昼下がりは階段を下りて 事業所周辺さんぽ道
横浜喫茶あなたこなた
番外編
【昼下がりは階段を下りて ~事業所周辺さんぽ道~】
DACは作業所の昼休み、周辺への外出を許可しているのもあり私はその時間になると弁当を食べ終えるや否や通所カバンの中に入れたトートバッグにスマホや財布を詰め込み、
「失礼します」
と(そこまでしなくていいのに)足音を忍ばせてビルの階段を下りる。
DAC横浜は、位置的にはみなとみらいと馬車道の間に位置しており馬車道商店街から行くと関内駅にもすぐ辿り着ける。
近くには歴史的建造物も厳然とそびえ立つそばでDACのある弁天通り周辺はちょっと歩けば飲み屋や古本屋がある、もの錆びた下町の風情も共存する地である。
晴れた昼休みに外に出る、という習慣が始まったのはちょうど一年前の今頃だったと思う。
通所し始めて一ヶ月余り。
まだ慣れたとは言い難かったがとりあえずひと月まともに来られたので胸をなで下ろして生まれて初めて働いた成果…つまり工賃というのを受け取った日の事である。
当時は作業所のルールというのを飲み込んでいなかったので15時に帰りのタイムカードを切るまで一歩も出なかった。
だからだろうか。
今となっては懐かしい笑い話だが…ちょっとだけ、外の世界と隔絶されているような感覚を味わっていたのだ。
その日はちょっと気温が高かったのでペットボトルのお茶が昼休みに切れた。
財布を見つめてしばらく悩んだが…意を決して手に取り(この時はトートバッグも持って来てなかった)街へと飛び出した。
広がっていたのは、どこにでもある平和な昼下がりのオフィス街の光景である。
DACの下の階にあるレストランの店先では簡易テーブルが広げられ、店員のお姉さんがお弁当を売っていた。
馬車道駅出口近くのローソンへ向かう途中にお蕎麦屋さんがあった。
朝行く途中には勿論閉まっていたその場所もスーツ姿のサラリーマンやOLさんが並び携帯で仕事の電話をかけていると思しきおじさんも、当たり前ながらいたのだ。
この光景に、何故かとてもホッとした。
飲み物を買い、せっかくなので反対側の道を歩く。
細い幹の街路樹が背の高い葉で車道を覆う、古い街灯の立つ商店街だった。
テナントも綺麗な看板のお店が多かったが…その中にも、ドラッグストアやコンビニなどが入っていて、
(この辺にも普通に生活している人はいるんだよなぁ……)
と今更ながら思った。
作業している時にも、窓の向こうにはそんな光景が広がっているのだろう。
深呼吸し、改めて先月から始まった日常に思いを馳せた。
元々、みなとみらいや元町が好きでここに来る前も自分から散歩しに行っていた程でDAC横浜の住所を聞いた時は内心ガッツポーズをした。
この町の景色を、ゆくゆく通所日数を増やしていければ毎日見る事もかなうのだ。
(一ヶ月の間、楽しい事ばかりではなかったけれど。…もうちょっと頑張ってみるか)
そう思い、引き返した。
一年経った今でも、工賃を受け取った日の昼休みにはその日の事を時々思い出す。
いつか…今ここに通っているこの日常も懐かしむ日が来るのだろうか。
個人的には、それはもう少しの間“まだまだ先に取っておくモノ”であってほしいと思う。
執筆 むぎすけ様
投稿 春原スカーレット柊顯
©DIGITAL butter/EUREKA project
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