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これからの“ローカル×発信”を考えるイベント「地方移住クリエイターとして、暮らす。」イベントレポート

長引くコロナ禍は、わたしたちの暮らしや考え方に大きな変化をもたらしました。とくにリモートワークの広がりによって、暮らす&働く場所の自由度は圧倒的に増しています。

noteでは、神奈川県足柄下郡真鶴町で真鶴出版代表を務める川口瞬さんと、静岡県賀茂郡南伊豆町でローカルメディア「南伊豆新聞」「南伊豆くらし図鑑」を運営されているイッテツさんをゲストにイベントを開催しました。

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川口さんは東京でIT企業に勤めたのち、2015年に真鶴へ移住。「泊まれる出版社」をコンセプトに真鶴出版を立ち上げました。現在は、パンフレットや冊子、カレンダー、書籍などを制作。一般社団法人日本まちやど協会が刊行する『日常』という雑誌の編集長もされています。

また「泊まれる」のコンセプトどおり、築約60年の民家をリノベーションした宿も運営。町を歩いて案内する「町歩きツアー」を実施し、訪れたお客さんたちに真鶴の日常的な町の風景を紹介しています。

「ローカル×ローカル」2_川口さんプロフィール写真

「ローカル×ローカル」3、4_真鶴港を見渡す風景、真鶴の魚市場

左・真鶴港を見渡す風景。岬には1904年に「魚付き保安林」に指定された県立自然公園がある。雨水などが林を抜けてろかされ、ミネラル豊富な水となって海に注ぎ混むことから、豊かな漁場が育まれると言われている。右・港近くには市場や海産物の直売所、新鮮な魚介類の刺身などが食べられる飲食店が立ち並び、繁忙期には朝早くからにぎわいを見せる。

「ローカル×ローカル」5_真鶴の背戸道には小さな発見がいっぱい

真鶴には背戸道(せとみち)と呼ばれる路地がいっぱい。「町歩きツアー」ではこの迷路のような背戸道をのんびりとさんぽする。生活音が聞こえたり、地元のひととすれ違ってあいさつを交わしたり。ふつうの観光コースではなかなか出合えないような小さな発見ができるのがたのしい。

鹿児島出身のイッテツさんは東京で編集者として働いたのち、2018年に南伊豆町へ移住。ローカルメディア「南伊豆新聞」で記事作成やマンガの執筆、南伊豆の暮らしを体験するプログラム『南伊豆くらし図鑑』の企画や運営を行っています。

また、上記2つのメディアと連動させた宿「ローカル×ローカル」を開設。2021年6月からは移住先の様子を描いたマンガ『ローカル×ローカル』の連載をcakesで開始しました。

「ローカル×ローカル」7_南伊豆の弓ヶ浜

遠浅で波が穏やかな南伊豆の弓ヶ浜は海水浴場として人気のスポット。海水の透明度が高く、白い砂浜が美しい。弓形の海岸線は約1Kmにおよぶ。6月〜7月にはウミガメが産卵をしに浜を訪れることもあるという。

「ローカル×ローカル」8_南伊豆のヒリゾ浜

南伊豆の最南端に位置する中木港から、渡し船で5分ほどのところにあるヒリゾ浜。カラフルな熱帯魚の群れや珊瑚礁が見られることから、シュノーケリングやダイビングをたのしむひとも多い。

「ローカル×ローカル」9_南伊豆の街並み・至る所から湯けむりが立ちのぼる

海と温泉に恵まれた南伊豆は、かつて観光の町として栄えてきた。町の至るところから湯けむりが立ちのぼる。

都市から移住して「発信」を続けるお二人に、移住先での暮らしとそこでの発見、ローカルから発信することの面白さなどについておうかがいしました。

移住先を決めるときのポイントはひととの相性と肌感覚

 東京やフィリピンでも暮らしたことのある川口さん。真鶴へ移り住むときは「移住というより、ただの引っ越し」という感覚だったと言います。

「真鶴は東京から電車で1時間半ぐらい。そう遠くはありません。だから生活スタイルは東京とあまり変わらないだろうと思っていたんです。でも、移住してみたらかなり違っていて、めちゃくちゃ面白くて(笑)。住民同士のつながりが強く、自分もその中で暮らしているという実感がもてています。真鶴は歴史ある古い町なので、その歴史を掘り下げていくのも興味深いですね。どちらかというと、アジアのどこか別の国に来たような感覚」なんだそう。

