エルフォルビア
ギルドカウンターに《エルフキラー》の手配書が張り出されたのは二週間前だ。エルフ族ばかり殺害する異常者で、犯行は十件ほど確認された。
張り出されて一週間。ギルド受付のエルフ嬢――エウシュリーが殺害された。彼女は首を切られた状態で見つかり、首から上は発見されなかった。ギルドは恥も外聞もかなぐり捨てて、王都警備軍に協力を要請した。が、《エルフキラー》は見つからない。
深夜。俺は王都の路地裏を歩いている。廃墟に入ると、人が入れる穴があった。俺は王都のあちこちに東京から持ち込んだ監視カメラを設置している。エウシュリー殺害当日、不審な人影がここへ入った。
俺はシグ・ザウエルを構え、ライトで中を照らす。内部は整備されており、坑道の様相を呈してくる。掘削用具には日本語や英語が記されていた。なにかに蹴躓く。
エウシュリーの首だった。
道をフラッシュライトで照らすと、エルフの生首が転がっている。衝撃で息ができなくなる。俺はしゃがみ込み、時間をかけてエウシュリーを抱えた――そうしないとおかしくなりそうだった。
「ちくしょう。最後まで好きといえなかった」
走馬灯のようにエウシュリーとの思い出が流れる。しかし実際の俺は、ギルドに勤める綺麗なお姉さんを遠くから眺めていただけだ。
暫く泣いて立ち上がる。暗闇の向こうでなにかがきらめいた。
銃火――
中東で培った反射神経がなければ死んでいた。身を伏せた頭上を、鬼火のように銃弾が掠める。火線は複数、つまり《エルフキラー》は単独犯じゃない。
俺は手榴弾を取り出し、念仏を唱えながら投擲した。爆発物を察知した襲撃犯らが素早く退避する。やはりあいつらも移動者だ。
爆風。破片と轟音が通路に響く。
身を低めた俺はエウシュリーを抱え、道を戻る。俺を含めた移動者は地球出身者だ。破片手榴弾をバラ撒きながら、必ず全員生け捕りにしてやると誓う。どんな手を使おうともだ。
【続く】