バーチャル治験ライバーログ



※このレポートは、研究プロジェクト担当者から許可を得て書いております。
※テーマがテーマ故に、少し重めの話題が飛び交います。気分が悪くなる可能性があるので、無理して読まないようにしてください。
※また、個人情報を守るために、実際の治験参加日や担当医の名前、実施した機関の名前は伏せさせて頂きます。ご了承ください。


はじめに

どうも。バーチャルクソ田舎在住、DigitalArtCenter等でクリエイター活動をさせて頂いてる、鮭泥まぐまです。
2021年11月から配信活動を再開予定ですが、なんとか生きてます。


僕は精神疾患・うつ病を患っており、去年あたりから心療内科クリニックに通院している。僕の場合は運良く早い段階で素敵な先生に巡り合うことができたので、親や友人よりも相談や症状について伝えることが出来、実際数年前よりも安定しているのではないか?と思うほどだ。(それでも気分に波がめちゃくちゃあるので、それを改善するために通院している。)

本当は僕が精神疾患を患っていることとか、通院治療中の身であることは公表しないつもりではあったものの、やっぱりこの立場だからこそ伝えられることもあるのではないか?と思い、公表させて頂くことにした。配信しているときは大体元気なので、心配しないでネ!


話を戻すと、心や精神の疾患は目に見える外傷よりも治りづらい上に分かりにくく、「これさえ今すぐにでも飲めばもう完全に治ります!」というものは無い。僕だってぶっちゃけ早く世の中で言う正常で健全なカタチになりたいけれども、それにヤキモキしているのは、当事者である僕達精神患者だけでなく、治療をする側である医師たちも同じだ。

そんな中、とある月のクリニック通所日に、担当医からヒアリングの最中に「治験に参加してみませんか?」と誘われたのだった。


【治験(ちけん、Clinical trial)とは、医薬品もしくは医療機器の製造販売に関して、医薬品医療機器等方上の承認を得るために行われる臨床実験のことである。元々は、「治療の臨床試験」の略であるという。(Wikipediaより引用)】

今回の場合、これまでの研究では、「うつ病は脳の一時的な機能不調で起こることが分かってきた」が、今後「抗うつ薬が効きやすいかどうかを事前に判別する方法」や、「うつ病か双極性障害かを客観的に判別する方法」、「抗うつ薬が効きにくい人に効果がある方法」を明らかにするために、治験参加者を募集しているということだった。

僕はその場で二つ返事でオーケーを出した。

その理由というのも、僕が治験に参加することで、今後僕の知らないどこかのうつ病患者や双極性障害患者のもつ疾患を改善できるかもしれない。役に立てるかもしれない!という考えからだったけれども、後悔はなかった。人によっては偽善とか言うかもしれないけれど、平常時から自己肯定感が低い僕にとっては、何か誰かの為になるということは僕の為でもある。と思ったからだった。

早速と言わんばかりに、その日のヒアリングが終わったあとに、治験の研究担当者である先生との面談が始まった。


面談と言っても当日の流れの説明、それと大量のアンケートだった。寧ろアンケートがメインだった。

当日の流れは、朝に現地に集合して採血。次にMRIを使っての脳の撮影が大体一時間。その後にアンケートを答えて終了。というもの。

生まれてこの方病院に入院だとか、精密検査だとかをしたことがない人間だったので、この時点で(自分でもおかしいと思うが)めちゃくちゃ楽しみになってしまっていた。どうも、精密検査初見です。


大量のアンケートの内容はというと、

『貴方はここ2ヶ月の間に気分が落ち込んで外に出られないときがありましたか?』

とか、

『今まで生きてきた中で、強烈な死にたい感情や、また行動に起こしてしまったことはありますか?』

といった、指定した期間の中でどう思った?どんな状態になった?というものが多く、基本的にはYES/Noで返答するものだったけれども、場合によっては詳細も話した。

僕はあまり意識したことが無かったしそれが普通だと思いこんでいたけれども、どうやら他の人は頻繁に希死念慮が訪れたり、自己否定に苛まれて鬱屈としてしまうことは無いらしい。
アンケートに答えていく中で、アンケートをメモしていた研究担当者の先生に「だいぶお辛いですね」と言われた事で、改めて実感したような気がする。思わずマスクの下で苦笑してしまった。

