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簡単に水が出ます

父の誕生日を目掛けて帰省することにした。

会社に向かうバス。ぼんやりといつもの車窓を眺めていたら、不意に気がついた。
来年の誕生日は、ないかもしれない。

喉がひゅっと締まった。
途端、パタパタパタと音がした。

ここは公共の交通機関で、
これから仕事で、
私は私の1日をやり過ごさなきゃいけないのに。

ハンカチで目頭をぎゅっと押さえて蛇口を締める。
喉に詰まる何かを一生懸命飲み下す。
窓の外に見えるどうでもいい広告看板の文字を読んで、
なんてことない、なんでもない、と呪文のように唱える。

非日常から遠ざかりたい一心で、
日常に戻ろうと足掻く朝だった。

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