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新川帆立さん・秋谷りんこさんに聞く「デビューまでにすべきこと、作家のキャリアの築き方」#創作大賞2024

元彼の遺言状』でデビューした新川しんかわ帆立ほたてさんは、著書が立て続けにドラマ化され、4月に発売された『女の国会』も早くも反響を呼んでいます。

秋谷あきやりんこさんは、そんな新川さんに「創作大賞2023」で見出され、別冊文藝春秋賞を受賞。『ナースの卯月に視えるもの』でデビューしました。本作は、発売2週間足らずで三刷が決定。いま話題のお仕事小説です。

そのお二人をお招きしたイベント「デビューの軌跡と作家のキャリア」では、お互いの著作のことやデビューまでの過程、コンテスト応募にあたっての心得、作家としてのキャリアについてお話しいただきました。

この記事では、イベントのポイントをピックアップしてお届けします。「創作大賞2024」への応募を考えている方はぜひ参考に!


デビューまでにしたこと、すべきこと

読者に向けて書く

──秋谷さんは『ナースの卯月に視えるもの(以下、卯月)』でデビューされました。主人公は長期療養型病棟で働く看護師の卯月うづき咲笑さえ。彼女が患者さんの「思い残し」を解消しながら成長していくお仕事小説です。書籍化にあたり大幅に改稿されたとのこと。新川さんからはどんなアドバイスがありましたか。

秋谷さん(以下、秋谷) 新川さんからはその都度たくさんのアドバイスをいただきました。「病棟が舞台で悲しい場面が多いので、読者が一息つけるような場面があるといい」と教えていただき、休憩室でのやりとりを増やしたり、外食の場面を入れたりしました。

新川さん(以下、新川) 「この場面だと悲しいことが起きないよ」という安全地帯を読者に対してつくってあげることは大切です。それは読者への思いやりなんですよね。秋谷さんはきちんと読者に向けて書いている。読者への愛が伝わってくるところがすごくいいと思いました。

新川帆立さん
『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した『元彼の遺言状』で
2021年にデビューした新川帆立さん。
最新刊『女の国会』では新しいテーマにチャレンジ

経験していない職業をイメージで書かない

──秋谷さんはご自身が経験された看護師という職業を題材にして『卯月』を書かれました。執筆にあたって意識したところは?

秋谷 自分はどんなスタンスで看護をしていたのかという、仕事に対する思い入れは絶対入れたいと思いました。あとは、その場にいたからこそわかる肌感覚も入れたいと。逆に排除した部分は、実際の患者さんを想起させる情報です。自分が体験したことをもう一度自分のなかでかみ砕き、架空の患者さんをつくることはしっかり意識しました。また、患者さんの病気や死を「コンテンツ」として消費しないように気をつけましたね。デリケートなテーマに配慮しつつ、エンタメ小説としておもしろくする。そのバランスを意識しました。

──新川さんもご自身の弁護士の経験を生かして作品を書かれていますよね。

新川 自分が経験した職業を書くことのメリットは、その職業を悪く書けることです。悪徳弁護士を出してもいいんですよ。「経験したひとが書いているんだから、悪く書いてもいいでしょ」というスタンスを取れるんです。逆に、自分が経験していない職業を書くときには、多少の遠慮も生じます。イメージで書かず、できれば取材したほうがいい。イメージで書くと、だいたい間違えます。

デビューしたければ、どんどん応募する

──新川さんのデビューまでのお話しもお聞かせください。もともと小説教室に通っておられたそうですね。

新川 はい。ひとに教わったほうが早いと思い、教室に入りました。小説家の宮部みゆきさんがすごく好きなので、宮部さんが通っていた「山村正夫記念小説講座」というところです。教室に通いながら投稿を続け、投稿生活2年目でデビューしました。

本当にデビューしたければ、どんどん応募したほうがいいと思います。私はデビューまでの間に6〜7作応募しました。それらは一次選考も通らなかったんですが、自分の技術が上がってきているという実感があったので、そのうち通るのではと思っていました。実際にその後『このミステリーがすごい!』(このミス)大賞の一次選考を通過し、そのまま大賞をいただきました。

賞に関しては、私は傾向と対策を練るタイプです。『このミス』は選評がWebで公開されているので、受賞作品とその選評を読み、この賞ではどんな作品が求められているのか自分なりに分析しました。

コンテスト応募の心得とは?

