馬車道ランチ小話 都市の隠れ家にて
横浜喫茶あなたこなた 番外編
【馬車道ランチ小話 ~都市の隠れ家にて~】
いつもはカフェ巡りというテーマの都合上、休日や作業所の帰りの話に限定されるが今日はちょっと趣向を変えて“作業所の日の昼休み”の話をしたい。
DACがある馬車道駅周辺(足を伸ばせば関内、桜木町駅も入ってくるだろうが)はオフィス街という事もあり飲食店は勿論の事、菓子折りに良さそうなチョコレート店や和菓子店が街灯の並ぶ並木道に軒を連ねている。
要所に車を引く馬を象ったマークが点在し、東京のオフィス街にもなかなか無いモダンな街並みの中に溶け込んでいる。
DAC横浜は、昼休憩に外出する事が許可されている。
作業所の中でも食事は出るが食べるか否かは任意なので、私は自宅で朝に弁当を作りそれを持ち込んでいる(だがここ最近、なかなか5時半に起きられず母に作ってもらっている始末である…)。
【小話① どんぶり屋(馬車道)】
今回の本題は、たまにある弁当を持ってきてない日のふたつの話である。
「馬車道という土地柄、外食となると1000円以上持って行かなきゃならないんじゃない?」
と疑問をお持ちの方もいるかも知れない。
事実、私もそう思い込んでいて弁当を買う時などは作業所近くのコンビニのお世話になっていた。
だが、ある時の昼休みに外を出歩いてみると作業所向かいの通りの一角に明らかにチェーン店ではないお弁当屋さんがあった。
朝にDACへ向かう時に気づかなかったのは無理もない。その弁当屋さんは朝十一時に開店するのでその時間はシャッターが閉まっているのだから。
如何にも“街のお弁当屋さん”という店構えで、店の窓から覗く店内には向日葵のクロスがかかったテーブルやお店の人手作りのPOPが見えた。
初めてそのお弁当屋さんのお世話になったのは、それから数週間後だった。
スマホや財布の入った布のトートバッグを提げて(通所時のカバンに畳んで忍ばせているのだ)その店に乗り込んだ時に店の中に広がる心地いい木の香りと芸能人がペットボトルのお茶を持って笑っているポスターが貼られた店内を見て限りないノスタルジーに襲われた。
私が小学生の頃だったら何処にでもあった、街のお弁当屋さんである。
それが、この一歩外に出ればビルの摩天楼が広がるこの街に佇んでいるというのか。
この辺で作業していたと思しきニッカズボンの兄ちゃんやサラリーマンのおじさん、
小さいランチトートを提げた若いOLさんに紛れて弁当を選ぶ。
まず驚いたのは量と値段である。
この弁当屋さんはミニ、並み、大盛りの3つのサイズがある。
ご飯の量は勿論おかずも増量されていくのだ。私はミニでも十分お腹一杯になるので『ガーリックたれと唐揚げのお弁当』を手に取り、すぐそばにあったPOPを見た…がすぐさま“ミニ 450円”の文字を二度見した。
ミニとは言え、量的にはコンビニの唐揚げ弁当より少し多いくらいなのである。
なのにこの価格…。
(家の近くのスーパーの弁当より安い…ってコト!?)
