20240228_花の髪飾り

今日は昨日の大飲酒のせいでずっと体調が終わっていた。仕事の定時がいつもの倍にも感じられたわ…。

帰ってきてからはSW2.5の幕間を書いて、夜は水曜日のPathfinder。エルフのアーケイニストのオーレルは相変わらず俺の不注意で死にそうになっているけど、いよいよLv8になり4レベル呪文を扱えるようになった。来週までに何を取るのかよくよく考えておこう。


幕間02「花の髪飾り」

「おっさん、起きてるか?」
「…いいや、寝てる」
地下都市ベーメキアは、黒百合亭。夜闇にけだるげな声が吸い込まれる。しばらくの沈黙の後、エルシャールは再び口を開いた。
「明後日、リサイアの誕生日らしい」
「……ほお」
「ほおって、なあ……仲間の誕生日だぜ?」
「贈り物か」
「ああ、あんたなら女性に贈って喜ばれる品くらい分かるだろ?」
「うーむ、そりゃ分からんでもないが…。相手はあのリサイアで、ここは地下ときた。お眼鏡に叶うような品物は売っているかな……」
タジオはベッドに寝転がり、瞼を閉じて思案する。エルシャールはベッドから身を起こし、それ来たとばかりに口を挟む。
「それならこないだアギアスと街に出た時に良い店を教えてもらったんだ」
「なんだ、あてはあるのか。それなら明日行ってみるか」
「そうこなくちゃ!」

ベーメキアは昼とされる時間であれば、地上と変わらないくらいの陽光が照っている。とはいえ、太陽を模した灯台の高さは十分ではなく、街の外周部に行けば影が長く伸びる。エルシャールが案内した店はそんな街外れの暗がりにあった。店の扉はやや小さく、据え付けられた小窓からは薄暗い店内に吊るされたランタンが見えるだけだ。扉を開けると店内には埃っぽい空気が淀んでいる。
「本当にここなのか…?」
物怖じするエルシャールを脇目に、タジオは身を屈めてするりとその扉をくぐった。店内はそこまで狭くはないが、精緻な工芸品が所狭しと陳列されていた。
「お客さんなんて珍しいわね」
店の奥からしゃがれた声がかけられる。カウンターの奥まった位置に作業台が置かれ、そこに備えられた大きな拡大鏡の前にドワーフの女性が座ってこちらを見ていた。
「いらっしゃい。少し狭いだろうけど、ゆっくり見ていって」
工芸品の細工は見事なものだ。だが冒険者が人口の半分を占めるベーメキアにおいて、こういった装飾品の需要は少ないのかもしれない。タジオは幾何学的な意匠の施された腕輪を手に取る。
「これは全部貴女が創ったのか?」
「ええ、もちろん」
店内に並べられている工芸品は金属や鉱石、木製など素材は様々で、そのどれもが職人の腕の良さを表していた。もしグランゼールで店を構えれば多いに繁盛することだろう。

エルシャールはたっぷりと時間をかけ、やがてその中の一つを手に取った。
「なあ、おっさん。こういうのはどうかな?」
「やっと決まったか。うん、いいんじゃないか」
「おい、ちゃんと見てくれよ」
「お前が選んだんだ。それが一番に決まっている」
サザンカの花の意匠が彫り込まれた木製の髪飾り。リサイアはある面では楽観的だが、お世辞にも活発とは言えない。彼女は他者と関わるとき、相応に勇気が必要だ。だから、どんな時でも萎れずにいて欲しいと願う。
「決まったかしら」
店主はいたずらっぽく笑い、髪飾りを丁寧に箱の中に収める。エルシャールは代金を支払い、箱を慎重に手に取る。
「はい、どうぞ。きっと喜んでくれるわ」
「だと良いんだけど…、そういやおっさんは何か買わなくていいのか?」
「お前が延々悩んでいる間に済ませたよ」
「え!なんだよ、何買ったんだ?」
「お前が持っている、それ」
手に持った木の箱には妖精たちの意匠が彫り込まれ、所々にガラスが嵌められ中の装飾品が見えるような造りになっている。自分の選んだ髪飾りはちょうど妖精が手を伸ばした位置に収まっている。
「おい!めちゃくちゃ良いじゃん!」
「よし、帰るとするか。ありがとう、店主」
「いえいえ、また来て頂戴ね」

「ねえ、ちょっと」
「はい、なんでしょう?」
黒百合亭の店主は、部屋の隅から不意に呼び止められた。
「あなたでしょ。私の誕生日をバラしたの」
「え、あー、そんなこともありましたっけ……。あ、おめでとうございます?」
「やっぱり。あまり他人の個人情報は喋らないほうがいい、けど、その、今回は……ありがと。」
メリカはリサイアに向き直り、似合ってますよ、と微笑んだ。今日の彼女は珍しく髪を結い上げ、その髪を束ねるようにサザンカの花が飾られていた。

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