見出し画像

存在しない日記 2021.3.15

これは架空の人物による、架空の出来事の日記である。空想の日記。妄想とも言う。つまりこれは存在しない日記。

- - - - - - - - -

2021年3月15日

稀有な体験をした。今日は少し疲れを感じる。

15時ごろ、取引先に着いて5階にある事務所に行くためにエレベーターにのった。動き出して間もなく地震が起きた。エレベーターの中では正しい揺れの大きさはわかりづらいが、途中で乗っているエレベーターは停止をして、一時的に閉じ込められてしまった。

後で速報を見たら揺れはそこまで大きくはなかった。安全のために停止をしたのかもしれない。しばらくするとまたすぐにエレベーターは動き出したので、実質閉じ込められていたのは1分程度だったのかもしれない。それでも随分と長く感じた。

自分の乗っているカゴが落下したらどうなるのか?停電するのではないか?水も持っていないが大丈夫か?と言った思考が瞬時に頭をよぎった。幸い何もなかったわけだが…。

動き出した後には何事もなかったかのように5階に到着し、予定通り商談を行った。商談前の余談として閉じ込められた話をしたが、ケロッと出てきているせいか相手はあまり大変さを感じていない様子だった。

エレベーターに閉じ込められるというのは、漫画や映画では見たことはあるが、実際に自分が体験することになるとは思っても見なかった。あっという間の出来事とはいえ、エレベーターの密室は世界から私を分断する壁のような存在となった。しばらくはエレベーターに乗るのは控えることにしよう。

ところで、エレベーターには監視カメラがついていた。見るからに古そうなものだったがしっかりと映っていたのだろうか。こちらに向いた監視カメラは閉ざされた空間の中で、唯一のとても小さな窓のように思えた。カメラの先に出口がある。カメラは外の世界と繋がっている。あるいはカメラは世界中を俯瞰して眺める誰かの視点である。そんなふうに思えたのだ。

それからと言うもの、カメラは神社の本殿の奥に祀られている、鏡と等しい存在なのではないかという考えが、頭にこびりついて今なお離れようとしない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?