たくさんのひとに読んでもらうことは大事

──創作大賞2024の応募開始のタイミングで、秋谷さんが「創作大賞2023年受賞者が、書くときに心がけた10個のこと!」というnoteを公開して反響を呼んでいます。この10個のなかから、さらに大事なことを3つに絞るとしたらなんでしょうか?

秋谷さんが創作大賞に応募した際に心がけた10ヶ条の目次10個
秋谷さんが創作大賞に応募した際に心がけた10ヶ条

秋谷 1つ目は「ジャンルを熟考した」です。私は今回、「ひとが生きるとはどういうことか」というテーマを「お仕事小説」というジャンルで書きましたが、同じテーマをミステリーで書くひともいれば、恋愛小説のジャンルで書くひともいると思います。自分が書きたいものを、どの側面から書くのが一番いいのかを自分で判断できることは強みになると思います。

2つ目は「絶対に完成させる」です。「書き終わらなくて応募できなかった」というパターンが一番もったいないので、最初から大作を目指すのではなく、短くてもいいから「自分はこれを書きたい!」という強い思いをこめて、まず一作を完成させることを意識して書くといいと思います。

3つ目は「あらすじにこだわる」です。「あらすじがおもしろい」ということは、自分の作品の良さ、おすすめポイントがわかっているということ。読者が読みはじめる一歩目をしっかり捕らえるためにも、あらすじは大事です。

秋谷りんこさん
創作大賞2023で別冊文藝春秋賞を受賞。
書籍『ナースの卯月に視えるもの』で
小説家デビューした秋谷りんこさん

新川 私も秋谷さんのこのnoteを読んで、「すごくいいことが書いてある!」と思いました。とくに「商業で闘う覚悟を決めた」が偉いなと。普通、なかなかその覚悟って決まらないですよ。どうして覚悟を決められたんですか?

秋谷 去年の創作大賞でnoteさん側から「スキ数も評価の目安になります」というアナウンスがあったときに、スキ数で足切りされるのではと不安になったんです。でも考えてみれば、商業の世界は、noteのスキ数よりもずっと厳しい「数字」の世界。商業の世界に行きたいなら、読まれなければ仕方ない、そんなふうにガラッと心意気が変わったんです。

新川 自分でおもしろいと思って書いているわけですから。たくさんのひとに読んでもらいたいと考えるのは大事です。いくら話題性があっても、作品がよくないと読者さんはついてこない。逆に言えば、作品がよければ必ず読者さんはついてくる。このおもしろさで勝負するのだと覚悟を決めるのは辛いけど、大切です。でも、そういうことはデビューしてから考えることなのに、投稿時から考えている秋谷さんは偉すぎます。

応募要項をよく読む

──新川さんから、コンテストに応募される方に対してアドバイスはありますか?

新川 当たり前のことではありますが、応募要項はよく読んでください。作品がいくらおもしろくても、応募要項とずれていたら審査の対象にはなりません。

あとは、出し惜しみをせず、自分の熱量を全部入れましょう。デビュー作には人生を賭けたほうがいいと思います。デビューはたとえるなら短距離走です。100メートルを全力疾走するくらいのパッションで書き切ってください。

作家としてキャリアを重ねて

新人のうちはたくさん書くことが大切

──秋谷さんは『卯月』がデビュー作になります。デビュー作が売れるためにはどうすればいいのか、新川さんからアドバイスをいただけますか?

