ぼくの大切なともだち

 ぼくは、雪景色が広がる北海道の田舎で育った。この景色が、ぼくのお気に入りで、いまも写真をとってはそれをながめるのがしゅみだ。
 週に一回は、15分くらい歩いて、おばあちゃんの様子を見に行く。
おばあちゃんはもう90歳でひとりでしっかりしているけど、ちょっと忘れっぽくなってる部分もある。
 そんなおばあちゃんでも、ふと昔のことを思い出し
「あ~まこと、昔、まことはよく公園で友達と遊んでいたね」
と、まことが小さかったときのことも思い出すことがある。
 北海道の冬は寒くて、雪もすごく分厚く積もる。雪かきをする。僕らの地方では雪かきのことを雪はみという。
 もちろん、雪が降っていない時期の、草が生い茂っている北海道の景色もぼくは気に入っている。どちらの季節も写真におさめるのがしゅみだ。
 
 ある日、砂場のある公園で、ぼくくらいの知らないおじさんが声をかけてきた。
「久しぶりだね。ぼくのこと覚えてるかい?」
ぼくは、思い出せなかったので、首をかしげて、
「う~ん、誰だろう?」
と返事をした。
「思い出せないみたいだね。じゃあさ、とりあえず僕と遊ばない?」
その知らないおじさんは、砂場を指さしながらこちらを見て、ニコニコ笑った。
砂場には、木の枝で線路が置かれてあり、砂場の中央には大きな山がある。そこにはトンネルもあって、トンネルの向こうから、ガタンゴトンガタンゴトンと電車が走ってきた。
 「すごいね、電車が走ってくるよ。」
とぼくは、知らないおじさんに話しかけた。
「うん。君は電車が大好きだったよね」
と、こちらを向いて話かけたおじさんは、昔見たことのある表情を見せた。
「あれ、あなたはだれなのか思い出せそう・・・」
砂場、電車、木の枝、、、ニコニコ笑ったその表情、ピーンとそのときひらめき、
「もしかして、けいたくん?」
とそのおじさんに呼びかけた。
「やっと思い出してくれたんだ。ぼくのこと。無理はないか、もう君と離れて35年は経つもんな。」
 
35年前、ぼくは幼稚園の年長だった。
「カーン、カーン、カーン」
線路の近くで、電車が通る踏切の音だ。いまでこそ、きかいのでんし音だけど昔は鐘がついていた。だからそんな音がしたのだ。
「お父さん!電車またきたよ~!」
と指さしながらぼくはいう。
「まこと、あんまり近づくと危ないぞ~」
とお父さんは、まことを追いかけながら叫んだ。
「ぼくさ、このカーンカーンカーンていう音がだ~いすき!」
と、手を大きくひろげてお父さんに向かって言った。
「だって、この音、良い音だし、なんていってもぼくの大好きな電車が来る合図なんだ。」
といって、まことはうれしそうに話した。
「まことは、電車が大好きなんだな」
 
ようちえんの年長だった、まことにはともだちがいた。
名前はけいたくん。けいたくんとまことはいつも公園で遊んでいた。
「けいたくん、今日も公園であそぼう~!」
とにこにこ笑って、まことを遊びに誘ってきた。
「いいよ~」
とおててをつないで、公園まできた。
 
最初はブランコにのって、どっちが早くブランコをこげるか競争したり、たちのりしてあそんでいた。鉄棒では、逆上がりをしたり、前回りをしたりして遊んだ。ぼくはあまり逆上がりが得意じゃなかったけど、けいたくんは何回も逆上がりをしてみせた。そのあと、滑り台でビューンといいながら、滑った。あとは土を泥団子にしてみたり、他の子たちもいれて、缶蹴りをした。最後に、けいたくんとふたりで砂場で山を作って砂場あそびをしていた。
 
「ぼく、電車がすきなんだ。ガタンゴトン、ガタンゴトン、出発進行~!」
とまことはけいたにいうと、
「そうなんだ~ぼくも電車すきだよ~近くで見る電車はかっこいいよね~」
「うんうん、迫力があって、圧倒される~」
「あ!いいこと考えた!この砂場で線路つくってみない?」
「いいね!うまいことできるかな~」
といって、2人とも夕方になってもどうやって線路をつくるか
思い浮かばずに時間が経った。
線路の線をかいてみたけど、なっとくがいかずにまことは線路の線を消してしまった。
「せっかくかいたのに、なんで消すんだよー」
「だって気に入らないんだもん、こんなの線路じゃない」
ぶつくさいいながら、まことは、泣き出した。
「しっく、しっく、なかなかうまくできなくてくやしいよ~」
気に入ったものができないと、気にくわなかったのだろう。
「まーくん、泣くなよ、男の子だろ」
と、けいたはまことの頭をなでながら言った。
「ぼくが、ちゃんとした線路をつくってやるからさ。これは、男の約束だ」
と夕日に向かいながらふたりはゆびきりげんまんをした。
「嘘ついたら、はりせんぼんのます!ゆびきった!」
その日は、ふたりともいい線路を作れなかったが、もう夕日も沈みかけていたころだったので、おうちに帰ることにした。
 
