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【同人活動】同人作家のハイ・アンド・ロー

副題:頒布価格決めるのも楽じゃない

昨今のTwitterは、またしても同人誌の頒布価格が高いという話題で盛り上がっているらしい。「らしい」なのは私のアカウントが凍結中でタイムラインを見ることが出来ず、完全に人づて聞いただけの情報だから。「嗚呼、いつものねー」なんて思いながらくるっぷで壁打ちをキメていると、ふとこちらの記事が目に入った。

読み終えて真っ先にお伝えしたい。大変、大変お疲れ様でございます。
1000ページも書けるぐらいの情熱とひたむきさが凄い……私が長編書けなさ過ぎるのもあるけれど、本当に凄いと思う。

読みながら「すっげー」と語彙力を失いつつ、はっきりと数字が出される上で語られる同人誌頒布の実録は貴重なのでじっくりと読ませていただいた。というのも女性オタクの間では頒布数とお金の話は御法度なのか、あまり表に出てこないからだ。
ただこの数字、作ったことが無い人からすると一番欲しい情報なのではないだろうか。極論は「好きなように出せばいい」なのだが、それでもサンプルは多いほうがいいだろう。というわけでここからは私が直近で本を出した時の価格の決め方を少し書いていく。身を置いているジャンルがかなり特殊環境(注1)な上にハマってるCPも特殊(注2)なので参考になるか怪しいけれど、枯れ木でも山の賑やかしになれれば幸いである。ついでなので、作成回顧録も兼ねて進めていこうと思う。

1.仕様決め

一番最初の大事な部分。12月に赤ブーでイベントがあることに気が付いて、今参加しないと次がいつになるか分からないというのもあって衝動的に申し込みをした。そしてちょうどコツコツ書き溜めてpixivにアップしていた、特定のCPの短編が良い感じに溜まってきたのと「いつかカバー付きの文庫本を作ってみたいなー」という野望があったので文庫本を作ることに。
そしてCPの片割れが実在の作家で、その人が出した本の挿絵に雲母引きされたとても綺麗なものがあって、それが忘れられなかったのを理由に装丁はその挿絵の要素を入れることを最優先にした。

表紙のデザインを決めて、文字数からページ数を割り出して、モデルにした挿絵の仕様に一番近い紙を探して、なんなら箔押しもつけるかーと箔押しの面積を計算して、見積を印刷会社に出す。A6カバー付き文庫本、予定ページ数170ページ。本当であれば印刷費を抑えるために複数の印刷会社に当たって相見積を取るところなのだけれど、原稿当時仕事がハチャメチャに忙しかった私は、以前も頼んだことがあって且つホームページのプランが一番見やすいと感じたプリントオンさんに決め打ちして見積を依頼した。

表紙に使用したのはミランダのスノーホワイト
とってもキラキラで満足
キラキラの紙に、リフレックスの透明箔で箔押し
文字部部も寸分のズレなく押されていてとっても綺麗で大満足

私はイラストが描けない文字書きで、イラストを描く人に表紙依頼を出す勇気も度胸もコネも無いので、BOOTHなどで頒布されているイラスト素材を組み合わせてデザインを作成した。写真にチラッと写っているバーコードは国際標準同人誌番号(ISDN)というサービスに書誌情報を登録して作成して頂いたもの。無料で作成可能なので、気になる人は頼んでみて欲しい。

原稿中はというと、書き溜めてたにもかかわらず締め切りに追われるという体たらくで大変だった。しかもカバー表紙の入稿データが普段扱っている形式と全く違うもので、慣れないフォトショップをピーピー言いながら操作していたのを覚えている。

2.頒布数と頒布価格 序

頒布数、それはみんなが悩む問題のところ。私はというと冒頭で大口を叩いたが今作でまだ3冊目なので、この辺の予測は正直に言うとまだまだ経験不足だったりする(注3)
共通して決めているのは在庫として家に置いておいても邪魔にならず、かつ全て捌けきらなくても後悔しない数にすること。この後の頒布価格の話にもつながるが、回収しきれなかったとしても後悔しない出費にとどまる数だけ刷るように決めている。本の厚さにもよるけれど、A5で50部ぐらいまでなら40cm×30cm×20cmぐらいの段ボール箱1つで収まるので、部屋の片隅に置いても見ないふりができるぐらいの存在感で済む。
殆どの人は全部捌けきること=印刷費を回収しきることを前提として部数を決めていると思うので、この方針は恐らく異端と思われる。更に言えば、出そうとしているジャンルやCPの傾向と人気、Twitterやpixivでの反応にも寄っても部数は左右されるのだろう。結果的に私の場合はそれらの反応は一切当てにならないことが三回目にして分かったので、ストレス軽減のためにも自分本位で部数は決めていこうと心に誓っている。頒布数が全然足りませんでしたとなったら、その時はその時に考えればいいだけだ。商売でやってるわけでは無いのでこれくらいは断固として主張していきたい。

