パティスリー パブロフ
横浜喫茶あなたこなた
【パティスリー パブロフ】
このカフェとの付き合いは3年以上にもなる。
横浜に限らず、色鮮やかなマカロンのカフェやどんぶり大のお椀になみなみと注がれたカフェオレをバゲットサンドと食す…フランスからやって来たカフェには数回入った事もある。
東京の銀座や新宿の摩天楼にそっと佇んでいたそのカフェも良かった。
横浜からは逸れてしまうが、そのカフェ達の事もいずれ書こうと思う。
だが、馬車道や元町にもフランス映画に出てきそうな可愛らしいカフェがあるのだ。
好きな場所であるが故に長らく書き渋っていたが…(混雑しないでほしいから)この場所によってカフェ巡りに開眼されたので書こうと思う。
初めて訪れたのは2021年初頭、桜木町駅近くのコレットマーレの中の映画館でアニメ映画を見た後だった。
『銀魂 完結編』と印字されたチケットの半券を財布にしまった私は……正直な所余り空腹という訳ではなかった。
時刻はお昼どきの13:30。その時は世の情勢でご飯屋は空席が目立っていたので入ろうと思えばより取りみどりだったが……
ひたすら頭の中で、映画の内容を反芻しながら
(終わっちまった……私の青春…)
と、ビルを出て動く歩道に乗る。その先に広がるみなとみらいのコスモワールドや日本丸と暖かい冬の青空を眺めていた。
せっかくだし……とクイーンズの長いエスカレーターを降りみなとみらい線で元町中華街駅へ向かう。
駅へ着き、大好きな中華街にも今日は背を向ける。
(サロンというより)昔ながらの理容室や流行のパンケーキ屋さんを抜けた所にそのカフェはあった。
宝石のようなパウンドケーキが整然と並べられた入口はケーキの販売スペースで、さながらフランスの邸宅で美術品が並ぶ貴賓室のようだった。
主役の美術品はとりどりのケーキやクグロフ、カラフルな箱のギフトだろう。
店員さんに案内され(制服がまた、素敵だった!)壁に洒落た花のアートが施された席に案内されて深々としたグレーのソファに腰かける。
置いてあるクッションも繊細な装飾が施されているので
(迂闊に背中に置けないな……)
とそっと椅子の中のスペースに置いた。
私が頼んだのはパウンドケーキとフレンチトーストのセット。
長方形の白磁の皿が二段重なった瀟洒なケーキスタンドの上にはシャンデリアの光に照らされた艶やかなパウンドケーキ4種と、パンのクレームブリュレと呼ぶに相応な表面がきらきらと輝いて見えたのは気のせいだろうか……。
添えてあるクリームの中にバニラアイスが入っている。
これだけでも一品として出せる程に美味しく、フレンチトーストは
(これ、ホントにパンから作っているのか……!?)
という程に中はトロリとしていた。
もう一段は生パウンドケーキというものらしくしっとりとしている。
オレンジショコラやイチゴが乗っていたからだろうか。少し早めのバレンタインチョコを味わっているように思えた。
この4粒の宝石のようなケーキだけで、どうして私はこんなに幸福になれるのだろうか。
あるいは、幸福とは日常に転がっていて…小難しく考えずとも案外容易に掴めるものなのだろうか。
お会計を済ませて、駅へと引き返す。
当時の私は、帰る道で何を考えていただろうか。ただその時思い描いていた
『自分で稼いだお金で、またここに来よう』
という夢は、どうやら叶ったようである。
執筆 むぎすけ様
投稿 顯
©DIGITAL butter/EUREKA project
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