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君と僕と坂本龍一『sweet revenge』のこと。

私が音楽家の坂本龍一さんを知ったのは、中学3年生の時でした。

当時TV番組で、ビートたけしさんが出演していた『平成教育委員会』というタレント参加型教育系クイズ番組がありました。
ある日、番組をたまたま観ていたら、その1つのコーナーの中に音楽の授業があり、そこに音楽の先生として坂本龍一さんがゲスト出演していたのです。(ここからは坂本龍一さん以下教授)
その時、映画『ジョーズ』の有名なテーマ曲を教授がサラッとキーボードで演奏した際に、私は衝撃を受けたわけです。
(私が特に幼い頃から音楽教育を受けていたわけではない点も勿論ありましたが)映画の中で、ジョーズの登場を示唆するあの聴き馴染みのあるおどろおどろしいメロディーは、もともとはオーケストラ調のアレンジですが、それが教授によってキーボードのピアノ調の音色で表現された際に、至極当たり前なんですが、世の中のあらゆる音が『ドレミ〜』で作られているんだと、頭で理解するというよりは、感覚的に知らされることになった瞬間だったのです。
それがきっかけとなり、教授に激しく惹きつけられ、さっそくCDを買いたいとなりました。
そこで、教授の数あるディスコグラフィの中で、初めて手にすることになったのが、その当時の最新作、1994年発表の『sweet revenge』だったのです。
当時の私には、教授のソロ活動前のYMO時代や『戦場のメリークリスマス』『ラストエンペラー』に代表される映画音楽などの作品情報も全く知る由もありませんでした。
とりあえずCDを手に入れたいという思いだったので、いざお店の陳列棚の前に立った際に、案の定その数ある教授のCDの中から、どれか1枚を選び出すという行為が至難の業であったことは言うまでもありません。

陳列されているCDをチェックする中で、リリース時期が最近のものならば、日頃メディアなどで耳にしたことがある曲が入っているかもしれないという点と、アルバムについていた帯に、『スウィートでラディカル、サカモノの正しい楽しみ方』と謳ってあった点も、アルバムをピッキングする親指と人差し指の背中を後押しする力となりました。
「教授の音楽は『スウィートでラディカル』なんだな」と、英語の指し示す意味も全く理解していないまま、妙に納得して購入したのを覚えています。

その時は購入後、友人宅へ遊びに行く予定だったので、友人の部屋のCDプレーヤーを借りて聴くことにしました。
そして、いざアルバムを聴こうとケースから中身を取り出そうとした時に、早速教授からの『スウィートでラディカル』を体感することになりました。
少なくとも私がそれまで接してきた他のアーティストのCDケースとは開け方が異なる、

特殊パッケージの仕様。(教授の個人レーベル「güt」の第1弾作品)

友人何人かでTVゲームをして遊んでいる時に、まずはBGM感覚で流そうとしたわけですが、プレーヤーにセットしようとCDケースを手にした友人が、思わず『これ、どうやって開けるの?』とその場の誰に言うのでもなく、戸惑っていたのに対し、すぐに自分も持ち主として手を差し伸べることができずに、状況をそっと見守らざるを得なかったことを深く思い出します。
その流れから、通常の再生ボタンでCDが聴けるのだろうかと数パーセントほど不安視していましたが、無事に1曲目の『Tokyo Story』がスピーカーから流れた時は、おそらく私だけではなく、その友人も安堵感に包まれていたと思います。ただ、1分越えくらいの短い曲というのもあり、ほぼ友人達のゲームの盛り上がりに曲がかき消されていくのでした。

その時点で、私は二曲目以降は聴き込むことを諦め、曲の雰囲気だけでも感じながら、同封された歌詞カードを見てみようと思いました。
そこで、また再度、教授の『スウィートでラディカル〜』を体感することになりました。

冊子状ではない、単ページ毎の歌詞カード。

歌詞カードは冊子でめくることが醍醐味なんだといわんばかりに、それを全く予想だにしていなかった私は、勇んで封入先から抜き出したと同時に、ほぼすべての歌詞カードをあぐらをかく自分の足と、部屋の床に撒き散らす結果となりました。
友人に同情の目を向けられながら、拾い上げていく耳元に、今井美樹さんをフィーチャーした曲、『二人の果て』が流れてきました。
4ビートがオシャレに刻まれ、そのリズムと共に拾い集められていく歌詞カード。
落ち着いた後、歌詞カードを何気に順にめくっていくと、『パッパラ、パッパ、パッパッパラ』という印象的な今井美樹さんと教授のボーカルのユニゾンで、メロディーが奏でられていきました。

『スウィート(甘いもの)でラディカル(過激なもの)』

今思えば、『sweet revenge』は、中学校生活(甘いもの)から高校生活(過激なもの)へと進んでいこうとする、当時の私にもフィットしていたかもしれません。
私は、その後引き続き、教授の数々の楽曲と共に『サカモトの正しい楽しみ方』を肌で感じていくことになるのでした。
記憶がおぼろげですが、坂本龍一さんが、あるインタビューで曲作りについて質問された際に、『自分がこういう曲があったら良いだろうな、楽しいだろうなっていう感覚で曲を作っています』と、回答されていたかと思います。

サカモトの楽しみを聴くこと、それがサカモトの正しい楽しみ方。

皆様も、良かったら『sweet revenge』をどうかご堪能あれ。

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