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伸び悩む日本の音楽産業を3つの理由から分析してみた。データから見るストリーミングサービスとの関係性とは...

近年、絶え間ない変化にさらされている音楽業界...

CDが売れなくなって久しいが、音楽ストリーミングサービスの台頭やTikTokの様なショート動画と音楽を掛け合わせた新しいエンターテインメントの存在が、ティーン世代やZ世代を中心に広まり、今や音楽だけの商品価値ではエンターテインメントの市場において存在感を示すことが難しくなっているとも言える状況だ。

では、その音楽市場における変遷は、日本の音楽業界事態にどのような影響を与えてきたのだろうか...?

本記事では、日本と世界の音楽マーケットを比較しつつ、日本の音楽市場を考察していきたい。

考察1:伸び悩む日本の音楽市場


IFPI(国際レコード産業連盟)によると、世界の原盤音楽市場は6年連続で成長しており、2020年には売上 216億ドルに達している。


一方で、日本はアジア地域でも唯一音楽市場の縮小が見てとれる国であり、RIAJ(日本レコード協会)によると、2020年は音楽への支出額が過去12年間で最小額となっている。


では、なぜ日本の音楽市場は伸び悩んでいるのだろうか...?


主な理由は、ストリーミングサービスの潮流に乗り遅れたことが挙げられるだろう。元々、ストリーミングサービスの潮流は、今や世界的な企業となっているが、当時はスウェーデン発のベンチャー企業だったSpotify(スポティファイ)の登場に遡る。Spotifyはフリーミアムと言う無料と有料を組み合わせたモデルで、ストリーミングで音楽を聴き放題、月額課金というサービス展開を行い、スウェーデンだけでなく世界的な人気を獲得していき、アメリカでも若年層を中心にサービス利用者を増やしていった。2015年当時で、Spotifyは全世界で2,000万人の有料会員がいることを発表する等、そのユーザー基盤は拡大傾向であった。

また、当時音楽ダウンロード販売形式でiTunes StoreとiPhoneサービスを展開していた、スティーブ・ジョブズが率いるApple社も、2015年6月30日からApple Musicと言うストリーミングサービスを開始し、世界のトレンドは音楽ストリーミングを中心とする時代に入っていく事となった。

一方、日本国内でもサイバーエージェントとエイベックス・デジタルの共同出資によって設立されたAWA株式会社がリリースした音楽配信サービスである「AWA」など、日本国内でも月額定額の音楽配信サービスが次々リリースされ始めたが、日本の音楽マーケットの特殊性とでも言うのだろうか、CD等のパッケージ商品が根強く購入されている状況は大きくは変わらず、世界と比較するとストリーミングサービスの潮流には乗り遅れた感は否めない状況となっている。

日本においては当時から人気を博していたアイドルグループの商品戦略等も背景にはあったものの、世界と比較すると音楽ストリーミングサービスへの移行がスムーズに実現されているとは言い辛く、日本の音楽マーケットに適するビジネスモデルを模索している段階とも捉えられるが、世界の音楽市場に占める日本のマーケット構成比率が減少傾向にある事の一因は、ストリーミングサービスの潮流に乗り遅れたことによるビジネス的な商機の見逃しにあるのではないかと言えるだろう。


では、なぜ日本はストリーミングサービスの潮流に乗り遅れてしまったのだろうか...?

それは、世界と日本の利益構造の違いに起因すると考えられ、次項で世界と日本の利益構造の違いを考察してみたい。

考察2:音楽ソフトに依拠した日本の報酬構造


日本の音楽業界の報酬は、マネジメント契約をしている音楽プロダクションとの契約報酬形態で決定される事が多い。

アーティストには原盤印税からアーティストの取り分が支払われるが、その印税額の比率は販売額の約1%〜が相場とされ決して多いとは言えない。また、レコード販売額の構成内訳を見るとレーベル側に取り分として3割程の収益が入る構造となっている事が多い。

