もう一度息を。
小雪〇
これは一夏の出来事だ。 「唯、暑いから撮るのはいいけど程々にね。」「わかってるよ。」と唯はそう言って靴を履き暑い外へ飛び出た。元々唯は東京に住んでいたが引っ越しをしたため今の田舎に住んでいる。なので、いろんなところに行くのが唯の趣味だ。唯はカメラを持ってジワリと垂れた汗と戦いながら歩いた。撮ると言っても東京タワーやスカイツリーなどはない。なにもない本当の田舎だ。だが、唯は雲や田んぼ、木、山、そういうのをカメラに収めるのが好きだ。学校にこっそり持っていくほどカメラが好きだ。 この町に森があるのを前から気になっていた。今日はそこに行ってみようとドキドキしながら一人で行ってみた。誰もいない。暑さが和らいだ。すると右の木々の方からガサガサと音がした。その正体が気になるが恐ろしく。だが、冒険家の唯は近づいてみた。そこにはリスがいた。「か、かわいいっ」思わず声が出た。静かにカメラを構えた。急いで家に帰り母に自慢げに二匹のリスが写った写真を見せた。「森に行ったの?危なくないの?」と母が言い。「大丈夫だよ!」と言い、また休みになったら行こうと決めた。リスの写真はプリントアウトし部屋に飾った。動物を撮るのもいいなと唯は思った。 学校では唯は静かな方であまり友人がいない。楽しいと思うことがないが、唯にはカメラがある。去年の誕生日に買ってもらったのだ。それ以来大事に毎日のように使っている。唯には他にも趣味がある。一匹の野良猫を探すことだ。白色のふさふさの猫だ。学校と家の帰り道の公園によくいる。名前を付けているが振り向く素振りはない。「あ!お茶まる!おいで!お茶まる!」学校が終わり、そう公園にいたお茶まるに言った。お茶まるはごろんとして、日に浴びてた。パシャっとその様子を撮った。 お茶まるは懐かなかった。なので、そばに来て撫でることはなかった。撫でようとすると逃げてしまう。そんな仲だ。お茶まるはご飯を食べているのか、撫でてもらっているのか、そういうことが気になってよく唯はお茶まるの後をついて行くが主人というものがいる気配がない。だが、ある夕方、男の子とその後ろのお茶まるが歩いていた。驚いた唯は男の子に声をかけた。「あの、その猫、あなたが飼っているんですか?」すると「うん、僕が飼っている雪だよ。というか、転校生の尾形唯さんだよね?僕、隣のクラスの小林麗だよ。よろしく。」「え!ごめん、知らなかった。よろしくね、小林君。私、野良猫かと思って勝手にお茶まるって呼んでたよ。」「そうだったの?はは、それは可愛いね。でも、雪って呼んでほしいな。」と麗は雪を抱き撫でてやった。「小林君には懐くんだね。私には全然だったよ。」と二人は楽し気に話を続け夕日は沈み「明日、学校で。」「うん、またね。小林君。」とその日から唯と麗は仲良くなり、唯がカメラで色んなものを撮るのが好きというのも麗は知り、二人で唯のカメラを持ち散歩をすることが増えた。そこには雪も一緒だ。 唯と麗はたまに森に行きリス探しをしたりして楽しんだ。森の中はとても涼しく、敷物を敷いて唯が作ったサンドイッチを二人で食べた。麗は「尾形さんの作るサンドイッチとっても美味しいね。からしが入っているの僕好きなんだよね。」とぱくぱく食べた。 唯がいつものように学校に行くと麗が休みだった。次の日も、また次の日も。家も電話番号も知らないので先生にどうしたのかと聞くと、入院したそうだ。どこが悪いのかそれとも交通事故に巻き込まれたのか、わからないが心配になると同時にいつもの散歩や雪の姿がなくなり寂しくなった。先生にどうしてもと病院を教えてもらい、少しの花を持ち麗のもとへ行った。麗は個室のひんやりとした殺風景な部屋で本を読んでいた。「小林君。」「尾形さん、どうしてここに?」