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 月曜日のホームルーム。

 千歳は気まずい空気の中過ごした。

 先生
「皆さん、ではセルフ文化祭の準備はどうなっていますか? 先生に教えてください」

 
「みんなでカラオケに行くことになりました。四季さんの提案で」

 先生
「ふっ、その程度か。先生は社会人文化祭というサイトで映画を投稿して、金賞を狙うつもりですけどね。まあ、先生は天才ですから、あっという間にファンがついちゃうんですね。そしてみんなから言われちゃうんです、先生さんかっこいいって」

 四季
「あほくさ」

 先生
「そういう人も一部にいるでしょう。とはいえ、みなさんは皆さんの文化祭を楽しむように。それでは今日の授業を始めましょう」


 今日の授業が始まる。

 そして音楽の時間、千歳たちは別室に送られ、そこで楽器の演奏を始めるのだった。

 変わらず循環コードを引いて楽器に慣れていく練習をした。

 四季の演奏が滑らかになっていったので、千歳はそろそろ次の段階に進んでもいいんじゃないだろうかと思って、四季に次の演奏を教えようとした。

 が、四季は途中からギターを激しく演奏し始めた。

 弦を指ではじくだけでなく、弦楽器特有の様々な演奏をし始めた。

 千歳はそれに合わせることはできない。

 なぜなら、それはギターだからできる演奏法であって、それはギターの独壇場だったからだ。

 千歳
「随分と元気な演奏しますね」

 四季
「当然、このくらいやらないと、吹っ切れられないよ」

 千歳
「四季さんは吹っ切れたいの?」

 四季
「そうだね、吹っ切れたい。毎日の授業で退屈だから。くそみたいな仕事もしたくないし、自由になりたいわね」

 千歳
「四季さんって意外と正直なところがあるよね」

 千歳は四季の内面を覗き見ることに成功した。

 どうやら、四季の物静かな態度とは裏腹に内面には反社会的な感情があるんだな。

 反社会的、うーむ、反社会的というか、反体制的というか、優等生の千歳からしてみたら真逆の人間だな。

 四季
「さっさと曲の練習しようよ。そうしてる時が一番活きてる感じがするし」

 千歳
「そっか」

 四季
「なんか、最近はいい子ばっかりでやるせないよねー。うちのクラス、特別支援クラスなんて言ったところで発達障害なだけでみんなまともじゃん。私みたいな軽くぐれてる人っていないのかなー?」

