストに応募するときには、そんなにガチガチに組む必要はないと思っていて。ワンシーンだけでもグッとくるものがあれば、審査員はそのひとに可能性を感じるんじゃないかなと。心を動かすようなグッとくるものを最優先にすべきであって、ストーリーや読みやすさなどというのは2番目か3番目でいいんじゃないかなというのが私の考えです。
じゃあどうやってその「グッとくるワンシーン」をつくるのか、ですが、私の場合はポエムの要素を入れます。起承転結などを考えず、短い文章だけで刺さるポエムをこそ武器にすべきだなと。
たとえば、Twitterもポエムだと思います。どういう状況かの説明もなく、ただ「どうしてなの?」「辛い」みたいなツイートがいっぱい流れてくる。脈絡がないし、だれに対してつぶやいているのかもわからないけど、そういうTwitterって読んでるとすごくたのしいんですよ。みなさん、ポエムをたしなんでいるわけです。Twitterをやっているひとは、自分のツイートをさかのぼってみたら、全部ポエムだったりするかもしれませんよ。
『追憶がはじまる』という作品は、ストーリーとしては女の子が男の子に振られてしまい、「わかった、いままでありがとう」と言って別れる、というだけなんです。別れ話がこじれたわけでもないし、どうして別れることになったのかすらわからない。でも、その女の子の心の声にポエムのようなセリフを乗せれば、別に起承転結がなくても、読むひとの感情を揺さぶり、心に残すことができるんじゃないかと思って。
ポエムをつかうのはちょっと照れるという方もいらっしゃると思いますが、むしろガンガンやっちゃえばいいと思います。カッコつけて、酔っちゃっていい。
書き上げたら一回寝かせて読み直す
松本さん 作品を書き上げたら、一回寝かせてみてください。完成したと思っていても、時間を置いて読み直すと、絶対に粗が見つかりますから。ちょっと時間を置いて寝かせて、何回も何回も読み直すことは重要です。
寝かせることで俯瞰して見ることができるようになるので、型にハマっていないかどうかのチェックもしたほうがいいと思います。いろいろな小説やマンガを読んでいると、知らないうちに影響を受けているもの。その影響が作品の個性を殺してしまいます。小説やマンガによく出てくるセリフ回しをしていないか確認して、一回セリフを砕いて、ふだんつかっている言葉に戻すということをやったほうがいいと思いますね。
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登壇者プロフィール
松本 千秋さん
漫画家
1980年生まれ。東京都出身。映像制作→映像編集→専業主婦→銀座ホステス→イラスト業→漫画家。幻冬舎×テレビ東京×noteで開催した「コミックエッセイ大賞 」で入賞し、cakesで『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』を連載。現在は少年画報社ヤングキングで『トーキョーカモフラージュアワー』を連載中。
note / Twitter
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noteでは、オールジャンルの作品を募集するコンテスト「note創作大賞」を開催中です。作品の形式はテキスト、画像、動画のいずれでも、またはそれらの組み合わせでも構いません。大賞および優秀作品賞に選ばれたクリエイターとは、賞を授与した協力会社(KADOKAWA、幻冬舎、ダイヤモンド社、テレビ東京)とともに書籍化や映像化を目指して話し合いを進めます。
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