「そうか、自分って辛いんだ。」と自覚した。苦しい死にたいと何度も苦しみ泣き喚いたことはあっても、他人から見たら「そうでもない」ものだと思いこんでいたのだったが、実際はその道の研究者から見ても「辛い」ものだったのだ。

まだ治験の本番にすら入っていないのに、まざまざと思い知らされた。

また、この治験に関する説明書も受け取った。
研究目的内容が記載されている欄に、「うつ病は個人的にも社会的にも非常に負担の大きな疾患であり───」とあり、そんなものを抱えている自分に驚いてしまった。やっぱり医師の目線からしても負担は大きなモノなのである。だからこそ、医師や研究者たちは無くしてあげたい/楽にしてあげたいと思っているのだ。自分が思っているよりもこの疾患をどうにかしたいと思っている人が多くて、感慨深くなってしまった。
それを読んでいるときには既にもう乗り気すぎてわくわくしていた。

その説明書の最後の方に記載されてあったが、『この研究に参加して頂いた場合には、謝礼として拘束時間に応じた謝金をお渡しします』とまで書いてあった。とんでもない。採血してもらってMRIまでさせてもらっているのに謝金まで頂けるとは思っておらず、こちらのほうが何故か申し訳なくなってしまった。


実際、精神疾患関連の治験に関わらず、その他の治験(例えば新薬やジェネリック医薬品、はたまた新製品)でも参加者には謝金だとか、場合によっては海外に渡ってそこで数週間滞在する治験も存在するらしい。言い方が悪いが、『至れり尽くせり』なんて言葉が脳裏をよぎったものの、それほどまでにうつ病患者の思考回路だとか頭の構造は研究に活かせるのだろう。


あとはMRIに関する注意事項を伝えられ、大量のアンケートも渡され、その日は終わった。


帰宅時にアンケートを解いたものの、量が尋常じゃない。中高生のときに受けるアンケートの比じゃない。恐らく複数の研究者さんそれぞれが知りたいものを自由にアンケートとして組んだのか、それともテンプレートが別々になってしまったのか。様式やアンケートの埋め方が異なるものが多く、少し手間取ることがあった。「これ多分元々英文だったのにそのまま翻訳機かけたんだろな」みたいな、ダイレクト翻訳のようなお茶目なアンケートもあった。

いやもう本当に研究者さんもお疲れ様です、という気持ちで一杯になった。最初の方で触れたように、精神疾患は外傷等とは違い、目に見えて成果や悪化がわかりづらい。その上で、「気持ちや経過を知る」為に、例えば裂傷の状態・どのような痛みがするか/どのような経過を経て治るのかを知るために裂傷作るぐらいの感覚で、鬱だ!精神疾患になりました!なんてすぐになって体験できるわけでもない。故に多分めちゃくちゃアンケートやデータが必要なのだ。とにかく、事実に○をしていった。終わったあとに見返して無駄に凹んでしまうのも怖かったので、埋め終わったあとはそのままクリアファイルに押し込んで眠らせたのだった。

その日から何日か経過し、なんだかんだあって治験当日。
前日は結局ワクワクしすぎて寝られずに睡眠導入剤を飲み込んで無理やり寝、早朝五時くらいに起床した。『MRIするのでちゃんと前日は睡眠取ってくださいね〜』と言われてはいたが、まあ流石に一時間弱横になって検査しているだけで、すぐ眠くなるわけ無いでしょう!ガハハ!と思っていたが、これは後々フラグになったのだった。


現地に流石に早く来すぎた(僕は遅刻を酷く恐れるので、予定集合時間よりもめちゃくちゃ早くに来てしまう)ので、うだうだと待っていると、先日説明をしてくださった研究担当医の先生が白衣でやって来、検査室まで案内して頂いた。


