新紙幣こわい
バイト中に「なぜ俺が、飲食店の店員を…」以外の感情（笑い、悲しみといったそれら）が完全に無くなってしまった俺は、すかさず休憩中に宅配の仕事に応募した。そうしていつも通り、歯を食いしばりながら這うように仕事をしていると、客がレジにお札を詰まらせてしまったので、確認してみたのだが…
言葉を失くした。紙幣のデザインが変わる、という情報は小耳（しかし俺の耳はそう小さくない）に挟んでいたが、にしても急だし、勤務中につき感情のない鉄仮面だった俺は思考が止まってしまった。コイツレジに変なの入れてんじゃねーか！レジに変なの入れてんじゃねーーーーーーと思った。ああ、そうか、時代、変わっちゃったんだ…。しょんぼりしながらお札を抜き取ってデザインをまじまじと確認すると、ヤバい！どの角度から見ても、メガネと目が合う！逃げろ逃げろ逃げろウワーーーーーと思ってから、その後の記憶がない。俺は慣れないものが嫌いだが、慣れないお札は得に嫌いだった。
そこから数日経って、会社の面接の日になった。夜勤後の朝9時からだったからそんなに時間的な余裕がなくて、履歴書に意味のない浅い経歴をまるで革命みたいに殴り書いて、ジャージのまま最寄りまで向かった。manacaとかいう愛知県でしか流通していないマイナー交通系ICカードにガチ過疎りしている寺のお賽銭ほどしか金が入っていないことに気づいて、チャージ機に1万円ブチ込んで1000円だけチャージした。9000円のお釣りかぁ、1枚が9倍になって返ってくるとかもはや錬金術ですね、なんて思っていると…
ウワーーーーーーーーーーさようならすべての愛しい人たち、と思いました。幸い9枚のうち、1枚だけコイツだったので何とか耐え、面接をこなし、いやー転入届出してませんね？と思い区役所に直行、どうせ怒られんなら友達に見ててもらおう、と友達に連絡、それまで暇なのでスロットでも打とうとパチ屋に行って台の前に腰をかけ、財布を見ると…
はいお久しぶりですね、俺はお前で富裕層に成り上がるよ、とサンドにぶち込んだが…
と、再び手元に戻ってきた。もうお前クビ！そっから野口英世6枚飲まれてそのあと友達と合流して何故か転入の窓口が閉まっていて、謎ではあるがお蕎麦を奢ってもらいました。友達いて良かったー
後日、フォロワーの買い物について行った。フォロワーの住んでいる街は商店街が栄えていて、活気がありながらも雰囲気は完全に田舎特有のものに似ていて、たいへん居心地が良かった。ハードオフで安い楽器見て、店頭にいるペッパーくん（コイツまだいるんだ）に喧嘩を売ってから業務用スーパーに向かった。他人のスーパーでの買い物、普段自分が買うはずのないものを次々と吟味してカゴに入れていってマジ興奮した。俺だったら「野菜いりません、肉、ジュース、イェーイ」と言った感じで何も吟味しないし値段も確認しないし何ならカゴも使わない。スーパーのカゴってそうやって使うんですね…。アイス選んで良いよ、と言われて、犬みたいになった。会計の時、フォロワーの顔が歪んで、現金忘れたと言われたので代わりに払おうと思って、PayPayを使おうとしたけど使えなくて、クレジットも何故か使えなくて、財布を開くと…
ガチ神、さようならまたどこかで。バコーン3000円置いて電車賃がなくなりました。あとで家に寄ってお金返してもらったけど、そこにこのメガネの姿はなく、ちょっぴり寂しかった。
のちのちじっくり考えて、なんで新紙幣がこわいか分かった。自分と関係がないからだ。今、中原に危機が訪れている。金が、無さすぎる！もし俺が7億円くらい持っていて、すぐに地元の墓場の一番端っこにある小さくて弱々しい墓を黄金でデッカいものに買い換えるくらいの余裕があれば「新紙幣？ふーん良いメガネだ」なんて思っちゃったりするんだと思う。だから新紙幣こわい。関係ないものぜーんぶこわい。世間が、世界が、宇宙が、こわい。関係ない。こわい！まんじゅうこわい！新紙幣こわい！新紙幣こわい！新紙幣こわい！！！
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