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アニメのアクション描写は「ばえる」が鉄則! 作家・深見真さん、アサウラさんに聞くディテールのきわめ方

トーク番組「物語のつくりかたRADIO」4回目のゲストは、作家の深見真ふかみまことさんとアサウラさんです。

このnoteでは、ふたりが番組中とくに熱く語りあったアニメのガンアクション描写についてレポートします。

アサウラさんには、今夏大ヒットしたアニメ『リコリス・リコイル(以下・リコリコ)』に登場するキャラクター設計の過程についても、教えていただきました。

※番組の本編については、以下のレポートをご覧ください。

ガンアクションはリアルに描くと地味に

アサウラ 自分は、物語中の小道具として銃を描くのが好きなんです。たとえばバイクや車なんかと同じように、日常的なツールとして描きたい。

でも、アニメで銃やガンアクションが描かれることは意外と少ないんですよね。理由は、手間がかかるわりにばえないから。リアルに描写すると地味になってしまうんですよね。

深見 自分たちって、小説だけじゃなくアニメ脚本やマンガ原作も書くから、ビジュアルがばえる動きは絶対入れたいって思いますよね。

アサウラ だけど、銃やガンアクションを描けるアニメーターの数はすごく限られていて。アニメは集団作業だから、スタッフの中にひとり銃にくわしいひとがいるくらいでは、なかなか作品のクオリティが上がっていかないんですよね。それが、アニメにガンアクションを取りいれるのが難しい理由のひとつになっていると思います。

深見 実写のB級アクション映画では、銃を撃ったあとに飛びちる空の薬莢やっきょうとか、弾丸が当たって壁から破片がばーって舞ったり、酒瓶が割れて飛びちったりするシーンを描きますよね。

同じことをアニメでやるのはめちゃくちゃたいへん。押井守監督の映画『イノセンス』でやっていましたけど。押井監督と、制作したプロダクションI.Gの底力がみえた作品でしたね。

アサウラ 底力、本当にそうですね。現場は相当たいへんだったみたいです。

深見 押井監督の映画『人狼 JIN-ROH』では、(第二次世界大戦時にドイツ軍が開発した)グロスフスMG42という機関銃が大量に出てきます。それを手で描くのはかなり厳しい。※弾帯だんたいとかどうするんだって。

※弾帯
機関銃の銃弾を横一列に並べて収納した帯状のもの。ベルトリンクともいう。50連、100連など多量の銃弾が連なっており、機関銃に取りつけてトリガーを引くと、自動的に次々と弾が装填される仕組み。グロスフスMG42の発射速度は、毎分1200発〜。

かといってCGでつくろうとすると、予算の関係もあって銃のパターンが減ってしまい、敵と味方が同じ銃を撃ち合うようなことになっちゃう。

潤沢な予算があれば、CGでいろいろな銃のモデルをつくったり、手描きで銃を描けるひとをたくさんスタッフに入れたりと、いろんな手がありますけど。

アニメでガンアクションを描くときは、とにかく工夫が必要ですね。

銃のキャラクターを際立てる

深見 自分が脚本を書いた『PSYCHO-PASS サイコパス』にも、※ドミネーターという銃が出てきます。これはストーリー原案を書いた虚淵玄うろぶちげんさんが発案したものなんですが、元々の発想は体温計らしいです。熱があるひとを排除する体温計。

※携帯型心理診断鎮圧執行システム ドミネーター
先端にカメラがついており、人間の犯罪係数(犯罪を犯す可能性を数値化したもの)を測定できる銃の形をした武器。係数の度合いによって銃自体が攻撃方法を選択し、それに合わせて変形する。犯罪係数が最高値を示した場合は、相手を爆死させる。

深見 いわゆる銃とは違うんですが、ドミネーターをつかったアクションは確かにアニメ向きなんですよ。ドミネーターが変形して、撃たれた相手は爆発、四散するって、実写ではやれないんじゃないですかね。

アニメでは、ドミネーターみたいに銃そのもののキャラクターか、銃をつかう人間のキャラクターが突出していないと、銃撃戦が成立しないと思います。

NGから『リコリコ』錦木千束にしきぎちさとのキャラクターが肉づけされた

アサウラ 『リコリコ』をつくるとき、主人公の少女がひとを撃つのはまずいという話が出たんですよ。TV的に。「ちょっと待てよ」と思いました(笑)。この制約は突破しないと、と。

それで、非殺傷弾や低致死弾と呼ばれるようなゴム弾をつかうことを考えました。ショットガンにしてプラスチックの弾頭を入れるとか。でも、それだと絵的にダサイ。着弾時のエフェクトがないと、アニメとしては厳しいなと思いました。