昨今の感染症対策や確認として、体温や発熱の確認。

そしてまずは採血。採血管(採った血を入れる容器の名称)大体4本分くらいの血液を採取されました。
今回採血する理由としては、血液を検査し、そこから遺伝子情報を調べるのだとか。

そもそも、うつ病は遺伝子と幼少期の環境、成長してからのストレスが重なり合って脳が変化し、発症するのでは、とされているらしい。また、今回はあまり関係ないかもしれないが、血中鉄分が少ないとうつ状態になりやすいのだとか。僕がよくクリニック担当医さんに鉄分と食事を摂れと怒られるのは、多分そういうことだ。


因みに、血液検査の結果は見せていただくことはできないとのことで少し残念。遺伝子情報というめちゃくちゃ重要かつ大事なものなので、当たり前といえば当たり前なのだけれども。ちょっと残念。


その次はいよいよMRIの出番だった。

そもそもMRIとはなんぞや、という話ですが、「磁気(Magnetic)を共鳴(Resonance)させて画像(Imagine)を撮る」機械のことであり、レントゲン写真とは違い放射線を使うこともないために内部被曝や過度に放射線を浴びる、といったことがないのが利点だとか。
逆に言えば、磁気を共鳴させて画像を映す機械であるために、実施する中でめちゃくちゃ音声が鳴り響いたり(耳栓とヘッドホンを着用するので、過敏な方以外は大丈夫かもしれない)、どうしてもMRI利用が難しい方が出てくるのがデメリットだろうか。

簡単に列挙すると、体に金属や機械を入れてらっしゃる方(ペースメーカー、血管のためのクリップ)や、金属のついた衣類やラメ入りの化粧品、寒い季節だとヒートテックも。少し怖い話をすると、MRIでの死亡事故は大半が金属類の持ち込みが原因だったりするので、もし今後MRIを利用するかもしれない方は注意事項を熟読し実施するのをおすすめだ。僕との約束だぞ。

今回僕がMRIを用いて実施した実験は二種類。
一つは、安静時の脳味噌を撮影するもの。
白い画面の中心に十字が表示されているものが映され、その十字を十分間見つめ続けるもの。目をなるだけ十字に集中させなければならず、十分が終わったあとは集中度具合や眠気に関する軽いアンケートを受ける。

二つ目は、脳味噌の動きを動画として撮影するもの。こちらは目を閉じても可能なものの、先程の倍の二十分間で頭を動かしてはならない。

簡単に表すと、
十字の実験→軽いアンケート→二十分間動画撮影→十字実験→軽いアンケート

が実施内容だった。てっきり僕は一時間で一種類の実験をやるものだと思っていたので、「思ったよりめちゃくちゃ色々するんだ…でもそれなら眠くなるのは無いのでは?楽勝では?」と楽観視していた。


楽観視していた。


金属探知機で金属製品の最終確認をした後に、いよいよMRIとご対面。物言わぬMRIは当たり前だが映画やドラマと遜色なく想像したままの姿でそこに鎮座していた。

耳栓とヘッドホンを装着し、手術なんかで使いそうな紙のヘアキャップを被せる。
MRIの頭固定位置に頭を入れるのを意識しながら、ベッド部分(?)に横になる。腰辺りに固定用のベルト、左人差し指にクリップ(多分脈拍測るもの)、右手には緊急時のボタンのようなもの(実際は駒込ピペットのゴム部分のようなもの)を持たされる。更に頭は紙キャップの上からテープでも固定、眼前には謎レンズを装着させられる。多分これ他者から見たら凄く仰々しいんだろうななどと呑気に思っていた。肌寒くなってきた時期だからか、モッコモコの毛布を腰からつま先あたりまでかけてもらい、MRI開始の為の準備が整った。

