第一章4節「建国」
夢小説『スタウロライト 十字石の追憶』
第一章4節「建国」
あの天変地異と、それに続く内戦の結果、旧大陸を支配していた独裁政権「人民共和国」は、急速に崩壊へと向かった。他方、人民共和国への反乱を率いた英傑達は、各地に新国家を建国していった。
東島 東部平原
「…予は今ここに、新しき帝国の開闢を宣言します!」
瑞々しい素肌の上に、薄紫色のフリルを揺らし、金剛石のネックレスを輝かせながら、黄金色の王冠を戴き、玉座から世界に建国を宣する、長身の女性。この時より、東島の「東部帝国」に元首として君臨する事となった、キラヒメ女帝の麗しき姿である。外見の第一印象は、色気のある「お姫様」だが、一旦緩急あれば、戦闘で識属性を使いこなす数少ない人間と言われ、さすがは一国の君主である。彼女の御言葉と共に、私達の祖国である東部帝国の歴史が始まった。他方、北側の内陸部には、別の反乱軍によって「東部民主共和国」が建国され、広大な東部地方は、二つの国に分断された。これらの、東島の国々を総称して「東方連合」と呼ぶ。
西島
同じ頃、温暖な西島では…。
「たった今、キラヒメ様が東島の首都を制圧し、帝位に就いたってニュースが入ったよ! 貧しい弱肉強食の時代は終わり、これからは少女の時代! 応援してくれたファンの皆、これからも私を…スミレちゃんを宜しくねっ!」
西島では、美少女アイドルのスミレが「西方帝国」を築き、その初代首相に就任した。グラビア雑誌などに載っていそうな、菫色のアイドル衣装を着飾ったリーダーの登場は、東島のキラヒメと共に、百花繚乱の新時代を象徴する出来事であった。外交的にも、スミレはキラヒメと仲が良く、西島と東部帝国は、東西で協力し合う共同の国家(二重帝国)を運営する事になった。
南島
東島と西島の歴史が、新時代への希望を胸に始まったのとは対照的に、絶望へと至る不安の暗雲に覆われていたのが…南島であった。
「…一人でも多く、山地に逃げて! 今ならまだ間に合うわ! 次の津波が来る前に、早く!」
4島の中で最も面積が狭く、温かい海に囲まれた南島は、自然に恵まれた海洋国家となるはずだった。しかし…あの天変地異では、その豊かな地形が逆に仇となった。旧大陸分裂に伴う巨大な地震津波が、独立したばかりの南島を襲ったのである。島の南半分が水没・全壊し、僅かな希望だった東島との連絡橋も崩落し、南島は海中に孤立してしまった。その先に、島民達を待ち受けているのは…。
「これで私達は、本当に独りぼっちになってしまった。これから始まるのは…凄惨な内乱に、海賊の跋扈。きっと地獄のような日々が、私達を待ち受けている…ならば、私は…!」
後に「南方共同体」の最高司令官を務める若き女傑、イシモト将軍は、爆風の中で黒い長髪を棚引かせながら、その紅き瞳に映る、眼前の剣と銃を手に取った。
「私は全てを失った、ゼロの存在…でも、だからこそ、何をも恐れずに突き進める。私は今日、この島を護る狩人となりましょう…!」
東島 南東半島
「お母様…!」
「母さん!」
こうして大陸の各地で新時代が始まる頃、東島の南東海岸では、一つの命が終わろうとしていた。
「…悪魔による旧大陸の支配は、ようやく終わった。だが、これは序曲…今後、大いなる混沌が、この世界を覆うであろう。それでも、あなた方ならば…!」
臨終に際してもなお、冷静沈着に娘達を諭す彼女こそが、ヒジリ・イサミ・メグミの母、ミコトである。独裁政権による迫害の中で、旧大陸を生き延びながら、決死の覚悟で3人の娘を産んだ。ミコトの祖先は、遙かなる神国の出身で、古代の預言者とも、中世の魔女とも伝承されている。受難の時代にあって禁欲主義的な純潔を貫いたミコトに、男性との交わりは無かったはずである。しかし、夢の中で一者に「あなたの子は世を救うであろう」と告げられた頃には、ヒジリ・イサミを受胎していた。その数年後には、最期の力でメグミを産み落とした。こうして、地上での人間としての天命を全うしたミコトは、その生涯に幕を閉じようとしていた。
「…唯一の心残りは、メグミに充分な愛を注ぐ時間が無かった事。ヒジリ・イサミ、どうかメグミを大切に育てて欲しい。私にできなかった事を、あなた方の手で…!」
「はい、もちろんです!」
「母さんがやり残した事は、私とヒジリ達で受け継ぐわ!」
「…ありがとう。間も無く私の肉体は、この星に、大地の土へとお還しする事になろう。私に限った事ではないが。だが、これは永遠の別れではない。全ての始まりにして、終わりの一者へと至る道…それは、あなた方の自我に、そう認識にこそ約されている…」
日没と共に、一つの生命が終わる。そして…ミコトが導いた未来は、ヒジリ・イサミ・メグミ達に託された。
それから時が過ぎる中で、旧大陸の分裂が進み、四つの島国が形成されていった。そして、私達の知っている「世界地図」が描かれた。4島の中で最も面積が広い東島(東方連合)は、島内に複数の地方があり、国家も複数存在し、北から順に「同盟」「民主共和国」「帝国」「幕府」などが挙げられる。
こうして、旧大陸の分裂後に出来た国家を全て数えると、北島・南島・西島の3か国と、東島(東方連合)の4か国がある。このうち、東島の「東部帝国」は西島(西方帝国)と連合しているので、合わせて一国として数える。すると、この世界には六つの国家があるという事になる。そして、それらの国々は異なる政治文化を持ち、各々の国旗(イメージカラーなど)を定めて今に至る。
東部台地 貝塚村
そして、現在。
「…これが、私達の母…ミコトお母様の遺影だよ」
仏壇に十字架を置いたような、和洋折衷の不思議な祭具が安置されている。メグミに促されて覗くと、そこには…ヒジリの信仰、イサミの希望、そしてメグミの愛を兼ね備えたような、強く優しい顔が写されていた。その瞳は、まるで今も生きているかのように、像の前の私を鋭く見返している。
ある日の自宅。メグミが私に、今は亡きミコトという人物の事を話してくれた。話を聴く限り、普通の人間ではないようだ。そして、そんなミコトの子として生まれ育ったヒジリ・イサミ・メグミも、きっと…。
「私は、母様や姉様達には届かないかも知れないけど、それでも…あなたと一緒に、少しでも天下のお役に立ちたい。そして…天国の母様に、神様に喜んで頂けるような、幸せな世界で、あなたと共に生きたいと願っているよ!」
そう言ってメグミは合掌し、祭具に祈りを捧げる。彼女が信じた未来を、私達が守らねばならない…そう感じる一日だった。そんな事を思っていたら、もう遅い時間。今日もメグミと一緒の寝室で、お揃いの寝具に包まれて、私達は眼を瞑った。
「…はっきり言っておく。私は世の終わりまで、あなた方と共にある…」
第一章4話 解説
✙
自己紹介
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?