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ヨーロッパ的なるもの:小話2 ヨーロッパとマルチリンガル

【ヨーロッパとマルチリンガル】
 スイスに本社を置く国際企業ネスレの社長ポール・ブルケ氏が、メディアのインタビューで、仕事を成功させるには現地の言葉を話せることが必要だと言っていました。ベルギー人のブルケ氏はオランダ語、フランス語、英語、スペイン語、ポルトガル語、ドイツ語の6ヶ国語を話します。政治家では、フォン・デア・レイエンEU委員長も独語、仏語、英語を話します。

 ヨーロッパは様々な国の寄り合い所帯です。米国より狭い地域に、欧州経済領域(EEA)とスイス、英国に限っても31ヶ国もあります。多数の国々が国境を接し、道路や川の向こうは隣の国ということがごく普通です。それにもかかわらず夫々独自の文化や言語を維持している。様々な言葉を使う国が身近にあり、人の行き来も頻繁という環境ゆえに、母国語以外の言葉をかなりの程度まで使える人の割合が、ヨーロッパではかなり高くなります。

 2016年のEUの調査によると、25~64歳の年齢層で外国語を一つ以上知っている人の割合は、EU全体では65%となっています。現役世代のヨーロッパ人の3人に2人は母国語以外も話せるということです。特にスウェーデン、デンマークなどの北の国は95%を超え、実質的に、母国語しか話せない人はいないと言えます。イタリア、フランスは夫々66%、60%でEU平均に近く、最低は英国の35%です(当時は、英国はまだEU加盟国)。

 英国人が言語下手なのは、英語が国際共通語化しつつあり外国語を学ばなくても不便が少ないということに加えて、島国ということも影響しているでしょう。後者は日本と同じです。

 一方、職業別にすると少し違う景色が見えます。EUの調査では、企業や団体の役職者や、会計士などの専門職が外国語を話せる割合は平均で79%に跳ね上がります。加盟国の2/3程度で90%以上となり、企業や団体の役職者や専門職は、ほぼ全員が母国語以外も話すということです。低めのイタリアやフランスも、83%と76%です。

 最近は、母国語以外も話せると収入が10%程度高くなる(数値は調査による)という実利的側面からも外国語学習が奨励されています。ランド研究所(ヨーロッパ)が、これは企業レベルで見ても、多言語能力は企業業績を向上させるという結果を発表しました。外国語能力の欠如は、国際取引での非関税障壁のように作用するという説明です。

今後、ヨーロッパ人は従来の多言語環境に個人や企業の実利的目的が加わって、ますます多言語を話せようになっていくのでしょう。

著書紹介:ヨーロッパ 本棚のつくる異空間

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