まず一回目の十字を見つめる実験。機械音がヘッドホンと耳栓越しにも分かるということは、実際はもっと鳴り響いているんだなとぼんやり思いながら、十字を見つめた。が、思ったよりも集中ができない。集中ができないことに対して無性に悔しくなって、半ばヤケになって十字を見つめていた。
途中その時点まで鳴り響いていた機械音が急にスン………と止んだので、露骨に動揺していたところ、また別の機械音が鳴り始めたので安心して十字を見つめ直した。なんてことが多分三回くらいあった。

気がついたら終わっており、研究担当者からのアナウンスでアンケートに答える。

「この十分間の集中度はどのくらいでしたか?」
確か僕は「70%は集中し、残りはボヤーっとしていました」と答えた。

ネガティブ度ポジティブ度も聞かれたが、ヤケにはなったもののネガティブにもポジティブにもなっていないので僕の場合は変化ナシ。

その次は長い長い二十分間の脳の動画撮影だった。

「寝ても良い」という大義名分の元、開始直後すぐに目を瞑った。
睡眠導入剤を飲んで無理矢理寝たからなのか、早朝五時に起床したからなのか。完全に意識を手放すことは無かったものの、機械音が逆に眠りを誘って来、うつらうつらと揺れていた。

幼少期に走行中の車内で寝る感覚と似たようなものが、僕を満たした。

僕はストレスからなる睡眠障害を持っており、極端に眠れなくなったり、極端に寝過ぎたりすることが良くあるのだが、多分ここ一ヶ月の間で一番リラックスして横になることができたような気がする。

だからか、だからなのか。あっという間の二十分間だった。故に、二度目の十字の実験が思いの外大変だった。
例えるとするならば、高校の7時限目の数学の授業のような。集中しなきゃいけないのに、強烈な眠気が襲ってくる。MRIの「横になって撮影」する性質上、それ故にリラックスしすぎて眠たい。とにかく眠たいのだ。

ボヤーっとして、ハッとして十字を見て、瞼が落ちて、ピシャッと瞼を自力で(手を使わず)こじ開けての繰り返しだった。

そんな瞼を忙しなくしていると、あっという間に終わり。一度目のときも聞かれたアンケートに答えて終了したのだった。

これで人生初のMRIは終わり。MRI撮影を完走した感想はというと、やっぱりここ最近で最高の睡魔と眠りを得られたからというのもあって、少し欲しくなったというのが正直な感想。しかし、軽く調べると、一台7500万円だそう。本来の用途は医療機器だから当たり前といえば当たり前ではあるけれども。

さあこれで全行程終了!というわけではまだ残っているアンケートをこなす項目が残っていた。

覚えているものだけ列挙すると、『過食や拒食はありますか?』や、『身近な人の死を実際に目にしたことがありますか?』といったもの。より深く踏み込んだもので、研究担当者(精神科医)さん曰く、それぞれの回答にうつ状態か躁状態かの点数があり、その点数次第でどのような状態か分かるのだという。

ちなみに僕はやはりうつだそうで。ソンナー。

恐らくこの治験参加表明を出して治験終了までに、30枚程度のアンケートを実施した。めちゃくちゃ丸つけた。

後日今回MRI撮影をした脳の写真が、クリニック経由で僕に渡されるのだそう。曰く、「今後の改善に役立てて下されば」とのことなので、それも含めて治験なのだろう。

病院のタクシー乗り場で研究担当者に見送られながら、長い半日が終わったのだった。

さて、ここまで僕が『うつ病改善治療のための治験』に参加した記録を書いたがいかがだろうか?


別に無理に治験に参加シロ!だとか訴えるつもりは更々無い。ただ、うつ病当事者も、そうでない人にも読んでもらえたら幸いだなと思いながら書いたので、色んな人から反応もらえたら嬉しいな。

元々、僕がバーチャルライバーになった理由も、『僕自身の経験や目線を活かして、リスナー(こざかな)さんたちを元気にしたい』のが始まりだったりするので、このログ自体も何かの糧になればと思う。


長々とした文章を読んでくれてありがとう。

では、またいつかの記事、ライブ配信で!

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