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ネットミームを歩く 正規分布ミーム編 令和6年6月2日追記

 「平均の時速」という問題がある。「行きは時速60km、帰りは時速40kmで移動した場合、平均の速さはいくらか?」というもので、中学受験などではよく出てくる。小学生から中学生ぐらいだとわかりにくいが、ある程度論理的な思考ができるようになるとどうということもない問題だ。

 移動距離をakmとしておくと、往復の総移動距離は2a、行きにかかる時間はa/60時間、帰りにかかる時間はa/40時間になるので、移動距離を時間で割って、48km/hというのが答えになる。

 変数を設定しても計算の過程で消去されてしまうので距離に関係なく平均の時速は一定となるし、小学生ぐらいではかなり納得しづらいし難しい問題だが、いま考えるとどうということのない概念だ。

 さて、クルマを運転していると無駄に車間距離を詰めてくるドライバーがけっこういる。私の先にもクルマがいて、私を追い抜いたところでそのクルマがボトルネックとなって、結局それよりも先に進むことはできない。車間距離を詰めることによって無駄に事故のリスクを高めるだけで、全体として移動する距離は不変だし、それにかかる時間は大きく変わることがないにも関わらず車間距離を詰める人が多いということは、上述のような「系全体を見て、その統計量的な計算に基づいて考える」ということができない人が多いということを意味している。先行車だったり、信号待ちだったりによって停車させられる時間を考慮すると、トータルで出発地から目的地にかかる時間は、系の微少な領域において前のクルマとの距離を詰めたところで変わらないということが理解できないから、無駄に距離を詰めるのだ。なるほど統計量的な思考というのは特殊技術なのだなあと納得させられた次第である。

 そういうわけで統計学にまた愛着を感じるようになっていたところ、ツイッターで正規分布ミームが流れてきた。平均100、標準偏差15のIQの分布と、それに基づく意思決定の様子を戯画化したもので、上位層と下位層が望ましい選択をする一方で、大多数の平均的な知能の持ち主は誤った選択を行っているという状況を揶揄したものだ。陰謀論を頭から信じる下位層と、歴史や政治経済の現実をよくわきまえる上位層が、外見的には大差なく陰謀論を信じているように同じ決定をしているという状況を描いていて、私はこのミームが好きである。

 コーヒーの飲み方、IQ70以下はブラック、無糖だが、IQ130以上もまたブラック・無糖。大多数の凡人は甘ったるい添加物まみれのものを選好する。

 shiny object syndromeというのは、新しいものになんでも飛びつかないと気が済まない症候群のことらしい。これも、賢者と愚者はべつに見逃してもむしろそれを喜びと感じ、大多数の凡人は乗り遅れまいと必死になる。

 引用されている動画はヒンディー語?かなにかでよく分からないが、標準から外れていると「通貨は変動し、債務ドリブンの経済に立脚している」という真実をよくわきまえ、大多数の凡人は「物々交換に逆戻りしたいのか!」と叫んでいる。

 AIの進歩について、大多数の凡人は「AIは私の目的を奪い去る!私は社会のために一生懸命働かなければならない!すべてがAIに置き換えられたら私になんの価値がある?こんなものいらない!OpenAIは悪!AIは危険!」とPTAみたいなことを言い、上位と下位は「いいね、もっと自由な時間を」。そのとおりだ。


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