新宿ルミネ RITHEL
横浜喫茶あなたこなた
番外編
【RITHEL】(新宿ルミネ)
うららかな秋の日。私は珍しく流行りの場所に出かける準備をしていた。
小さなパールが曲線状に並ぶ、今流行りの型のカチューシャを頭に装着した後に香り物の小さなスプレーボトルを手繰り寄せる。
前の日に、いいお値段のする香水のテスターを取り寄せたのだ。
高級なものがとても似合うであろう新宿という地に足を踏み入れるからか……折角なので小さなスプレーボトル(アトマイザーというらしい)を携えて向かう。
向かう先は新大久保。
韓国アイドルよりチーズボールやチキンに慣れ親しむ色気より食い気な人間だが向こうにしかないサンリオグッズを見るためにたまにQoo10の通販にお世話になっている。
昨今の韓国ブームとは全く無縁という訳ではないしコロナが収束したらこの東京のアジアン・ストリートに足を踏み入れようと決心していた。
実行に移すため、ついに新宿行きの電車に乗る。
だが、その前に腹ごしらえをしたかった。
如何せん、目的地は情報番組の流行ニュースでは毎回のように名前があがる地。
何も準備なく行こうものなら何にもありつけないのは明白だった。
小田急線に揺られること40分余り。
着いてすぐ抱いた感想は……恐らく同じ経験をした方も多いと信じたいが『どっちの出口に降りれば正解なのか?』。
小田急線で新宿駅に行くと両方のドアが開く上、方向によって何番出口に辿り着くかが変わるために、私の場合は駅員さんを探すところから始まる。
どうにか目的の改札口に辿り着き、ルミネ新宿へ向かう。
途中間違えて2号館に入ろうとして入り口の看板に引き戻されて本館へ……例えば、同じ新宿駅のマルイでも『マルイ アネックス』や男性用のモノなら『マルイ メン』まであるのだからこの地ではGoogleマップの恩恵を受けることとなる。
ルミネの中も、新宿駅に直通の改札口に続いていた。
電車に揺られて待ち合わせに使うことを見越しているのだろう……改札の向かいに目的のカフェが摺り硝子越しに待ち構えていた。
待つこと10分、入り口のケーキショーケースの上のエッフェル塔を模したオブジェに見送られて奥の席へと向かう。
美しい薄青色(今ではティファニーブルーというらしい)のソファに案内された私は瀟洒な店内に見惚れていた。
不思議と店内に入ってから上(にあるはず)の線路が車輪に軋む音が全く聞こえない。
恐らく防音設備を整えているのだろう。
その日私が頼んだのはランチセットで、わざわざこの店を訪れたのにも理由があった。
オーダーしてからしばらく、食事より先に出されたアイスティーの水色はさながら琥珀の水のようで。
(飲む宝石だ……!!)
とちょっとずつ啜る。
デパートで見かけるマリアージュ・フレールの茶葉を使っているようで瞬時にここが日本の新宿駅というのを忘れた。
(パリのメトロの近くのカフェって、こんな感じなのかな……)
桃と花の香いに癒されていた。
食前のサラダも酢のドレッシングが美味しかった。
これだけで電車に40分揺られた甲斐があった……と内心密かに頷いていた。
すぐ、食事が運ばれてきたがそのバゲットサンドを見てしばらく手を付けずに見ていた。
(半切れだけでも食べ応えありそうだな……)
肉厚のハムとチーズを挟み、バターを塗っただけのシンプル好きのフランス人が編み出したバゲットのサンドイッチ。
ジャンボンブールと名付けられたそれにかぶりつく。
(ソースやドレッシングなしでも、素材の味がこんなにおいしいとは!)
ヘルシー志向、と言うには脂っこいもの好きな舌の持ち主である。
証拠に、月に一回必ず「マックのポテトが食べたい」とボヤいているのだから。
だが。
チーズやハム、バターと言った素材自体我々が普段食べているものとは少し違うのだろうか。
それぞれが濃厚で、塩気や厚みが違う中でもバゲットの中でそれぞれ均衡を取りつつ小麦の味と調和していた。
その昔。スーパーでバゲットやKiriクリームチーズ、ハムを買ってきて(ハムは奮発して鎌倉ハムにした)ジャンボンブールを作った事があった。
それも勿論美味しかったが、この時私は
(こ、これが本モノ……!)
と目を見開いていた。
サンドイッチの付け合わせのピクルスも美味しかった。元々漬物好きの私は
(帰ったら、ピクルスの作り方調べてみようかな……)
と思いながらつまんでいた。
最後、デザートについてきたケーキはこのカフェが伊勢丹新宿で開いているパン屋の苺とピスタチオのパンがモチーフになっているらしく苺の赤とピスタチオの緑のコントラストが美しいケーキだった。味も美味しかったので
(また新宿に来ることがあれば、伊勢丹も寄ろうかな……)
とお会計の列に並ぶ途中考えた。
「山手線」と書かれた黄緑の看板を探し、それを頼りにホームへ辿り着く。
内回りなのを確認してホームに着いた電車に飛び乗った。
念願だった未踏の地に心を躍らせて見る空は、秋晴れだった。
執筆 むぎすけ様
投稿 顯
©DIGITAL butter/EUREKA project
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