しかし、次の日も、その次もけいたは公園にくることはなかった。
 
そして、幼稚園のときに、その約束は守られることはなかった。
 
卒園前に、けいたくんは遠いところに引っ越してしまった。
「けいたくんのうそつき!いい線路つくるって、約束したじゃないか!」
 
「仕方ないだろう。けいたくんのお父さんが転勤で、家族みんな引っ越さないといけなくなったんだ」
ぼくは泣きながら言った。でもほんとうは、けいたくんが、いなくなってさみしかったから、ぼくは約束を守れなかったことをけいたくんを責める気持ちではなくて、けいたくんと遊べなくなったことがとても悲しかった。
 それからも、ぼくは地元に残って、線路がある風景が好きで、どんな季節も、この風景を写真に撮っていた。
最近、インターネットの友達ができた。その子の名前は、けいこ。
けいたくんのけいとおなじ、けいがついてる。けいこさんは、ぼくとおなじゲームが好きで、けいこさんとはゲームの話をしたり、同じゲームをする友達だ。
けいこさんと話していると、ふとけいたくんのことを思い出すことがある。
 それは、けいたくんと遊ぶときの自分の感情が、けいこさんと遊ぶときの自分の感情に似ているからかもしれない。
 
けいこさんは、自分の作ったキャラクターになりきるのがとてもうまい。途中でゲームのキャラクターになりきり、セリフを言ったりするんだ。そんなけいこさんのおちゃめなところが楽しかった。
けいたくんも、思い出せないけど遊んでるとそういうおちゃめなところがあったように思う。この2人はどこか似ている。それでけいたくんのことを思い出すようになったのだ。
 
そしたらある日の夜、夢にけいたくんが出てきた。
 「思い出したよ。けいたくん、約束を守ってくれたんだね」
とぼくは泣きながら言った。
「ありがとう、また会えてうれしいよ」
とぼくたちは、ハグをした。
「うん、ぼくずっと、まーくんとの約束覚えてて、そしたら、まーくんの夢の中に入れたんだ」
 
そうすると、そのときけいこさんに似た小さい妖精が夢の中に現れた。
「けいこさん!」
とぼくは驚き、後ろにのけぞった。
「あら、失礼ね、わたしはけいこじゃないわ、わたしの名前は、クリスティー」
といいながら、ハタハタ、宙を舞っている。
「わたしはね、あなたたち両方の隠れた願いを叶えにこの夢を再現させる魔法をかけたのよ」
どうやら、ぼくは卒園前にいなくなったけいたくんのことを悲しんでいたが、けいたくん自身もぼくとの約束を守れずに引っ越してしまったことが心残りのようだったみたいで。
「そうなんだね、クリスティーはそんな魔法が使えるんだね」
「ええ、あなたたちの願いが隠れた願いがとても強かったからよ。」
と一回転しながら言った。
「隠れた願い?」
「ええ、もう昔のことだから忘れてしまっても無理はないのだけど、
潜在的に埋もれてしまってもそれは心の奥深くで刻まれてしまっているの」
「そうなんだ、ぼくたちは同じように願ってたんだね」
「そうなの。双方がこうしたいと願うとき、わたしたち、妖精はそれを叶えるのよ」
「そうなんだ、ありがとうけいこさん、いやクリスティー」
そういうとクリスティーは回って
「えへへ、お安い御用よ」
と照れた。
「そしてね、2人にプレゼントよ。砂場のほうを見てて」
そしたら、線路の上を電車が走っている。登りと下りの電車が走っていて、それぞれがすれ違っている。ふたりは声を合わせて、
「うわ~すごーい」
と言った。
「ほんとに、会いに来てくれて、素敵な線路をつくってくれて、ありがとう!」
とまことはいいながら、涙を流した。
 
それから、もう夢は見なくなったが、この夢の出会いでわかったことがひとつある。
過去に、別れてしまった友達でも、また出会うことがあるということだ。
それはどんな形であれ、心の中に深く刻まれている。
だから、離れてしまった友達でも、別れがあった友達でも、別れをずっと悲しむことはないんだ。
 いつかきっとその友達と出会うことがある。いっとき別れたとしても友達だったことは思い出として残っている。ぼくは、この出会いや夢で、友達の本当の大切さを知った気がした。
 それは、友達だけのことじゃないと思うんだ。家族だったり、恋人だったり、大切な物だったり、すべてにおいて、ぼくはそう思うことがある。別れがやってきても、恐れることはない。心の中にその人や、その物は、ぼくの心の中にずっと残っていて、いつもぼくを助けている。支えてくれてるんだとそうおもうんだ。
 だから、みんなもいっときは別れを悲しんでも、ずっと悲しむことはないんだ。出会ったことに、意味があって、これからの人生たくさんの人と出会って、大切な思い出をたくさん作っていってほしい。

  • 執筆 またななみ

  • ©DIGITAL butter/EUREKA project

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