そこで、映画『ディパーテッド』の銃撃戦でつかわれているエフェクトを思い出したんです。この映画では、ひとが撃たれた瞬間に飛びちる血が、粉っぽく描かれていたんですね。

着弾時に粉々になる※フランジブル弾を非殺傷弾に変えて、着弾した瞬間に弾頭が弾け飛んで血の飛沫のように見えれば絵的にもいけるんじゃないか? と考えました。

※フランジブル弾
銅やすず、亜鉛などの粉末を型に入れて固めた銃弾。当たった瞬間に粉々に砕ける。貫通力が低い。そのため、銃撃のあとにターゲットを貫通した弾が別のひとやものに当たったり、壁などに当たって跳ねかえってきた弾によって撃ったひとが負傷したりするのを最小限に抑えることができる。弾が跳ねかえりやすい狭い場所や、機体に穴を空けてはいけない飛行機内での戦闘、射撃練習などでつかわれることが多い。

アサウラ プラスチックが原料のゴムを粉々に加工して固めた「プラスチック・フランジブル弾」という実在しない弾を設定し、血の飛沫にも見えるように赤色にしました。まずこうやって、弾が決まったんです。

ゴム弾の場合は弾頭が軽くてパワーがなく、遠距離では命中率が下がります。だから、必然的に近距離戦になるんですね。そこで、※C.A.R.カーシステムを導入することにしました。

※C.A.R.システム
射撃手法のひとつ。(C.A.R.はCenter Axis Relockの略)。近距離戦に特化して、1990年代に考案された。それまでは両腕を伸ばして銃を構えるのが一般的だったが、C.A.R.システムでは両腕を縮めて顔の目の前に銃を構える。これにより、近距離から腕を攻撃されたり、銃を奪われたりするリスクを極力回避できる。2015年日本公開の映画『ジョン・ウィック』で主人公がこの独特な構えをして好評を博したことから、その後のアクション作品でも多く用いられるようになった。

アサウラ 超近距離戦をするので、銃身の先端部にトゲトゲのスパイク(ストライクプレート)をつけ、この部分で相手を殴ったりガラス窓を割ったりなどのアクションができるようにしました。そこに足立慎吾監督が格闘シーンにヒジ打ちやキックなども取りいれて。千束特有の銃や戦闘スタイルが、こうやってできあがっていったんです。

深見 千束が弾丸をよける動きは、アニメじゃないと成立しないですよね。実写で同じことはできない。

自分はすごくうれしいんですよ。『リコリコ』がヒットしたおかげで、アニメのガンアクションには需要があるって証明されたようで。

『リコリコ』はきっとこれから先、女の子が銃を持って戦う物語を描くときの、ひとつの基準になっていくと思います。間違いなく。

▼イベントのアーカイブ音源は以下のリンク先でお聴きいただけます
小説家の可能性はどこまで広がるか? ゲスト:深見真さん&アサウラさん

ゲストプロフィール

深見真(作家)
2002年に『ブロークン・フィスト』(富士見ミステリー文庫)で小説家デビュー。その後も『ヤングガン・カルナバル』シリーズ(トクマ・ノベルズEdge→徳間文庫)、『ゴルゴタ』(徳間文庫)、『GENEZ』(ファンタジア文庫)などを刊行。また漫画原作者としても、『ちょっとかわいいアイアンメイデン』『王様達のバイキング』『魔法少女特殊戦あすか』『サキュバス&ヒットマン』など多数の作品を発表。さらにはアニメでも『PSYCHO-PASS』脚本、『ベルセルク』シリーズ構成・脚本、『ブラックロックシューター DAWN FALL』シリーズ構成・脚本など、数多くの作品に携わっている。
note/Twitter

アサウラ(作家)
大学在籍中に大賞を受賞した『黄色い花の紅』(集英社スーパーダッシュ文庫)で2006年に小説家デビュー。2008年に刊行した『ベン・トー サバの味噌煮290円』がヒットとなり、2011年にTVアニメ化。その後も『デスニードラウンド』(オーバーラップ文庫)、『英雄都市のバカども』(ファンタジア文庫)など多数刊行しつつ、ゲーム『AKIBA'S TRIP -アキバズトリップ-』シナリオ協力など、多媒体でも精力的に活動。ストーリー原案で参加した2022年7月放送開始のTVアニメ『リコリス・リコイル』が爆発的な話題となった。
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text by いとうめぐみ

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