3.頒布数と頒布価格 破

そもそも私が同人誌を作るのは、自分が欲しいものを作って手元に置きたいからで、手元に一冊だけあれば十分だったりする。

本当に生まれて初めて作った同人誌は適当に写真素材を張り付けて表紙にPP加工しただけの簡素なもので、一冊からお願いできる印刷所さんにお願いして一冊だけ刷ってもらった。これだけでも出来上がった時はとても嬉しかった。でもやっぱりアレもしたい、コレもしてみたい、というもっと良いものにしたい欲求はあふれてくる。本文で頑張るのは当然のこととして、他で何を頑張れるかと言われたら私の場合は装丁で頑張るしかない。しかし自分が欲しい装丁の仕様は数を刷らないと作れない。だいたい30部ぐらいが最少で、大きい印刷所だとこれが50部だったり100部からになったりする。
一番最初にまとまった数を印刷するとき、今だから言えるけれど余ったのは全部自分で燃やすつもりだった。今でもいざ燃やせるようにPP加工はかけないようにしている。でもpixivなどで作品公開を続けているうちに「本は出さないんですか?」「本の通販はされないのでしょうか?」と有難い声をかけてくださることも出てきた。なので「燃やす前にまず頒布しよう」というわけでイベント参加に至り、コロナ禍以降は在庫保管の上でBOOTHにも出店して通販対応を行っている。とはいえいつまでも部屋に段ボール箱を重ねておくわけにもいかないので、発行してから1年の期限を切ってそれを過ぎたら全部処分するつもりだ。

そんなワケで、私には印刷費を回収するという考えがあんまり無い。戻ってきたらラッキーぐらいにしか思っていない。なので「印刷費がお財布に戻ってこなかったとしても耐えられる金額と部数」を諸々こねくり回して出していく。結果、この文庫本の印刷費は30部で57000円ほどになった。私自身たいして稼いでいないので、理性がある状態で出す金額としてはこれぐらいが限界。なおプリントオンさんの良いところは、凝った装丁の本でも少ない部数からお願いできる点にある。凝った装丁でで作るなら緑陽社さんも素晴らしいのだけど、あちらはそこそこまとまった部数からがスタートなので頼むとすると本気で腹を括らないといけない。今後も装丁を盛って少部数で出す時はプリントオンさんにお願いする事になると思う。

