青山フラワーマーケットGREEN HOUSE(表参道・南青山)
東京喫茶あなたこなた
【青山フラワーマーケット GREEN HOUSE】
(表参道・南青山)
このカフェを運営している花屋さんの名前はご存じの方も多いかと思う、コンクリートの壁と電球が吊るされたシンプルな店内を彩るのは季節の西洋花に留まらず黄色い梅などなかなか見かけない珍しい日本の枝花、観葉植物に木目の蓋の香水…などアートギャラリーの中を思わせる花園(美術品は、もちろんそのとりどりの花だろう)は通勤路に店舗があったとすれば忙しい朝の一服の清涼剤になるに違いない。
さて、そのフラワーショップの本店は(“青山“の名の通り)表参道駅を降りてすぐにあり瀟洒な青山の街に2階建てで硝子張りの温室がある。
マンションの外壁だけでなく内装にも一家言あるご婦人も多く暮らす街である。
ここさえあれば飾る季節の花にも事欠かないだろう。
私も一時期、インテリアやお店の内装の本を電子書籍で読み漁っていたのでここのカフェに行った日にその足で輸入家具店というものに初めて足を踏み入れた。
(もっとも、青山近辺で売っているもので手が出せるものと言えば蠟燭立てやランチョンマットなど置き場所に困らない小物類に限られるが……)
如何せんおしゃれな家具店というものに足を踏み入れるのが初めてだったので、買い物の目的があったとはいえ緊張しながら入った。
1月末。
例によって神宮前駅から千代田線に乗り換える際、5分ほど迷った後表参道駅に降り立った私は目と鼻の先にあるのもつゆ知らず近くのビルの駐車場にいた兄ちゃんに道を聞く。
「青フラかぁ。そこの信号を渡って左側をまっすぐ行けばすぐ見つかると思います」
お礼をして、言われた通りの道を行く。
時は1月半ば。
お正月も明けて、肌寒いながらもあと2ヶ月もすれば梅の花を咲かせるであろう日差しが街道の銀杏並木や石畳を照らしていた。
私がさして寒さを感じなかったのは、横浜駅で軽くスープと玄米の昼食をとってきたからかも知れないが。
目的地に見覚えのある看板があったのでこれ以上は迷う事はなかった。
硝子ばりのフラワーマーケットスペースを抜け、『OPen』と書かれた小さな黒板とメニューが置かれた机を発見した。
黒板の傍らには陶器の花瓶にスイートピーが添えられ、テラス席にはグリーンの鉢植えが並べられている。
恥ずかしながら…この光景を目にして真っ先に思ったのが、
(やっと、このお店に入れる……!!)
である。
実を言うと、このカフェ自体は世が自粛ムードの頃にたまたまネットで調べた時このお店を発見したために訪ねるのが一年越しになってしまった次第だ。
そういう場所があの2年間で増えたので、初めて訪れた時の喜びは大きい。
もっとも、お茶するのにちょうど良い時間である。
「そこの椅子に座って、お待ちください」
とメニューを渡され切り株を模した椅子に座る。
だが、待ち時間が苦ではない場所というのも珍しい。
真ん中に水の流れる岩のオブジェがあり、天井を蔦の葉が取り巻いている。
岩を囲むように切り株の椅子が設置されていて下には木くずが敷かれている。
水のせせらぎはヒーリング効果があるらしいが…照明も程よく明るすぎないこの場所に座った私は、一歩外へ出ればビルやタワマンがそびえ立つ大都会だという事を完全に忘れ去っていた。
それから間もなく席へと案内される。
外の景色も蔦のグリーンカーテンで余り見えないようになっている。照明も天井に吊り下がった電球ランプのみで硝子張りのテーブルの上には季節の花が両横に挿してある。
入り口にあったスイートピーの、濃いピンクが綺麗な花弁である。
テーブルの柱部分もプランターになっていて、グリーンが硝子に向かい茎をのばしている。
私がこの日座ったのは店の奥の方だった。
カフェの隣ではフラワーアレンジメント教室もやっているらしく窓越しに片づけをするスタッフのお姉さんたちが見えている。
この日、私が頼んだのはフラワーパフェ、という鮮やかなバラ色のパフェと紅茶。
紅茶は“ベル・アヴァンチュール”という銘柄で木製の蓋を乗せた硝子のティーポットに入っていた。
ティーカップも硝子のものだが、普段私が家で使うガラスのティーカップより明らかに持った時ずっしりと重い。
恐らく上質な硝子なのだろう。
好きなエッセイの中の“上等な硝子の、ずっしりとした重さが好きだ”という言葉が頭をよぎる。
もっとも、私は普段使いという視点で軽くヒョイと持ち上げられるモノがよくこういう重いホンモノの硝子はカフェに来た時で十分という考えだが……(ドジだから落として割りそうだし)。
その重みはティーポットにも、パフェの器にもあった。
陽光や明るすぎない照明を反射して、ティーカップに注がれた紅茶はさながら琥珀のようだった。
紅茶を一口飲み、緑に覆われた温室カフェを見渡す。
その後パフェのルビーのような色合いのゼリーを口に運ぶ。
薔薇のジュレとでも言いたいほどの花の香りが広がる。だが優しい香りなので(精油を想像して頂きたい)あっさりと頂けた。
パフェではあるが、果物が冷凍ベリーであり下段もグラノーラだった。
見た目も花のようで、(アイスが乗っていたのでそうはいかなかったが)ずっと眺めていたいという気持ちにさせた。
お会計を済ませ、表参道の雑踏に紛れる。
普段ならそのまま帰る所だが今日はもう少し歩いてみる。
ティーカップを新調しようとお金を貯めていて、今日は懐にそれが入っているのだ。
(ヒダがついている、硝子のものがあればいいな…)
駅とは逆方向に向かった。
執筆 むぎすけ様
挿絵 シエラ様
投稿 春原スカーレット柊顯
©DIGITAL butter/EUREKA project
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