一も二も無くレジに持って行き、ちょっと散歩した後作業所へとUターンした。
季節はこの時春。過ごしやすい季節なのもあり馬車道商店街のベンチでは先ほど同じ弁当屋で昼食を買ったと思しきサラリーマンが食事していた。
作業所に戻り、弁当の蓋を開ける。
スタミナ系の弁当なのもあり力が注入されていく感じがした。
(一日の残り半分、頑張るか……)
ブラインド越しの街並みを見て、ノートPCのスイッチを押した。
【小話② FRESHNESS パン工房(馬車道)】
この馬車道周辺というのは、お昼時になるとオフィス等に勤めている人たちがこぞって街道のベンチやお蕎麦屋さんに座り、そして整列して並んでいる。
(本当は人に教えたくないが)休み時間等にボーっとするのに使っている場所がある。
今回紹介させて頂くパン屋の話に出てくるのでその中で話そうと思う。
梅雨に入る直前、5月の馬車道は曇り空だった。
まぁ、お昼を食べ終わる頃にまた晴れるのだが……いずれにせよ外で食事をするには最適な気候だった。
手元には700円。頭に浮かんだのはこの頃気になっているパン屋だった。
フレッシュネス、という名の付いている辺りでお分かりになっている方もいるだろうが有名バーガーチェーンが系列で展開している店舗だった。
店内に入ると、檸檬色の窓格子が見守る木製の陳列棚があたたかい空間があった。
パンを選ぶ。“横濱馬車道カレーパン”というお土産にもよさそうなパンから“コーンマヨパン”…と言った懐かしいラインナップまであった。
私がトレーに運んだのは、目玉焼きパンと塩あんバターのパン。
元々お菓子でも食事の時でも卵が好きな私である。それと、あるジブリ映画を思い出して一も二も無くトレーに乗っけてしまった……。
塩あんバターにおいても、元々バター味のお菓子などが好きなもので(かじるバターアイスの新作が出ると必ずチェックする人間である)即決でトングを伸ばしてお会計した。
その後セブンでコーヒーと小さいサラダを購入して“ある場所”へと向かった。
馬車道駅から行くとエスカレーターで2番出口からエスカレーターで直結している『北仲ブリック&ホワイト』という名の瀟洒な商業ビル。
通りには有名フルーツパーラーのカフェやビルボードの運営するライブハウスの看板が並んでいる。
奥へと抜けてエスカレーターを上ると、みなとみらいを一望できる展望デッキがありワールドポーターズやコスモワールドのとりどりの観覧車、そしてランドマークタワーを眺めながら持ってきた弁当や近くのデッキに店舗を構えるローソンのLチキを食している人たちがもう居たのだ。
(クリスマスや冬の夜にここに来たら、さぞかし綺麗だろうなぁ)
と、風景を見てふと思う。
もっとも、その時期はこのデッキもカップルシートと化するだろうが。
ランチトート(…といっても、A4が入るほどの普通のトートバッグだが)から先程買ったパン等を取り出し、ハンカチをその下に広げた。
まず手を付けたのは目玉焼きのパン。マヨネーズだと思っていたのはベシャメルソース(グラタンやクリームコロッケの中身などに使われるソース)で、それがまたパンの味に深みを増していた。
目玉焼きの黄身は当然ながら固めだったが、余り半熟に深いこだわりは無いので美味しく頂いた。
缶コーヒーに口を付け、続いてサラダを食す。
この場所へ来る途中も、このビルに『フランスから来た』お洒落なパン屋さんも並んでいた。
勿論、そういう本格派のパンも好きだ。
時々母が東京へ行った時などにそういうお店のクロワッサンを買ってくると手放しで大喜びしている。
しかし、横浜に令和の現代にも残り続けているカタカナの看板や黒胡麻が上にのったあんパン…といったものが並ぶノスタルジックなパン屋さんを見ると、
「これからどれだけ世の中が変わっても、日本の昔ながらのパン屋が残ってほしいな…」
と感じずにはいられない。
さて、残るはあんバターのパンである。
それを一口、かじった時中に挟まっていたバターも勿論だがパンの程よい塩気とさっくりとした食感が口いっぱいに広がったので、
(仕事中のお昼にこんな美味しいものを食べちゃってよかったのか…!?)
とガラにも無く考えてしまった……。
午前中働いたのだから、何も心置きなく食すべきである。
さて。
食事を終えてしばらく、みなとみらいの景色を見ながらiPodで音楽を聴きつつボンヤリとした後作業所に戻る。
都市の片隅、ノートPCを開き作業する午後の仕事の事を考えていながら。
執筆 むぎすけ様
投稿 顯
©DIGITAL butter/EUREKA project
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