4.頒布数と頒布価格 急


斯くして印刷する部数と印刷費は決まった。続いて頒布価格の確定だが……ここでかなり悩んだ。それはもう、悩みすぎて頭が痛くなるほどに。
いくら印刷費を回収する気が無いとは言え、安すぎる金額を付けると価格破壊という意味で周りに迷惑がかかる。最低ラインの金額として、まず印刷にかかった金額を部数で割っていくと一冊当たり1900円になった。1900円、ちょっと凝ったとはいえ170ページのカバー付き文庫本が1冊1900円。この金額を弾いた時、私は目の前の本棚に差し込んでいた内田百閒の「第一阿房列車」を、作ろうとしている本と同じくらいの厚さだからという理由で取り出して眺めてみた。新潮社から出ているこの文庫本は、新品で買うと定価693円(税込)だそうである。一通り眺めて、中身も10ページほど読んでから改めて自分の本のほうに戻る。少部数なんだから仕方が無いのだけど、それでも文庫本で1冊1900円は高すぎなんじゃないか。さらにBOOTHに出す場合はBOOTHに払う手数料も考えないといけない。 BOOTHの手数料の計算方法は自宅発送の場合「(商品価格+送料)×5.6%+22円」になる。私は安心BOOTHパックのネコポスを利用しているので送料は一律370円。先ほどの1900円の原価を割らないように設定すると手数料込みで2100円になる。170ページの文庫本1冊で2100円…………流石に、ちょっと、高すぎでは。それにこれは送料が入っていないので送料も入れると2470円になる。自分で払う分にはどんと来いと言える金額だが、他人に払わせる金額となると、見合ったものなのかどうかかなり不安になる金額だ。
うろたえ始めた私は「この仕様だといくらが妥当か」とTwitter上で頒布価格のアンケートを取った。現在は凍結中なのでその時の結果を見ることはできないのだけど、記憶の中では確か1500円周辺に一番票が集まったように思う。リツイート先の反応を追いかけると意見も千差万別だった。「好きなようにすればいいよ」「出す人が無理せず続けられる範囲でつけてもろて」「そもそもプリントオンで文庫本作る時点で高くなる」「2000円超えるとなぁ」「好きな作家さんの本だったら値段なんて見ません」エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ……
この時知ったのだが、プリントオンさんの文庫本は他の印刷所さんよりも割高なんだそうだ。今回は使いたい紙とやってみたい箔押しがあったから後悔は一切していないのだけど、今後普通の文庫本を作る時は他もちょっと見た方がいいなとは考えている。
悩みに悩んで色々見ていくうちに「自分だったら箔押し分抜いた金額でつける」というご意見に出会った。なるほど、箔押しや表紙の紙の選定は私の我儘であって、本を形にする上で必須の要素かと言われるとそうではない。一番腑に落ちたこの意見を採用して、箔押しと紙変更分の差額金額を抜いた金額から弾いて1500円で設定した。BOOTHに出した時も、これに手数料を上乗せするのが気が引けてそのままで出している。
こうして考えると、頒布価格を決めるのは一種のハイ・アンド・ローのゲームだ。しかも答えが出ない厄介なやつである。唯一答えがあるとすると完売するかどうかだろうか。そういう意味では私はこのゲームには完全に負けている。
私は納得の上で限りなく下限値のローの答えを出したが、人によっては納得のいかない答えになるのだろう。それが意見として出てくるのであればそれで良いと思う。それでも気が済まない人はどうか自分で同人誌を作るときにその納得の行かなさをぶつけて欲しい。

5.終わりに

自分で振り返ってみて、いくら枯れ木とはいえちょっと特殊過ぎたかなぁと反省はしている。でも、こんな考え方もあるんだと言うことで一つお願いしたい。
そして、大量部数を刷って頒布しているアンソロジー主催者の方や大手のサークルさんがいかに凄いのかという再確認にもなった。特にアンソロジーは自分だけの判断では済まないマネージメント業も含んでくる。主催されている方には本当に頭が上がらない。こういった話題で何かしら物申したい人たちは、私に文句を言うのは構わないけどこういう人たちに石を投げるようなことは頼むからしないで欲しい。

現在はというと、本を出す予定は今のところない。でも何かの拍子に「作りたいなー」となるとは思うので、この記事を初心として臨みたいと思う。


拙作を最後まで読んで頂きありがとうございます。
感想、ご意見、何か話題にしてほしいネタのリクエストなどありましたらお気軽にコメントくださると嬉しいです。


(注1)文豪とアルケミスト:女性向けブラウザゲームとしては刀剣乱舞に次ぐご長寿ゲーム。キャラ数は86名で豪華声優かぶり無し。アニメ化もしたし、舞台は現在6シリーズ目が公演中だし、公式ノベライズの文庫本は新潮文庫から3冊出た。コラボで特集が組まれた小説新潮(創刊76年の由緒正しき小説文芸誌)2022年6月号は史上2回目の重版出来になった。なのに近代の作家を扱ってるせいか、ユーザーは私みたいな酔狂な人間を除いて検索除けをして隠れて出てこないし、自ジャンルのことをいつまで経っても人気コンテンツだと信じない。そんなよく分からない、やってることはまともなのに関わる物事が何故かとても胡乱で不思議なジャンル。
あとCPも細分化が凄くて覇権CPというものがほぼ無い。メディアミックスへの出演率でこの辺りのキャラが人気だろうという当たりはついているがそれが同人誌のはけ方につながるかと言われるとそんなこともないと思われる。少なくとも私の周りでは聞かない。

(注2)そんな女性向けゲームで男性キャラしかいないのに女性キャラを生やして男女CP書いてる(ちゃんとしたNPCなので無から生やしているわけでは無いけれど)。自分≠女キャラでは無いので自意識としては夢ではない。曲解されても困るので余計ながら書いておくが夢創作を下げる気もない。
この記事で取り上げている文庫本もその男女CPがメインの本である

(注3)同人誌作成の経験は少ないが、給料をもらっている本業が「仕様を決め、見積をして予算を組み、外注を駆使して物を作る」なので物の作成においては普通の人より多少のアドバンテージはある。
ついでに言うと上記の価格決定方法は仕事だったら絶対にやらない。


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