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ヒット作連発の編集者・松田紀子さんに学ぶ、共感されるコミックエッセイの描きかた #物語のつくりかた

さまざまな角度から物語についてプロフェッショナルから学ぶイベント「#物語のつくりかた」シリーズ。第2弾の今回は、編集者の松田紀子さんに「共感されるコミックエッセイの描き方入門」をテーマにお話しいただきました。

松田さんは、300万部を突破した『ダーリンは外国人』(小栗左多里 著)シリーズや、著者累計120万部の『ひとりぐらしも5年め』『おかあさんライフ』(たかぎなおこ 著)を担当、2021年発売の『消えたママ友』(野原広子 著)が第25回手塚治虫文化賞短編賞を受賞するなど、コミックエッセイジャンルを牽引してきました。

ただいま応募受け付け中の「note創作大賞」に作品を応募しようと考えている方も、大いに参考にしてください。

登壇者紹介

松田さま

コミックエッセイは
『たたかうお嫁さま』からはじまった!?

松田さん まずは、コミックエッセイの出版の歴史をたどってみましょう。

コミックエッセイの変遷

ドラマにもなるなど非常に話題になった『たたかうお嫁さま』(けらえいこ 著)や、「りぼんマスコットコミックス」(集英社)などの単行本レーベルの巻末にあった作家さんの日常を描いた生活漫画が、コミックエッセイのはじまりでした。

その後、2002年の『ダーリンは外国人』で「コミックエッセイ」というジャンルが確立され、各版元さんから数々のコミックエッセイが出版されるようになりました。

2012年頃からは、人気ブロガーさんによる出産・育児など自身の生活ぶりを描いた作品が増えました。SNSで発表された作品がバズって書籍になるという現在の流れはここからはじまっています。

ほっこり系も切実系も「共感性」がキモ

松田さん まずはコミックエッセイにはどのようなジャンルがあるのか解説しましょう。

コミックエッセイの方向性

ざっくりとした分類なので当てはまらないものもたくさんありますが、ここでは、縦軸が[ほっこり]と[切実]、横軸が[フィクション]と[ノンフィクション]とわけています。

個人的には、コミックエッセイは作者の実話でありノンフィクションであるという思いがあるので、私は上の表の右側の軸の本を編集することが多いです。ノンフィクションで作者の描きたいものをどこまで引き出して、読者に共感性のあるものを持ってこられるかということを手掛けてきました。

共通しているのは共感性

すべてのジャンルに共通して必要なことは「共感性」です。読者に「読みたい」と思ってもらえるテーマを見つけて、それを読者の共感性たっぷりに描いていくというのがコミックエッセイの揺るぎないポイントです。

[ほっこり・ノンフィクション]グループの共感性は、
「これって私のこと?」と思ってもらうこと

松田さん 「共感性」についても軸に分けて考えてみましょう。

共感性ってなあに?

わかりやすいのは、右上の[ほっこり・ノンフィクション]。くすっと笑えたり、「この主人公って私のこと?」「私にも描けるかも」と思ってもらえたりするのが共感性の高い証拠です。

最初は読者だったのに、後に描き手になることが多いのがコミックエッセイの特徴でもあります。描き手と読み手の境目があまりないんです。

[切実・フィクション]グループの共感性は、
「私の話も聞いてほしい」と感じてもらえるかどうか

左下の[切実・フィクション]では、「切ない、悲しい、イライラする」「私の話も聞いてほしい」といった感情が生まれてきます。

気持ちとしてはネガティブな部分なのですが、「ネガティブへの共感」は共感性をさらっていく強いエネルギーにもなります。誰にも言えなかったことを描いてくれている著者への共感や、過去にあった辛い経験にあっている主人公の話を読むことで癒やされるといった感情に沿っているのだと思います。

「切実系」を描く時に注意したいのは、最終的にこのテーマを通して読者にどんな気持ちになってほしいのかを定めておく必要があるという点です。モヤモヤが解決しないまま終わってしまうことも多々あるので、ゴール(読者が得られる満足感)を決めて、そこに向かってお話を描いていきましょう。

ファンはコミックエッセイで、作者の人生を疑似体験している

松田さん 先日、世界各国に住むコミックエッセイファンの日本人のみなさんと、ファンミーティングを行いました。そこでは、こんな発言がありました(抜粋)。

  • 自分の人生以外の人生も見られるところがいい

  • だめなのは自分だけじゃないんだという気持ちになれる

  • フィクションよりもリアルに伝わってくる

ファンミーティングでのファンの発言

コミックエッセイの読者は、「自分以外の人生を疑似体験したい」という思いが強く、作品から何かしらの共感性をしみじみと感じ取ってくれています。実際にペンを取って描く際は「どこに共感してもらうべきか」を考えると読者に届きやすくなります。