新川 速やかに続編を書いて出すことですね。私自身は『元彼の遺言状』でデビューしたとき、「絶対売れなきゃ」というプレッシャーがあったので、内容も売れるようにあれこれ考えましたし、メディア露出もがんばってしました。それはやってよかったことですが、やっぱり新作を書くのが何より大事だなと思います。逆に言うと、新作を書く以外で作家にできることはあまりありません。

──新川さんは2021年にデビューされてから、小説9作、エッセイ1作を刊行されています。3年で10作はすごいペースですが、どうしたらこんなに書けるんでしょう?

新川 デビューしてすぐのうちはたくさん書こうと決めていました。新人なのでたくさん書かないとうまくならないですし、そうすることが大事な時期だと思っていたんです。書くことがうまくなってくると、少し前に書いた作品を下手だと感じることもありますが、それが気にならなくなるくらいどんどん新しい作品を出そうという気持ちでした。書きたいことはつねにあったので、ネタ切れもなかったですね。

秋谷 新川さんに相談したいことがあって。私は看護や医療についてはまだ書けることはたくさんあると思うんですが、別の方向性の作品を書くのはどんなタイミングがいいですか?

新川 看護ものや医療ものも書きつつ、「ちょいずらし」していったらいいじゃないでしょうか。たとえば新しい版元さんとお仕事する機会が訪れたときに、獣医ものにしてみるとか。ちょっとずつずらしていくと幅が広がると思います。

私は弁護士ものでデビューしてそれが売れたので、弁護士ものの依頼がたくさん来ました。でもそればかり書いていると自分が飽きてしまうので、ちょっとずらして公正取引委員会を舞台にした『競争の番人』を書きました。全然毛色が違うものを書くのではなく、ちょいずらししたほうが現実的にはメリットがあるかもしれません。もちろん、全く違うものを書きたくなったら、挑戦してみるのもありだと思います。

関係資料をできる限り集めて、取材を重ねる

──新川さんの最新作である『女の国会』は、かなり骨太な作品で、とてもおもしろく拝読しました。法に関わる部分もありつつも、登場人物は政治家や政策秘書なので、これまでの作品とは違うと感じました。新川さんにとっては新たなチャレンジだと思います。この作品を書かれたきっかけは?

新川 編集者さんから「女性差別について書いてみませんか」と言われたことがきっかけでした。女性差別は貧困問題と結びつけて語られることが多いですが、私が見てきたのは、収入や社会的地位の高い女性たちが、職場では差別されているという状況です。こういう切り口は世の中にあまり出回っていないので、ハイキャリア女性が直面する差別について書こうと考えました。日本で一番のハイキャリアの女性というと国会議員かなと思い、国会ものにしようと。とはいえ、私は国会の知識もなかったので、取材を重ねました。取材する前に書籍やネットで、自分で調べられることは調べました。

──資料を集めたり取材をすることも大事ですね。

新川 知らないことを書くときに、資料を集めることはとても大事です。私は何か新しい題材で小説を書こうと思ったら、Amazonで関連ワードを検索し、引っかかった書籍はとりあえず全部買います。

取材に関しては、知らないひとに話を聞くのはハードルが高いですが、友達伝いに聞いたり、創作仲間同士で取材し合うこともできますよ。手近なところで協力者を増やしていくといいのではないでしょうか。

イベントの様子

創作に関するQ&A

キャラクター表をつくって配置を考える

──続いて視聴者からの質問にお答えいただければと思います。1つ目の質問です。「資料などで調べたことと自分が発想したことはどのようにすり合わせていくのでしょうか」。

新川 そのバランスの取り方は作家さん次第で、リアリティー重視のひともいればエンタメ重視のひともいます。私はエンタメ重視なので、エンタメとしての展開のおもしろさを優先し、資料の内容から結構変えることもあります。ただこのとき、作者が「(実際には)こんなことは起きない」とわかっていることが重要です。そうすると、「本当はあまりないけど、珍しいことが起きたよ」という書き方ができるので、本職の方が読んでも許してくれるのではと。

──2つ目の質問です。「プロットはどのようにつくっていますか」。

新川 私はプロットはつくらないです。実際に書きはじめてキャラクター同士が会話しないと、その会話の先でキャラクターが次に何をするのかがわからないんです。プロットをつくるとしたら、その段階でキャラクターに会話させないといけないので、それなら書いたほうが早いなと。秋谷さんはどうされていますか?