 目の前に犯罪に手を染めている人間がいるぞ、千歳は思ったが、そんなこと話しても生産性ないな、と思ってやめた。

 千歳
「まあ、堅苦しい生活の中だとグレる人が一定数いるのはわかるよ」

 四季
「千歳は優等生じゃん。私みたいなのは嫌いだったりするかな?」

 千歳
「嫌い? どうして?」

 四季
「ほら、規則に従えとか、タバコ吸うなとか、酒飲むなとかいろいろうるさそうじゃん」

 千歳
「四季さんはタバコ吸ってる?」

 四季
「タバコは吸わないかな。お酒も戒律で禁止。だけど、隠れて軽めのやつ飲んでることはあるかな?」

 千歳
「じゃあ、今度一杯どう?」

 四季
「いいねー、それ。楽器とお酒はセットだよね」

 千歳
「なんだそりゃ」

 四季
「楽器なんて体に悪いことの代表格じゃない。お酒もそう、ゲームもそう。日本は体に悪いものであふれかえってると思うよ」

 千歳
「ふーん、一説によると、日本で麻薬があんまり流通しないのって、それ以上にクリーンで快楽のでかい麻薬であふれかえってるからって言われてるね」

 千歳は犯罪についての一説を言ってみた。

 四季
「言えてる」

 四季は納得した。

 まあ、日本で流行している電子アヘン、例えばゲームやアニメなどは安価でソシャゲなどは無料でもできる。

 それを考えれば大金を払ってまで麻薬を買おうとする人間は少ない。

 それどころか、麻薬は健康を害するから千歳の所属している謎の組織でも販売は控えるようにしている。

 確かに麻薬は一部の大金持ちから大金を得ることができるが、顧客に長生きをしてもらわなければ、ただの焼き畑農法になってしまう。


 そうして、治安の悪い話をしながら、楽器の練習をしながら、音楽の授業は終了した。

 そして放課後、仕事の時間がやってきた。

 千歳と四季はペアを組んでパトロールにあたった。

 今日は仮想空間の公園を見て回るコースを選んだ。

 ちょうど海が見えて、船の形をしたオブジェクトが複数並んでおり、悪いことをしようとする人が現れる気配はない。

 が、これも普段から特別支援クラスが警備をしているからだ。

 とはいえ、この中で一番治安が悪いのは千歳と四季であることはあまり大きな声では言えない。

 四季
「今日も退屈だなー」

 千歳
「そうだね」

 四季
「それは根っこから言ってるの?」

 千歳
「そうだなー、普段は榛さんに勉強教えたりで忙しいし、半分散歩みたいなことしてる時が一番気楽だよ、例えば今とか」

 四季
「つまんないやつ」

 千歳
「そう言われるのも重々承知の上さ」

 四季
「ベース弾いてる千歳はもっと生き生きしてたよ」

 千歳
「そうかい」

 ここで、二人の視界に講演で演奏をしているバンドの姿が映った。

 四季
「あれ、面白そうじゃない?」

 千歳
「あー、一応今仕事中だけど?」

 四季
「ああいう小さなバンドの治安を守るのも私たちの仕事、そうじゃない? バンドメンバーって色々治安悪いじゃん。淫行とか」

 千歳
「この空間はそういうのできないように設定されてるって言われてるけどな?」

 四季
「どうだか。この前、有名どころの配信者が色っぽい雑談してるの聞いちゃったから、そんなわけないってわかっちゃうんだよね」

 千歳
「どこでそんな情報仕入れてくるんだよ?」

 四季
「さあ、アクセス履歴とかじゃない?」

 千歳
「確かに、そんなところだろうね」

 さて、名前も知らないバンドメンバーが演奏を始めた。

 楽器のアバターが実際に演奏している楽器と全然違うと千歳は感じたが、これも予算の限界か。

 音からしてプロ仕様のベースを弾いているな、と感じてしまう。

 投げ銭を入れるにはメニュー画面から選べばいいのだが、勤務時間中にスーパーチャットを送ることは果たして規則上問題がないのかと千歳は思った。

 ベースの音が本当に心地のいいグルーブを奏でているしドラムとも本当に息が合っている。

 ギターの演奏も様々なテクニックを駆使しており素晴らしい。

 ボーカルの歌声も低音から高音域までしっかりしている。

 どうしてこんな逸材がネットに転がっているのやら、と千歳は思ってしまった。

 多分、プロ経験があるんだろうな、とさえ思った。

 そうして演奏が終わると、スーパーチャットが投げ込まれた。

 四季は迷わず1000円を投げるのだった。

 千歳は仕事中だから遠慮しようとしたのだが、四季が投げているのを見て自分も投げた。

 四季
「あれれー、仕事中じゃん。いいのかなー?」

 四季はいたずらっぽくそう言った。

 普段はこんな声出さないだろうな、というような小悪魔みたいな声でだ。

 演技の才能がどこかにあるのかもしれない。

 千歳
「四季さんに誘惑されたからだよ」

 四季
「へー、そうなんだー、私のせいかー。いいよ、そういうことにしといてあげる」

 千歳
「お言葉に甘えさせてもらおうかな」

 四季は突然まじめな口調になった。

 四季
「千歳の、そういうところ大嫌い。絶対に本心で別のこと考えてるくせに、表に出さない、人に知らせない。いい人ぶって、いつも優等生。私が一番嫌いな人種」

 千歳
「そう見えるの?」

 四季
「はっきり言えばね。窮屈じゃない。そういうの。人を過度に信じないように、人に角を立てないように、情に流されないように、理を通しすぎるわけでもない。かといって偽善がばれないようにするの、最悪の人種だと思う」