描くべきテーマのみつけ方

松田さん このイベントを見てくださっている方は、“描きたい”という欲求を持っている方が多いと思いますので、その視点で「テーマのみつけ方」を考えましょう。

テーマの見つけ方

まずは、「描きたいことが空回りして独りよがりになっていないか」を考えてください内輪ネタばかりではなく、広く読者に読んでもらえる客観性が重要です。

「自分にとって(そのテーマは)描きやすいか?」というのも大切です。意外と切実なのが、ネタが最後まで持つかどうかという点。ネットでバズったから本にしてみようと思っても、ネタが2本しかなかった……なんてこと、割とあるんです。はじめに思いつく限りのネタをありったけ書き出しておくと、見通しがついて進めやすくなります。

またコミックエッセイは、読者にとってはもちろん、描き手にとっても救われる面があります。「テーマがみつからない」という場合は、自分の心の整理のために「とりあえず描いてみる」というのもコミックエッセイの重要な役割のひとつです。

自分の感情を素直にトレースして読者に伝える

松田さん 描き手としてさけて通れないのは、「どういう気持を伝えたいのか」という点。

なにをどう伝えたいのか
  • なぜそう感じたのか

  • どこに引っかかったのか

  • 何に腹が立ったのか

  • どこにキュンとしたのか

……といった感情を掘り下げていって、自分だけの表現で伝えてください。自分の中に生じた違和感や感動、手応えを、自分の枠やタガを外して感情をトレースすると、読者がイメージしやすく描くことができます。

「陰」と「陽」をさらけだすと人間味が出る

人間には陰と陽がある

松田さん 人間は誰しも、薄暗くネガティブな「陰サイド」と、人から見られているわかりやすいポジティブな自分の「陽サイド」の2つの側面があります。コミックエッセイの作者としては、陰と陽の両方の側面を描くことが重要です。

明るさの中のほのかな暗さ(または、その逆)がテーマの中ににじみ出ることで、物語に深さを与えてキャラクターに人間味を与えます。それによって、共感性が高まり、そのキャラクターを好きになってもらえるのです。

コミックエッセイは、読むのも描くのも楽しい稀有なジャンル

和やかに話す松田さん

松田さん たくさんお話してきましたが、コミックエッセイを描くにあたって大切なポイントをまとめると以下の3つになります。

  1. コミックエッセイのキモは「共感性」

  2. ふつうの目線のふつうの感覚にこそ「共感性」があり、だれにでも「描くべきテーマ」がある

  3. 自分を客観視して「わたしのおもしろさ」をみつける

コミックエッセイは、読むのも描くのも楽しいという稀有なジャンルですし、コミックエッセイが人生を救うということを私自身が信じて編集しているので、多くの方に読んだり描いたりしてほしいと思っています。

イベントのワークショップで使用した「自分が描くべきテーマを知る、陰サイド陽サイドシート」は私の noteでも公開しているので、ぜひ参考にしてください。

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イベントでは、コミックエッセイの歴史の詳しい解説やワークショップの様子などもご覧にいただけます。ぜひアーカイブ動画にも目を通してください!

▼アーカイブ動画はこちらからご覧いただけます

登壇者プロフィール

松田 紀子まつだ のりこさん
「はちみつコミックエッセイ」編集長

1973年長崎生まれ。株式会社リクルート『じゃらん九州発』の編集経験後、出版社・株式会社メディアファクトリーにて300万部突破の『ダーリンは外国人』などコミックエッセイジャンルを牽引。株式会社KADOKAWA移籍後、老舗生活情報誌『レタスクラブ』の編集長を2016年より兼任、3号連続完売、実売前年同期比146%のV字回復を果たす。2019年、野村證券子会社である株式会社ファンベースカンパニーに転職し、ファンベースに基づいた企業のコンサル・伴走を実践するディレクターへ。2021年5月より出版社・株式会社オーバーラップ「はちみつコミックエッセイ」編集長を兼任。コミックエッセイの描き手を育てる「コミックエッセイ描き方講座」(オンライン)も運営。東京FM番組審議会審査委員。TCS認定コーチングスキルアドバイザー。プライベートでは中学生男子の母であり、休日はヨガやサーフィンにハマり中。座右の銘は奥田民生氏の歌詞より「くだらないアイデアを 軽く笑えるユーモアを 上手くやり抜く賢さを」 
note / Twitter

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noteでは、オールジャンルの作品を募集するコンテスト「note創作大賞」を開催中です。作品の形式はテキスト、画像、動画のいずれでも、またはそれらの組み合わせでも構いません。大賞および優秀作品賞に選ばれたクリエイターとは、賞を授与した協力会社(KADOKAWA、幻冬舎、ダイヤモンド社、テレビ東京)とともに書籍化や映像化を目指して話し合いを進めます。

イベントも参考にしながら、ぜひコンテストに応募してみてください。

▼note創作大賞について、詳しくはこちらでご確認いただけます

text by 三浦良恵

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