「ローカル×ローカル」10_真鶴・貴船祭りの神輿

平安中期の建立と言われている真鶴・貴船神社の例大祭「貴船まつり」。日本三大船祭りのひとつで、国の重要無形民俗文化財に指定されている。毎年7月27日、28日の2日間開催(2021年はコロナのため中止)。1日目に神社を出発した神輿が海をわたって対岸の町を訪れ、翌日町中を練り歩いたあと、ふたたび海をわたって神社へと帰る。

「ローカル×ローカル」11、12_真鶴・祭りの日の街並みと人々、真鶴・貴船祭り夜の神社前の様子

昼間はカラフルな花を飾った花山車や、豊漁や悪疫退散を願って踊る鹿島踊りがにぎやかなお囃子とともに町を練り歩く。祭りの間、町中が厳かながらも華やいだ雰囲気に。

移住のきっかけは、東京ではない場所で仕事づくりをしたいと考えていたときに、知り合いの写真家から「真鶴いいよ」とすすめられたことでした。

一方、イッテツさんの場合は、知人から「南伊豆で一緒に働かないか」と声をかけられたことがきっかけ。「マンガ『ローカル×ローカル』にも移住の経緯について詳しく描いているんですが、はじめは南伊豆って言われても場所の見当すらつかなかったんです(笑)。でも、その知人と一緒に働くのは面白そうだなと思って移住を決めました」

二人とも知人を介して現在の場所にめぐり合いましたが、いま移住に興味があるひとでそうしたツテがない場合には、なにをポイントに移住先を決めればよいのでしょうか。

「ネットとかでいろいろ調べてみると、地方で活動してる人のインタビュー記事が載ってると思うんです。面白そうなひとだなと思ったら実際に会いに行くといいんじゃないでしょうか。そのひとがまた別のひとを紹介してくれることもあるかもしれません。移住場所の選び方としては、ひととの相性が重要だと思います」とイッテツさん。

川口さんによると「地域によって移住に向いている職業があるように感じます。例えば真鶴周辺でいうと、熱海は観光地として人が集まりやすいので、起業家気質の人が集まっている印象です。真鶴は静かで人が少ないので、制作活動を行なっている人などに向いているんじゃないでしょうか。地域によって移住者の雰囲気が違うので、現地に行ってみたら肌感覚でわかると思います」ということでした。

移住先での仕事や人間関係のつくりかた・つづけ方

移住を考えているひとにとっては、移住先での仕事づくりがいちばんの不安材料だと思います。どのように仕事を切り拓いていけばよいのでしょうか。

「最初はすごく苦しみました。1年ぐらいは大変だった」と川口さん。「構想はいろいろと沸くのですが、何からはじめたらいいかがわからず前に進めなくなってしまって。でも考え方を切り替えて、小さなことから少しずつやってみることにしました。

例えば宿は民泊からはじめてその後民宿の形態にして。出版業ではまず、真鶴の地図のような簡単なものからつくりました。すると役場から移住促進のためのパンフレット制作をご依頼いただいて。それから書籍や雑誌と少しずつ企画を大きくしていくことができました。結果的には、僕らがいきなり大きいことをバーンとやるのではなく、小さいものからだんだんと大きくしていったことで、地域の人たちからもなじんでいただきやすくなったと感じています」

「ローカル×ローカル」13、14_真鶴出版宿泊施設の共有スペース、同客室内

真鶴出版の宿泊施設。船のイカリを利用したドアノブや、反物の作業台を使用したディスプレイ用のテーブル、かつて郵便局で使われていたアルミサッシなど、各所に真鶴の歴史が刻まれている。左・一部キッズコーナーも用意された共有スペース。背戸道に面しており、開放的な空間。右・2F個室。窓からは坂道に家々が連なる町並みを眺めることができる。