「心配したよ、雪もいないし小林君は一週間もいないし。」と、泣きながら花を渡した。「お花、ありがとう。泣かなくても大丈夫。もうすぐ退院だから。」続けて「僕、治らない病気なんだ。」「そうなんだ。」唯は何も言えなかった。「大丈夫、すぐ死んだりしないから。」と麗はニコッと笑って見せた。その日雪が車に跳ねられ死んだ。それを知ったのは唯のほうが早かった。 病院からの帰り道白いそれは横たわっていた。唯は言葉もなかった。すぐに駆け寄り、撫でてやった。いつもなら逃げるのに逃げない。病院に行ったとき麗のメールアドレスと電話番号を教えてもらっていたので、急いで知らせた。麗は雪がぐったりしているのか、どんな様子なのか気になるから写真を欲しい。と言われたので、唯はケータイのカメラではなく思わず撮り慣れてる一眼レフカメラで撮ってしまった。撮った一秒もしないでのことだ。雪の傷跡が見る見るうちに消え、目は開き、立ち上がった。唯は驚いた。「雪!?生き返ったの!?」メールで麗にそのこと伝えようとしたがその時間が惜しく電話をかけた。「小林君!雪が生き返った!カメラで撮ったら生き返った!」麗は状況がわからなかった。電話を一旦切り、メールで雪の元気な姿を添付し、「このカメラ凄いかも!」と送った。その日を境に麗が退院してから、死んでしまった虫などをカメラで唯と麗は撮り、生き返らせる。というなんだか良いことをしている気分になっていた。ミミズやダンゴムシ、小さい生き物だが命がある。カメラに収めてまた息をする。とても素敵だった。夏だったので、セミの死骸が多かった。しかし、一度生き返った死骸にカメラを向けても生き返ることはなかった。そういう仕組みなんだと二人は思った。 八月になった。麗がまた入院した。今度はかなり酷いらしい。メールにそう書いてあった。しかし唯は思った。万が一麗の身体に何かあってもこのカメラさえあれば、大丈夫。 学校が終わり、麗の病院に行き、病室を探した。すると看護師や白衣を着た人が沢山の病室が一つあった。麗の部屋だ。中に入ることは難しそうだった。そこに麗の母親らしき人が歩いてきた。「あら、あなたが唯ちゃん?」「はい。」「麗から話は聞いているわ。沢山遊んでくれてありがとうね。」と言い、病室へ入って行った。目は潤んでいた。もう危ないのかもしれない。いや、もうだめだったらしい。皆が手を合わせていた。唯が見ていたのに気づいたのかカーテンを閉められた。唯はそれでもまだ大丈夫だと思っていた。看護師などが引いた後、麗のもとに行き「小林君、大丈夫だからね。撮るよ。」と言いカメラを向けてパシャっと一枚撮った。唯は泣いた。もう一枚撮った。唯は大粒の涙をこぼした。「なんで、なんでよ!」となんども麗の姿を撮った。麗は生き返ることはなかった。麗とリス探しした時、サンドイッチを沢山食べてくれた時、雪との散歩、すべてが楽しかった。唯は麗と出会ったときから全ての思い出を込めるかのように麗の手を握り「ごめんね。」と涙を拭い病院をあとにした。ケータイの着信ランプが光っているのに気づいた。麗が死ぬ前に届いていた麗からのメールだ。「尾形さん、僕、尾形さんが好き。」涙が溢れ、顔が赤めいた。読むはずのないメールに唯は返事を打った。「私もすき。」 道中セミの死骸が落ちていた。唯はそれをカメラで撮ることはなかった。
こちらの作品はDIGITAL ART CENTER神奈川所属の小雪〇さんの作品です!
DAC神奈川に通所することで、さまざまなジャンルで自身の目標や夢を叶えるお手伝いをさせていただければと思います!
今後はDACメンバーの制作した作詞や小説、漫画を掲載する予定です!
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