居酒屋
居酒屋に行ったことがないのですが、想像で居酒屋の小説を書きます。マジで、全部想像です。正しい、とか、正しくない、とか、お前は根本的に間違っている、などの意見はお控えください。
「やっと終わった…」
俺はしがないサラリーマン。なんか、今日もサラリーな一日だった。車屋で働いている。トヨタとかから車を定価で買って、それをさらに定価で売ってる。安いよ安いよーとか言って、街中で道ゆく人たちに車を押し売りする。「ちょっとお兄さん!こんなのどうすかね?トヨタの車なんすけど、安いっすよ!」こんな感じ。でも、俺はサラリーマンだからそんなこと気にしない。いつか絶対社長になって、何で車を定価で買うのかを知るんだ!
今日の退社は10時だった。朝の。俺の会社は夜9時出勤、朝10時退社の超ホワイトな会社。やっぱり、車って高いし、一般人には手が出ないから、夜の街を生きるヤクザとか、ホストとか、キャバ嬢とか、法外な稼ぎをしている人間を狙う。断れば恥をかくので、断るわけにもいかず、渋々買ってしまう、という寸法だ。今日は8台も売れた!トヨタの車が8台だ!うしし、丸儲けだ。トヨタもさぞ喜んでいることだろう。社長への道のりはそう遠くない気がする。未来への期待と、不安を煽りながら退社していると、若いお兄さんに話しかけられた。
お兄さん「そこのサラリーマン!居酒屋とか興味ない?俺そういうのめちゃくちゃ詳しいよ!てかLINEやってる?」
この手法、間違いない。同業者だ!俺は車なんて買わないぞ。同じのを2台持ってるし、よくわかんない軽トラを3台も所有している。もう車はこりごりなのさ。
俺「もう車いりませんよ」
お兄さん「車?オレ、キャッチ!サラリーマンさぁ、居酒屋知らないの?なんか、酒飲むところ!美味しい液体にあるこーる?ってのが混ざってて、飲むと楽しくなるの!酔うって聞いたことない?申し訳程度のご飯とかも作ってるよ!行かない?LINEやってる?」
…居酒屋?酔う?なるほど、車は関係ないのか。ちなみに俺はめちゃくちゃ車酔いする。そうとなれば話は早い。居酒屋とやらに、行ってみるぞー!ちなみにLINE?とかいうのはやってない
俺「あ、ハイ… いきます泣 LINEやってないです泣」
そう言うと、お兄さんは俺の手を握って走り出した。
お兄さん「そうこなくちゃ!飛ばすよー それとLINEはやっといた方がいいですよ」
そこから2時間、俺たちは走った。マジでちょうど2時間走った。時計持ってないから分からんけど、数えたらきっちり7,200秒だった。お兄さん体力無さすぎて2分とかで疲れてたから、攻守交代して俺が先導を切った。足の赴くままに、感覚だけで居酒屋にたどり着いた。ずっと手握ってたから手汗エグいし、お兄さんずっと変顔してたから気まずかったな。
お兄さん「ハァ…ハァ…ここっす…ハァ!」
俺「ありがとう!それにしても君、臭いね。お風呂入ってる?」
お兄さん「お風呂…?」
コンビニくらいの大きさの店で、看板には
『あるこーる亭 店屋』
と書いてあった。なるほど。居酒屋ってこういう感じか。俺は倒れてるお兄さんにAEDを施したのち、入店した。
ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
店員たち「いらっしゃいませーーー!!!何ですか?いや間違えた何名様ですか?」
俺「ん、一人。人間はいつだって一人。あと、電話ってありますか?救急車を呼んで下さい」
店員たち「よろこんでーーー!」
ほう、これはなかなか…なんか、テーブルとか椅子がいっぱいある。俺以外のお客さんもいる。みんな陽気だなぁ。この人たちは税金の使われ方に納得しているのかなぁ。…ん?あの黄色い液体は何だろう。おしっこじゃないだろうな。おしっこだと困る。なぜかと言うと、汚いから。男物か?それとも女物か?鮮度はどうなんだ?温度は?おしっこはアルカリ性だから、胃の粘膜と中和なんかしちゃったりして、お腹痛くなるんだよなぁ。
店員たち「メニュー見ますか?」
俺「メニュー?うん!」
メニューにはいっぱい写真とか日本語とか数字が書いてあった。そうか、居酒屋は食べ物屋さんなんだな。お腹をいっぱいにできるって寸法だ。俺はご飯がどこに売ってるのかあまり詳しくないから、つい最近は鳥とか捕まえて食べていた。あいつら、浮くから捕まえづらいんだよな。食べ物を売るなんて発想、今までこれっぽっちも無かったよ。しかし、何にしようか…。俺は小学校中退だからひらがなしか読めない。そうそう、昔は俺相当悪くてさ。病気で、身体をブイブイいわしてたんだよ。
周りを見渡すと、何かを口に入れている。俺はそれを見逃さなかった。なるほど、“食う”だな。俺もやりたい!