イッテツさんは「ぼくは、地域おこし協力隊という枠組みで『ローカルメディアの立ち上げ』を目的として南伊豆に入ったので」と前置きしたうえで、もし移住後に『1から自分で仕事をつくってください』と言われていたら、相当困ったし、多分できなかったんじゃないかな」と言います。

行政の後ろ盾があったとはいえ、縁もゆかりもない土地で仕事をするには、イッテツさんもそれなりの準備が必要だったのではないでしょうか。

「まず、自分が何ができる人間なのかを示す必要があると考えて。『南伊豆新聞』を作って取材をしたり、記事を書いたりすることからはじめました。このことでより受け入れ側に信用していただけるようになった気がします。

そこからいろいろな仕事をお願いされるようになって、うれしかった。でも中には、ぼくじゃなくてもいいかな? と思うものもあって。だから、自分がいちばん力を発揮できることがなんなのかをもっと明確にする必要があると考えました。

例えば、みんなが田植えをしているとき。ぼくも参加したいけど、それは自分の仕事ではない。ぼくの役割は稲を植えている人を取材して記事にし、ひととひととをつなげることです。

そうやって自分の役割を明らかにすることで、仕事相手にも『イッテツにはこの仕事を任せよう』『これはイッテツじゃなくてもいいな』と思い描いてもらえるようになりました。ローカルで仕事をするときは、こういう明確な線引きが時には必要だと考えています」

「ローカル×ローカル」15.1_『南伊豆くらし図鑑』での農作業の様子

「ローカル×ローカル」15.2_『南伊豆くらし図鑑』での伊勢海老漁、薪割りの様子

イッテツさんが企画・運営する『南伊豆くらし図鑑』での農業体験の様子。地元の農家と一緒に田植えや稲刈りなどをして、ローカルのひとや暮らしぶりに直接触れることができる。ほかにも、地元漁師と伊勢海老漁に出たり、パン工房の方と薪割りをしたりする約20のプログラムを用意。

「ローカル×ローカル」16、17_南伊豆の宿「ローカル×ローカル」外観・内観

2021年4月にオープンした南伊豆の宿「ローカル×ローカル」。3部屋あり、どれも和モダンな落ち着いた雰囲気。一棟まるごと借り切って、団体で利用することもできる。

ローカルで暮らすにはコミュニティになじむことが大切。だけれども、自分の軸はぶらさずに仕事をとおしてひとと関わっていく。柔軟性とどっしりとした自身の基盤が求められるようです。

移住者だからこそものを見る「解像度」が高められ、コンテンツづくりと発信につながる

クリエイターとして発信する上で、移住者だからこそできることやメリットなどはあるのでしょうか。

「移住してわかったんですけど、ローカルに根ざしてる面白くてかっこいいひとたちが全国にいっぱいいて。そういういうひとたちとつながりやすくなったのはメリットですね」とイッテツさん。

「ローカル×ローカル」18_対談中のイッテツさんと川口さん

川口さんも「すごくよくわかります。移住してからひととのつながりが増えて世界が広がりました」とする一方「コンテンツづくりということでは、住んでいる地域は関係ない」とも言います。

「ものを見るときの解像度が高ければコンテンツはつくれます。ただ、移住をすると特定の地域を深堀せざるを得ないので、自分の解像度を高めていきやすいとは思います」

1つの地域やひとと密接にかかわり、自分の目で見てものを考える。それが自然に、クリエイターとしての力を鍛えることにつながっているのかもしれません。

自身の宿に宿泊したお客さんにも高い解像度をもって町や町のひとと触れてもらい、魅力を発見してほしい。そんな思いをこめて「町歩き」や「南伊豆くらし図鑑」企画を進めているおふたり。

ローカルのひとと都心などから来たひとをかけ合わせる「ローカル×ローカル」。真鶴に住む川口さんと南伊豆のイッテツさんを掛け合わせた「ローカル×ローカル」。

リアルでひと同士がつながるのが難しい時代だからこそ、ローカルからの発信やそれらを二乗したコンテンツがより重要になってくるのではないでしょうか。2人のこれからの発信が、ますますたのしみです!

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text by いとうめぐみ

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