それはまだ言わない

2005年3月の日記。おばあの繰り言めくが、この頃吉井和哉さんはまだYOSHII LOVINSONさんであり、前年にソロの1stアルバムをリリースしたものの媒体での宣伝もライヴもやらず(雑誌のインタビューは受けないのにレコ屋のフリーペーパーのインタビューは受けてた)、本当に世の中に出てこない時期だったんですね。この日記を書いたころは2ndアルバムリリースのためほんのすこし天岩戸から顔を覗かせたか?みたいな頃。
この3か月後にかれは初めてソロのライヴのステージに立つわけだけど、その時を振り返って「今までずっと待ってくれていたファンが心臓マッサージを続けてくれていたようなものだとおもう」と言ったことがあった。この日記で書いたことは、まあいわばそんな心臓マッサージのひとつだったのかもしれないと今振り返ってみて思う。
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2日で4時間しか寝ていないうえに夜勤明けで芝居見てそのまま友人の送別会に出て飲めない酒を飲んでいる人間の言うことなので全般的に聞き流して頂きたいのだが、さっきJAPANカウントダウンで吉井ロビンソンのインタビューがあった。DVDで見たりネット配信のインタビューを聞いたりなんだりしているので錯覚しがちだけれども、「今」の吉井を地上波のテレビで見るのは実は信じられないぐらい久しぶりなのだった。痩せてるなあ。白いセーターにサングラスをかけていて目はよく見えなかった。

このサイトは基本的に「芝居絡みの雑談と、その感想」で成り立っているものだと思うので、こうもことあるごとに吉井だイエローモンキーだロビンソンだと持ち出すのは言ってみればまったくニーズに応えていないことなのだろうなと思いつつ、しかし吉井和哉という人はもしかするとどんな芝居の創り手よりも私の心に直に働きかけるひとで、今日みたいに久しぶりにテレビで声を聞いたり、新しいアルバムを聴いたりすると頭の中はいっぱいになってしまう。

昨日買ってきた吉井の新しいアルバム「WHITE ROOM」をitunesに放り込み、ネットをしながらぼんやり聞いていた。新しいアルバムを歌詞カードをひろげてよっしゃ聴くぞ!という体勢で聞くと、私の場合歌詞に引っ張られ過ぎて最初の感覚を逃すことになるので、極力BGM代わり、みたいな空気で聞くことにしているのだが、ある曲で「あーこれは好きだ」と引っかかってくるものがあって歌詞を見てみた。歌詞を見ながら吉井ってこんな優しい歌い方してたっけ?と思っているとなんだかぼろぼろに泣けてきたのだった。NATURALLYと名付けられたその歌を何度も何度も聞いてしまった。

ぶきっちょで まっすぐ はいいんじゃない?

私はものわかりのいいフリがうまいし大人なフリもうまいので、何かを好きだったり嫌いだったりするのも人それぞれなんて態度を表向きは貫いているわけだけど、でも心の中では世の中にイエローモンキーや吉井和哉を好きじゃない人が居るなんて信じられないとか思ってるし、今だって本当は吉井のあんな歌詞やこんなメロディをずらずら並べ立ててどうだ素敵だろう格好いいだろうとぐりぐり押しつけたい衝動が抑えがたくあるわけです。それをしないのは私が逆にそんなことされても引きこそすれ好きになんて到底ならないということがかろうじてわかっているからにすぎない。でも好きになるってそういうエゴを持つことだとも思う。何かを盲目的に一生懸命好きになるって大抵傍迷惑だし格好悪いしみっともないことなんだもの。

私は吉井の書く歌詞が大好きで大好きで、レトリックを駆使した迷宮に迷い込むようなものも好きだし、逆にあっと驚くほどストレートな歌詞にもぐっとくる。吉井の詞は安くなくってそこが好きだと私はいつもいつもひゃくまんべんも言っているのだけど、NATURALLYは実はちょっとその安さが匂わないでもないのだ。こんな「人生応援歌」みたいな曲を吉井が書いて歌うなんてという驚きもなきにしもあらずなんだけど、それ以上にこの歌が優しくて、それは年をとったね吉井さんよ、という部分も含めて私にはたまらず響いてきたのだった。私だって年をとるし、吉井もとるし、みんなとる。そして最後に死ぬ。でも、

その「でも、」が吉井の歌にはある。だから好きだし、だから切ない。でも、のあとに続く言葉はきっと人それぞれなんだろうけど、私が好きなのは「でも、」と顔を上げる意思そのものなんだろう。吉井の人生は「死」に取り囲まれていて、だからこそ絞り出されるように歌う「でも」な言葉に私はどうにもめろめろで、どうやってもこの人から離れられそうにない。そうして何かを一生懸命好きになるみっともなさを自覚しつつもこんなところで好きだ好きだと喚いてしまうのだ。みっともないけれどそれが好きということだから、私はきっといつまでも喚き続ける。だからもし何かの機会があってもし何かの暇があってもしこのCDを手に取ることがあるのなら、8曲目のNATURALLYをもし良かったら聴いてみてほしい。少なくともあなたの3分52秒を無駄にしないだけの曲だと思う。私が保証できるのはそれだけで、そこからは吉井和哉と聴いてくれたあなた二人だけの世界である。どうか沢山の新しい世界が生まれますように。

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