俺「おい!」
店員2「よろこんでー!何ですか?」
俺「食べ物を、ください」
店員3「よろこんでー!お飲み物はどうなさいますか?」
俺「おしっこか?あれはダメだ、夢になるといけない」
店員5「違いますよ!あれは、ビールっていうんです」
俺「ビール?」
店員7「はい、なんか麦?かなんかを腐らせたりなんかして、妙にするんです」
俺「なるほど、十割聞き取れなかったけど、それもください」
店員11「年齢確認します!年齢確認していいですか?年齢分かります?年齢教えます!どうして、二十歳になるまで死ねなかったのか答えられます?」
俺「俺31歳だよ!ほーら、ここにウサギさんのタトゥーも彫っているよ」
なんでここの店員は全員素数なんだ。店員11おかしくないか?最後なんていったんだろう。もしかしたら、これが英語とかいうやつかもしれないな。また一つ賢くなってしまった!居酒屋すげー!俺の中のカーナビが、社長への道のりを検索、案内まで丁寧にしている!そう遠くないうちに、なぜ車を定価で買って定価で売るのかわかることができるかもしれないな!ゴハハ
ちんちんの皮を伸ばして遊んでると、店員が来た。かなりゆっくり目に数えて、1362秒待った気がする。
店員13「お待たせしましたー!ホタテと、焼きそばと、ビールです!」
俺「ありがとう。」
ほう、面白い。これが、ビールか。黄金色に輝くその液体は、宝石のセックスを彷彿とさせた。
俺「よーし、やるぞ!」
ごく、ゴク、極。あわわ…どういうことだろう?喉が攻撃されている!めまぐるしい科学の進歩を疑うべきか?
俺「これ、なんか痛い!」
店員17「え?あ、それ、炭酸ですよ。お客さん、ビール飲むの初めてですか?居酒屋来たことないんですか?」
“たんさん”?なんだ、さん付けということは相当偉いのだろう。うちの社長もなかなか偉かった気がするが、攻撃まではしてこなかったぞ!“たんさん”、恐るべし…。しかし俺は九州男児。なんか強い男って意味だった気がする!そういえば俺って、どこで産まれたんだっけ?いいや、そんなことはどうでもいい!今は目の前の敵に集中するーっ!
俺「ゴク、ゴク、ゴク、いてぇーーー!!!!」
俺はなんとか空にした謎の掴みやすい筒を、わざと大袈裟に音を立ててテーブルに置いた。店内が少しざわついて、厨房の女性がこっちを見ている。女はこっち見んな!俺はホモだ!ホモ・サピエンスだー!
次に、焼きそばを口に入れた。これはなかなかすごい。舌が気持ちいい。脳内が歓喜している。28年間、生きててよかったー!
ここで俺は、何かしらを催した。出ちゃう…
俺「おい!」
店員19「喜んで!」
俺「なんか、出ちゃうんですが」
店員23「うん、トイレあっちだよ!」
立ち上がった瞬間、地面が逆転した。なぜ俺の頭が地面についている?そういえば、さっきのお兄さんが言ってたな。気持ちよくなるとか、楽しくなるとか、車酔いするとか、救急車呼んで下さい、とか。うん、楽しい!なんか脳がぐわんぐわんして、はちみつとバターがトロトロになったみたい!LSDみたいだ!俺はスマートにトイレに入り、的を外して床をびちゃびちゃにした。おっほw今日も黄色いなぁ、肝臓仕事してんのか?ビール喉直通なのか?しかし、今酔っているということはアルコールとやらが作用していなければおかしいな…うーん、みんなありがとう!
自分の席に戻り、ホタテとやらを食べる。ん?!ものすごく硬い。バリバリする…。俺は口の中を盛大に怪我してしまった。しかし、なんだ?中に入ってるものはちょっとうまい…。
俺「いてーーー!うめーーー!」
俺が命を懸けて生み出した勇気ある数秒は、良くか悪くか。たった今、世界の運命を大きく変えた。
???「純太郎、なの…?」
厨房にいた女性が俺を見て言った。なぜコイツ俺の名を知っている?同業者か?
???「こんなに大きくなって…」
女性は近づいてきて、俺の頬を触った。ハッ…!その瞬間、全部の思い出が蘇った。
俺「……母さん?」
なんと、その女性は普通に今一緒に住んでるお母さんだった。今日コンタクトしてないから全然気づかんかった。ここで働いてたんか。毎日会ってるし。
母「そうよ…純太郎…!」
母が俺のことを力いっぱい抱きしめた。普通に俺たちはそういう関係なのだ。呆気に取られていた俺は、正気を取り戻して口を開いた。
俺「仕事中に私語はよくないすよ」
fin.💃🏼✨
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