では、アメリカではどのような報酬形態が採用されているのだろうか...。

米国では、レコード会社がアーティストとマネジメント契約を結ぶのではなく、アーティスト自身が個人事業主としてビジネスの主体となる構造が一般的である。したがって、アーティスト報酬もその実績に基づき変動する(参考相場:9〜25%)ロイヤリティに従って支払われる事になる。

この様な報酬形態からも分かる様に、両者を比較するとアーティストの行動主体性(自由度)は米国の契約形態の方が高い事が多く、ビジネスセンスの高いアーティストであれば音楽ストリーミングサービスが今後の主流となる事が予見されると、自らの楽曲をストリーミングサービス上で展開し収益を最大化しようと考え行動するかも知れない。一方、レコード会社をはじめとする法人が、楽曲配信サービスの意思決定権を強く持つ日本の契約形態では、ビジネス的な行動には会社としての意思決定を伴う為、そのスピード感が失われがちでもあり、結果として新しいサービスに対して楽曲を配信する対応が遅くなった可能性も考えられる。

そして、日本と米国で大きく異なるビジネス構造が、特典付きCDモデルである。

皆さんは「AKB商法」という言葉をご存知だろうか...?

これは、AKB48が始めたビジネスモデルであり、CDに握手券等の特典を付ける事によって販売数を大きく伸ばす手法である。この商法が確立されたのが2010年代であり、その時期はまさに音楽ストリーミングサービスの黎明期でもあった。この商法により、CDが売れる構造を "作ってしまった" ばかりに、ストリーミングサービスへ音楽配信の主軸を移す時期が世界と比べると遅くなってしまった可能性も高いのだ。


加えて、音楽ストリーミングサービスの利益構造自体にも問題があった。


ストリーミングサービスでは、原盤権ホルダー(レコード会社、レーベル等)に一定額が支払われ、そこからアーティストへの分配が成される。また、音楽ストリーミングサービスはアーティストへの還元率が非常に低いケースが多く、実際、米国でも何度も物議を醸してきたが、米国ではいち早く音楽ストリーミングサービスを取り入れるアーティストが多かった為、この新しいビジネスモデルに一定度対応できる業界構造の構築に成功したと言える。

一方で、日本では、CDパッケージの販売により十分な利益を得る事ができていた為、わざわざ収益が少なくなるストリーミングサービスに参入するメリットが少なく、結果として新しいビジネスモデルへの対応が遅れてしまったと言え、出遅れてしまったが故に、その業界構造を十分に変化させていく事もできなかったのだ。

考察3:コロナによってもたらされた大きな変化


考察1~2では、日本が音楽ストリーミングサービスに乗り遅れた現状とその理由を述べてきた。

しかし、RIAJの2020年度報告書によると、新型コロナウイルス感染症の流行以降、CDショップに直接CDを買いに行く人が減少した為、音楽ストリーミングサービスが大きく躍進している事が分かっている。COVID-19の影響が、皮肉にも日本の音楽業界の構造を大きく変化させたと言えるだろう。


また、コロナ禍において、より重要視されているのが「リアルタイムコンテンツ」である。

配信サービスの技術が発達している事と、人と触れ合う事が制限されている現状が相ま李、むしろ「今ここだけのもの」という瞬間性に投資する人が急増している。オンラインライブでも、アーカイブとして録画を残す形式よりも、見る事ができなかった人に対して何度かリピート配信をする、もしくは、期間限定で録画配信を行うという手法を採用しているアーティストが多い傾向にある。つまり、「今、いろんな人と時間を共有している」という事が重要視されているのである。

これからはリアルタイムコンテンツに注目してみては如何だろうか...?

以上、3つの観点から日本の音楽市場を分析してきた。

日本の音楽市場は、世界での売上シェアとしては現状低下傾向にあるが、ストリーミングサービスやリアルタイムコンテンツの活用方法によっては、再び勢いを取り戻す事も可能かも知れない。実際に、最近になり、B’zやMr.Childrenなどの大御所アーティストがストリーミングサービスに参入し始めている様に、日本の音楽市場は確実に変化の時を迎えており、今後の展開次第で世界にその存在を知らしめる事ができるかも知れない。


是非、今後の音楽市場に注目していきたい。


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