秋谷 私は章ごとに大まかな展開を書いています。プロットよりもキャラクター表を細かくつくりますね。ほぼすべての登場人物の年齢、出身地、家族構成、なぜこの職業を選んだのかなども全部キャラクター表に書いています。新川さんは書きながらキャラクター同士の会話が生まれてくるとおっしゃっていましたが、私は逆で、キャラクター表を見ているとキャラクター同士がしゃべりはじめるんですよ。

新川 秋谷さんはキャラクターの配置もよく考えていらっしゃって、たくさんのキャラクターがすごくバランスよく配置されているんです。キャラクター表を書く段階でそこまで考えていらっしゃるんですか?

秋谷 主人公を中心に置いて、各キャラクターは主人公とどう関わる人物かまで考えています。主人公のよき理解者がいて、距離の近い先輩がいて、相談に乗ってくれる主任がいて、ちょっと怖い看護師長がいて、という感じの、相関図のようなものですね。

創作は自分以外の世界とつながる手段

──3つ目の質問です。「小説を書くことのおもしろさはなんですか」。

秋谷 いままでは好きだから書いていたんですが、デビューするにあたって、小説はコミュニケーションの一つなのかなと思うようになりました。たくさんの方に自分の書いたことを伝えられるのはすごいことであり、ちょっと怖いことでもあり、でもやっぱりそれがおもしろいことなのかなと、最近感じるようになりました。

新川 本当におっしゃる通りです。読者さんとのコミュニケーションであり、自分以外の世界とつながる手段だとも思っています。自分が作品を書いて読者さんとつながることで、自らの孤独から救っていただいているというか。そこが小説を書く一番の醍醐味かなと思います。

──ありがとうございます。では最後に、今年の創作大賞応募者や小説家を目指すひとに向けてのメッセージをお願いします。

秋谷 自分のなかにある熱いものを表現して文章にしてもらえたらいいなと思います。応援しています。がんばってください。

新川 去年審査員として関わらせていただいて、この創作大賞はすごく風通しがよくて、新しいものやおもしろいものをどんどんつくり上げていこうという姿勢がいいと思いました。ですので、出そうかどうしようか悩んでいるひとは、とりあえず出してみるといいんじゃないかなと思います。私も応援しています。

(敬称略)

お二人並んで

登壇者プロフィール

小説家
新川しんかわ帆立ほたて

新川帆立さん

1991年生まれ。アメリカ合衆国テキサス州ダラス出身。宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒業後、弁護士として勤務。第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、2021年に『元彼の遺言状』でデビュー。他の著書に『剣持麗子のワンナイト推理』『競争の番人』『先祖探偵』『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』『縁切り上等!』などがある。最新刊は『女の国会』(幻冬舎)。

X:https://twitter.com/hotate_shinkawa


小説家
秋谷あきやりんこ

秋谷りんこさん

1980年神奈川県生まれ。横浜市立大学看護短期大学部(現・医学部看護学科)卒業後、看護師として10年以上病棟勤務。退職後、メディアプラットフォーム「note」で小説やエッセイを発表。2023年、「ナースの卯月に視えるもの」がnote主催の「創作大賞2023」で「別冊文藝春秋賞」を受賞。本作がデビュー作となる。

note:https://note.com/rinko214
X:https://twitter.com/Rinko_Akiya


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text by 渡邊敏恵

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