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漫画絵人体の比率計算

 ってのを考えたことありますでしょうか。
 私がこの比率について考えたのは幼稚園の頃でした。どうしてプロの方々はこんなにも素敵で美しいバランスの絵を描かれるのだろう、なにかコツがあるのだろうか。そんな風に考え、ふと全身絵の時に指を使って全身の比率について調べたことがありました。
 写実的な人体図と漫画絵の人体図は明らかにバランスが違います。
 漫画的にバランスのよい人体図を描きたい!と思ったのが私です。

 さて。
 これはイラスト専門学校に通っていたとある子が、卒業提出の話をしていた時のことです。もう卒業か、早いなぁ……とその子の成長に心から感動を憶えていたのですが、授業はどうだった?と訊く私に「とにかく見て描けとしか言われなかった」と返され、驚きました。
 生憎と私の本業は漫画家でもイラストレーターでもなく小説・シナリオライターですが、それなりに漫画家の道を目指したこともあります。なので専門学校に行くとは即ち、技術含め具体的な授業があると信じて疑いませんでした。
 しかしその子からの話ではふわっとした言語でふわっとした授業ばかりで、具体的にこうしろああしろと言ったものはなかったと。

 えっ……?
 じゃあ何しに行くのその学校……。
 もしかして自力でコツを見つけ出せる人以外はどうでもいい的な感じ……?
 いやまあ狭き門の職業だから仕方ねえっちゃ仕方ねえがよ……。

 なので、軽く漫画絵人体の比率について話したところ、「そういうことかよァァ゛!!」と絶叫されたので、ちょっと書いておきたいと思います。


少女漫画の人体比率

 私が初めて人体比率について考えた切っ掛けですので、私の漫画絵は少女漫画寄りです。だから一番多く語ることになるでしょう、ごめんな。
 まず肩幅ですが、少女漫画の男性キャラの肩幅は顔三個分ある。まあ古の少女漫画で憶えた比率ですから、昨今の少女漫画だと変わっているかも知れない。ちなみに女性キャラの肩幅は顔二個分。これは少年・青年漫画でも大きく変わらないので、肩幅広い女の子って可愛くない証明ですね。
 
 次に全体比率ですが、頭から腰(ウエスト)までの長さを一とした場合、腰から膝までも一膝から踵までも一。下半身は上半身の二倍の長さです。
 要するに少女漫画に於いて全身の黄金比率は1:1:1で構成されていると考えてください。古の少女漫画の全身絵を指を定規代わりにして測ったので間違いないです。割と足だけでなく腕も長い。
 そして今さっき試しましたが、昨今の女性漫画家が描く比率でもこの全身比率はそこまで変わってません。

少年漫画の人体比率

 さて此処が難しいところ。
 少年漫画だと主人公は『少年たち』なので、少女漫画より等身が短くなります。もちろんそれに応じて肩幅も変わって来る。
 大体少年漫画の男性キャラは肩幅が顔二個『半』分。顔が大き目に描かれていることもあります。漫画の主人公が成人男性なら肩幅は三個分と少女漫画に近い状態になりますが。
 コロコロした絵柄の人だと男性キャラでも肩幅が二個分、女の子キャラは肩幅が顔の一個半分にもなります。
 これは男性作家の癖やその時の流行り廃りもあるので、少女漫画のように「これが黄金比だ!」と言いにくいので難儀なところ。

 次に全体の比率ですが少女漫画と同じく全身を1:1:1で比率計算している作家さんもいれば、コロコロした絵柄だから1:0.5:0.5の比率にしている方もいます。コメディやギャグだともう全体の比率とはなんぞや?の世界にすらなる。ここはもう少年漫画でなにを描いているのかによって大幅に変わって来ます。

青年漫画の人体比率

 少女漫画とほぼ同じ。
 男性キャラの肩幅は顔三個分だし、下手すると四個分にもなります。
 全身の比率もほぼ少女漫画と同じ。上半身から腰、腰から膝、膝から踵も1:1:1と三分割。
 女性に至ってはもうその作家の個性が溢れんばかりに輝くので、ウイングスパン(両手を広げて指先から指先までの長さ)よりデケぇ胸とかもあります。奇形だろってやつです。性癖は人それぞれですしね。
 もっと言えば女性でも肩幅が顔三個分、四個分とかある。

 こうして数値として割り出すと途端に理解が早まるのに、プロのアシスタント作業や専門学校では教えません。
 何故なのか私自身よく考えてみました。

篩にかけられる

 恐らくですがプロや専門学校の教師の方々は、この比率を無意識に自力で気付いてらっしゃるので、説明までに至らない。
 それぐらい判ってるだろ?の意識に近いというか……判らんほうがどうかしているみたいな認識なのだと思う。バランスを取るにはどうしたらいいのか、それを自らで考え考察した上で『見て描く』をこなして来た方々ですから、みんな当然そうであるって考えなのかと。

 漫画絵人体のバランスを比率計算する術を知ってる前提で話が進んでおり、『漫画絵人体のバランスとはなんぞや』のレベルにまで自分が降りられないんです。えっそこから?ってなるので。

 自分の指が何故動くのか疑問に思う人なんかほぼいません。だからこの比率計算も同じことだと思います。
 最低限のレベルだと認識しているから、説明するまでもないっていうのが芸術関係の『感覚で理解しろ』の悪癖。説明しようと思えば説明できるけど、自分がいつそれに気付いたのか憶えてないので深く語れない。
 プロの方々や講師・教師の方々もまさかそこからの説明が必要だと思わないが、しかして生徒たちはそこからの説明を欲している。
 憶測ですがこれが現状なんじゃないかな~……と。

 つまりはこの時点で篩にかけられています。
 自力で人体図の比率計算にたどり着けた人と、たどり着けてない人がよーいドンで「見て描け」と言われた場合、後者はいつまで経ってもどれだけ描いても上達しません。一方前者は描けば描くだけレベルアップする。

 下手の鉄砲数撃ちゃ当たると言いますし、下手の横好きとも言いますが、上達する下手は下手なりに下地があるんです。
 見たものを情報としてどれだけ自分の中に蓄積させているか、インプットしたものをどうアウトプットすべきか、自ら見つけ出し自ら考察する癖がついている人が、その情報にもたどり着けない人と同じスタート切れるわけねえ。至極真っ当な道理ですらある。

 でもだからと言ってじゃあ一生上達しねえのかというとそうでもない。
 例えばこのnoteにたどり着いて「そういうことかよォォァア!」と気付く人もいれば、ちょっとした好奇心で「顔と肩幅ってどうなってんだ?」とふと疑問に思うことだってあるでしょう。
 大切なのは気付きであり、その気付きを自ら欲するか、他人から与えられのを待つかの違いです。
 少々酷い言い方をしますが、他人から与えられるのを待つのなら今後十年ぐらい、精進の時間を覚悟すればいいと思う。その前に「なんで絵が上手くならないんだろう……」と心が折れないことを願います。

 あと上達している人を無闇に羨むのはやめたほうがいい。
 その人は無意識レベルで常になにかに気付きなにかを発見している人なので、アンテナの広げ方が比じゃありません。その域に至るのにもそれなりの努力してます。努力を努力と認識してないだけで、「なんでそんなに上手く描けるの?」と質問しても、「寧ろなんでそれだけ描いて上達しないの?」とお互いに理解し合えません。

 貴方は相手が短時間で上達するのが羨ましいでしょうが、その人は上達するための下地を長年蓄積して来てるのです。
 それこそ初めて漫画を読み始めた時から。


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