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ぼたんの鍋

「ぼたんの鍋」

作者:img_00

 今日は、取材があって同僚と二人、茨城の大洗に向かっている。都心を抜けてインターチェンジから高速に入ると、運転しているぼたんのスイッチが入った。スピードは制限速度いっぱい、ハンドル操作もワンギア上がる。今、使っている軽ワゴンは、3年間で走行距離は10万キロオーバー、かなりのポンコツ・・・。そして、1時間ほどで、渋滞もなくすぐに大洗の漁港に到着した。

 同乗してきた、撮影担当の新井さんが写真を何枚か撮っておきたい、と言ったので、車を駐車場に止めて、少し散策した。漁協に取材のアポをとっていた時間になったので、取材を開始する。まずは、取材のお礼を言って、新井さんが適当に写真を撮り始める。「西のトラフグ、東のアンコウ」、今回はそのアンコウの取材に来た。漁師さんたちにお願いして、”肝を解いて味噌仕立てにする味付け”と”あっさりしたしょうゆ仕立て”の2通り作ってもらうことになっている。アンコウを発泡スチロールの箱から出すと、フックに吊るして解体が始まり、新井さんは写真を適当に撮り、ぼたんは動画を撮っている。実に手際が良く、10分くらいで2匹の大きなアンコウが鍋の具になった。大きな鍋でアンコウ鍋を作り始めると・・・。実はぼたんは、かなりの鍋奉行っぷりで、自分で作れるように、かなり細かなことまでメモしている。アンコウ鍋をみんなで囲み、記事のヒントになりそうなことをざっくばらんに聞いていく。家族の話や、最近の漁の事とか、そんなたわいもない会話が続いた。

 この後、地元の市場に行ってアンコウ鍋の材料を買って帰る予定でいる。市場につくと、解体済みのアンコウを2パック、野菜とか味噌とか、適当に買って車のクーラーボックスに放り込む。そして今、東京の事務所に向かって高速を走っている。ちょうど、お昼ごろなので準備の時間を考えても、夕飯にアンコウ鍋をみんなで食べられそうだ。ぼたん達は東日本地域振興観光局農業課という部署に所属していて、お米をみんなに食べてもらうように日々奮闘している。本来の目的は、取材の情報共有となっているが、ほぼ食事会、おすすめの新米を食べるのが暗黙のルールだ。

 事務所につくと、出張費を清算した後、さっそく準備に取り掛かる。給湯室の電気炊飯器にお米を入れて、野菜を切る、アンコウは解体済みのパックを買ってきたのでそのまま。畳スペースにテーブルと鍋を2つ、味噌仕立て、しょうゆ仕立ての準備をする。夕方になったので、課長の吉田さん、撮影担当の新井さん、広報担当の斎藤さん、経理担当の高橋さんが集まった。鍋を囲んで、今日の取材の感想とか、話していると割烹着を着たぼたんが、ご飯の入ったおひつを持ってきた。ぼたんは企画担当、このシーズンだけ鍋奉行をやっている。不満があるとしたら、なぜガスコンロじゃない・・・、と思っているが火気厳禁なので、IHコンロを使うしかない。口には出さないが、本当は土鍋を使いたいといつも思っている。しばらくして、鍋から湯気上がり、いい匂いがする。お茶碗を片手に、アンコウ鍋を食べ始める。食べてみると、アンコウの身はほろほろと崩れる感じ、魚にしては独特の柔らかさがある。

 食べ終わったので、具体的な掲載内容について話し合いが始まった。広報担当の斎藤さんから使う写真について、いくつか提案があった。漁港の写真、吊るし切り、鍋、おばちゃんかおじちゃんの写真を使いたいとの事。実際にホームページを作るのは斎藤さんが兼務しているので、それに合わせてストーリーを構成することになった。ぼたんは、今日の取材のメモを見ながら記事について少し考えている。何か思いついたのか、どこかへ行ってしまった。しばらくすると、長ネギとゆでうどんを持ってきた。どうやら、締めのうどんが食べたくなったらしい。そんな、ぼたんはほっといて話が進む。

 まずは、風土とか文化的な背景。それに絡めて、アンコウ鍋の話を入れて。後、何かひとひねり、欲しいかな。やっぱり、ご飯について少し入れないと。でも、なんかわざとらしくない? との意見が出た。終わりのほうに、人物の写真を入れるなら、その人が語るエピソードとか? エピソード入れるなら、アンコウ鍋を作った人とか? その辺は微妙な感じ? そこを強調して魅力的な記事にできそうかな。大まかに、ストーリーの方向性は決まったが、記事を書く本人のぼたんがまるっきり、話を聞いてない。

 明日、出勤したらお小言いって、しっかり書かせようと所長の吉田さんは思った。




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