 千歳
「そっか」

 四季
「まるでロボットみたい」

 千歳
「そう見えるかもしれないね」

 四季
「少しは反論してみたら?」

 千歳
「後で、二人だけで話をしようか。チャットルーム、来れる?」

 四季
「何、反論でもするつもり? 優等生だから私みたいな人間はやっぱり頭にくる?」

 千歳
「仕事が終わってからのお楽しみで」

 四季は渋々千歳の言うことに従うのだった。

 あーあ、千歳が内面からまっとうな優等生だと誤解しちゃった。

 四季はどうなってしまうのやら。


 そうして、二人は仕事が終わるまで待った。

 いつものように特別支援クラスが集うルームで報告会をして、それから解散になる。

 解散したら、自由時間。

 仮想現実に残って遊ぶのも、ログアウトして現実に戻るのもあり。

 千歳と四季は二人だけで仮想空間にある密室に入った。

 ここでは盗聴される心配がない代わりに、お金を払わなければ入ることができないルームだ。

 1時間3000円の料金を千歳が払おうとすると、四季が割って入って1500円を支払ってきた。

 こういうところはマメだな、と千歳は思った。

 だが、この空間はAIに盗聴される心配もないし、会話も漏れない。

 千歳はここで四季にある秘密を伝えようとした。

 二人がいる密室にはなにも用意されていなかった。

 まだ誰も歩いていない雪の上のような空間が目視で4畳半くらいの空間で広がっている。

 その空間にいろいろとアイテムも出すことができて、千歳はふかふかのソファを用意して四季に座らせた。

 色は、四季の服装に合わせて黒を選んだ。

 四季
「こんなところに呼び出して何?」

 千歳
「四季さんは俺のことを優等生とか言ってたから、その誤解を解くために」

 四季
「あれ? 殴ったりするの? まあ、仮想現実だし銃で撃ちあったりできるね。私そういうの好きだよ」

 千歳
「近距離武器はサブマシンガンかショットガンかで言ったらどっちが好き?」

 四季
「ショットガンかな? フィールドに落ちてないから使えない時もあるけど」

 千歳
「そっか。やっぱりそっちのほうが好きか」

 四季
「それで、こんなところに呼び出して何? 映画でも見る、それもクライムサスペンスとか」

 千歳
「それもありだね」

 千歳はここで自分のスマホの通信履歴を四季に見せた。

 四畳半の空間に大きな縦長のディスプレイが現れる。

 四季はそれを見て、別に驚かなかった。

 四季
「何これ、意味がよく分からないんだけど」

 続いて物部との会話履歴を見せた。

 千歳
「これを見ても俺が優等生に見える?」

 四季
「ギターを演奏するのが青春とかレモンの香りとか書いてあるわね。なにこれ?」

 千歳
「この人、誰だと思う?」

 四季
「さあ」

 千歳
「案外察しが悪いなあ。じゃあ、俺の銀行口座の取引履歴を見せてあげよう」

 そうして千歳は自分の口座残高を四季に見せた。

 四季
「あら、お金持ちじゃない。こんなお金どうしたの? 千歳君って家柄も尊い貴族だったりする?」

 千歳
「違うんだなあ。誰から入金されてるか見てごらん」

 そこには、会社関係から入金されているお金が多かった。

 四季
「千歳って副業とかやってる?」

 千歳
「随分と善意で見てくれるんだね。それとも、意外と悪いことをしたことがないからそんな風に見えるのかな?」

 四季
「あ、ひょっとして闇関係のお金だったりする?」

 千歳
「その通り。この口座は俺の私的なもので報酬を支払う用に作られてるけど、俺みたいに謎の組織で働く時間や能力が不足している人とかは口座を開設して資金の横流しとかをやる」

 四季
「それ、私に教えてどうするの?」

 千歳
「自分はそんなに優等生じゃないよって、言おうとしたんだ」

 四季はマスクの中でどんな表情をしたのかわからないが、千歳から目を背けてこんなことを言った。

 四季
「そのくらいいいんじゃない? 偉い人や立場が上の人はどうしたって闇を抱えるって。千歳がこうやって普通の偉い人と同じくらい闇を抱えているって確信できて、むしろ安心したかな」

 千歳
「そっか」

 千歳は緊張していた肩を落とした。

 四季
「なんだかさあ、私が信じてる宗教は歴史的に悪役扱いだけど、悪役じゃなくて悪だよ? 海賊を使って白人を誘拐して奴隷にしてた時とかあったし、白人を捕まえて兵隊にして白人国家を攻撃したり、やりたい放題だってば。日本だって歴史によれば平和主義なんて言っておきながら海外の戦争にお金をたくさん流したりで、この世に正義とか悪とかないと思うよ?」

 千歳
「さて、それはどうかな」

 四季
「少なくとも、千歳は優しいし、恩返しもするし、何より人を傷つけたりしない。千歳が内心何を考えているのか私は正確にはわからないけど、行動が全てを物語っているんじゃない?」

 千歳
「行動か」

 四季
「そう、行動。人間、口では何とも言えるもの。だから、その人がやっている事が、その人の正体。そう思わない?」


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